日本歯周病学会会誌
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原著
2型糖尿病患者の教育入院時におけるヘモグロビンA1cと咀嚼機能および歯周炎との関係:横断研究
中澤 正絵山本 龍生武藤 恵美子清野 浩昭佐々木 修一角川 智子白井 勇太持田 悠貴渕田 慎也三辺 正人
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2020 年 62 巻 2 号 p. 74-81

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要旨

糖尿病との関連は,歯周炎では検討されているが,咀嚼機能では不明である。そこで2型糖尿病患者を対象に,糖尿病と咀嚼機能および歯周炎との関連を横断研究で検討した。

2型糖尿病の教育入院患者202名(男性126名,女性76名,年齢24~86歳,平均年齢57歳)を対象とした。医科診療録から入院時HbA1c,歯科診療録から咀嚼機能値,現在歯数,咬合支持数,Community Periodontal Index(CPI)のデータを得た。年齢等の背景に性差があったため,男女別に入院時HbA1cを目的変数,年齢,CPIコード4の有無,そして咀嚼機能値,現在歯数(20歯以上の有無)または咬合支持数のいずれかを説明変数とした重回帰分析を行った。

女性被検者群は男性被検者群よりも高齢で咀嚼機能値,現在歯数,咬合支持数が有意(p<0.01)に少なかった。

重回帰分析では,女性被検者群のCPIコード4(標準化係数:0.264)と咀嚼機能値(標準化係数:-0.263)が入院時HbA1cと有意(p<0.05)に関連した。女性被検者群の現在歯数と咬合支持数,男性被検者群の全歯科指標では入院時HbA1cとの関連がなかった。

これらから,女性被検者群では咀嚼機能値が低いほど,また重度歯周炎であるとHbA1cが高いことが明らかになった。糖尿病の医科歯科連携において,歯科専門職は歯周炎に加えて咀嚼機能にも注目する必要がある。

緒言

多くの研究から歯周炎は2型糖尿病の発症および進行のリスク因子であることが指摘されており1,2),糖尿病患者は歯周炎の罹患率が高いことも報告されている3)。なかでも糖尿病の重症患者が集まる糖尿病教育入院の患者は,歯周炎有病率が高く,歯周病に関する知識に乏しいことが報告されている4-6)。そのため,糖尿病の治療に際しては歯周炎の管理において歯科専門職との連携が推奨されている1)。一方,歯周炎患者の治療においては,近年,咀嚼機能が重要視されており7),最近提示された歯周病分類では新たに機能障害や歯数といった咀嚼機能が歯周炎の重症度に加えられ,その重要性が強調されている8)

糖尿病は歯周炎のリスクを高め3),その結果,歯の喪失リスクも高めると予想される。また,歯周炎の進行が咬合力の低下を招くこと9)や,弱い咬合力が歯周炎の進行につながる可能性も示唆されている9)。これらのことから,糖尿病は歯周炎のみならず,咀嚼機能とも密接な関係にあることが推測されるが,糖尿病と歯周炎との関係に着目した報告は多いものの1),糖尿病教育入院患者において血糖と咀嚼機能との関連を検討した研究は見当たらない。そこで本研究の目的は,糖尿病教育入院患者を対象として,入院時におけるヘモグロビンA1c(HbA1c)と咀嚼機能および歯周組織の状態との関係を検討することとした。

対象と方法

1. 対象

2015年10月から2019年9月までに富谷中央病院内科を受診し,糖尿病教育入院パスを用いた教育を目的に入院し,研究への同意を得られた2型糖尿病患者で,本研究における分析の中心指標である入院時のHbA1c,咀嚼機能値,現在歯数,咬合支持数およびCommunity Periodontal Index個人コード(CPI)のデータが全てそろっている202名(男性126名,女性76名,年齢24~86歳,年齢の平均値57歳・標準偏差14歳)を対象とした。なお,当院内科では教育入院パスに基づいて教育入院する全患者が歯科の検査を受けることとなっている。入院基準はHbA1cが目安として8%以上であるが,8%未満でも教育目的で入院となる場合がある。当院内科は2週間の教育入院パスを採用しており,入院中に食事指導,運動療法,合併症検査・教育,インスリン手技指導などが予め決められた日程に従って実施される。

本研究計画は日本歯周病学会研究倫理委員会の承認を得た(2019年6月5日,JSP2018001号)。なお,本研究は日常診療の中で既に取得されたデータに基づいた後ろ向き研究であるために,研究対象者からの同意の取得はオプトアウトによって行った。

2. 方法

対象者の性,年齢および入院時のHbA1cのデータは当院内科の診療録から入手した。咀嚼機能値10),現在歯数,咬合支持数11),O'LearyのPlaque Control Record(PCR)12),CPI13),う蝕の有無のデータは歯科の診療録から入手した。咀嚼機能値は,対象者にグミゼリーを20秒間咀嚼させた後のグルコース溶出量をグルコセンサーGS-II(ジーシー,東京)で測定したものとした。なお,咀嚼機能の評価にあたって,義歯使用者は義歯を装着した状態で行った。現在歯数,う蝕の有無,PCRおよびCPI(使用プローブ:ペリオプローブWHO,YDM,東京)は1名の診査者が評価した。咬合支持数は,可撤性補綴物を外した状態で,シリコーン印象材を用いた咬合採得によって,歯単位で評価した。現在喫煙の有無は面接によって,歯科定期受診の有無,1日当たり歯磨き回数および歯間清掃具使用の有無は自記式質問紙によって調査した。

3. 統計解析

解析にあたり,連続変数である入院時HbA1c,咀嚼機能値,現在歯数,咬合支持数およびPCRの分布をみたところ,現在歯数とPCR以外の変数は正規性がみられた(Kolmogorov-Smirnov検定)。まず,男女別に連続変数の代表値と分布,カテゴリ変数の分布をみて,連続変数のうちで正規性のみられたものはStudentのt検定,正規性のみられなかったものはMann-WhitneyのU検定,カテゴリ変数はχ2検定を用いて男女差を検討した。年齢等の背景因子に男女差が認められたため,男女別に入院時HbA1c,年齢,咀嚼機能値およびCPIとその他の変数との関連をみた。その際,正規分布しない変数も含まれていたためにSpearmanの順位相関係数を算出した。その後,男女別に,入院時HbA1cを目的変数とし,年齢,咀嚼機能に関連する指標として多重共線性を考慮して咀嚼機能値,現在歯数および咬合支持数のいずれか,そしてCPIを説明変数とした重回帰分析(強制投入法)を行い,非標準化係数,標準化係数およびその95%信頼区間と有意確率を算出した。なお,現在歯数の分布には正規性がなく,CPIは3カテゴリでスコア2の人数が少ないため,それぞれ19歯以下と20歯以上,スコア3以下とスコア4に2値化した。分析にはIBM SPSS Statistics for Windows(Version 24,日本IBM,東京)を用い,有意水準は5%未満とした。

結果

1には男女別の各項目の代表値と分布を示した。入院時HbA1cに有意な男女差はみられなかった。しかし,女性被検者群は男性被検者群よりも年齢が有意(p=0.002)に高く,咀嚼機能値,現在歯数および咬合支持数が有意(p<0.01)に少なかった。

2には男女別の入院時HbA1c,年齢,咀嚼機能値およびCPIとその他の変数とのSpearmanの順位相関係数を示した。男性被検者群では入院時HbA1cが年齢,歯磨き回数および歯間清掃具使用と有意(p<0.05)な負の相関関係を示したのに対して,女性被検者群の入院時HbA1cは年齢および咀嚼機能値と有意(p<0.05)な負の相関関係を示した。また,男女ともに咀嚼機能値は現在歯数および咬合支持数と有意(p<0.05)な正の相関関係を示した。

3と表4には,それぞれ男女における重回帰分析結果を示した。男性被検者群においては,入院時HbA1cと年齢との間に有意(p<0.05)な負の相関関係がみられたものの,咀嚼機能値,現在歯数,咬合支持数およびCPIのいずれとも有意な関連はみられなかった。一方,女性被検者群では,年齢に加えて咀嚼機能値およびCPIにおいて入院時HbA1cとの間に有意(p<0.05)な関連がみられ,その相関関係は咀嚼機能値では負,CPIでは正であった。女性被検者群においても,現在歯数と咬合支持数は,入院時HbA1cとの間に有意な関連はみられなかった。

表1

各項目の代表値および分布と男女差

表2

男女別のSpearmanの順位相関係数

表3

入院時HbA1cを目的変数とした重回帰分析結果(男性)

表4

入院時HbA1cを目的変数とした重回帰分析結果(女性)

考察

本研究では対象者の背景因子,特に年齢において有意な男女差が認められ,さらに咀嚼機能値,現在歯数および咬合支持数においても有意な男女差がみられたために,男女別に分析を行った。日本の糖尿病有病率は男性が女性に比べて高く,また高齢であるほど有病率が高いことから14),男性の方が比較的若く発症することが多いと考えられる。そのため,一般的に教育入院患者でも男性の方が女性よりも平均年齢が低くなることが推測され,実際糖尿病教育入院患者を対象とした先行研究4)でも同様の傾向が見られた。また,現在歯数は一般に男女とも高齢ほど少なく,高齢者では男性よりも女性の方が少ないこと15)が男女差に影響したと考えられる。

本研究の結果,女性被検者群の糖尿病教育入院患者において,咀嚼機能値と歯周炎重症度はそれぞれ独立して入院時HbA1cとの間に有意な相関関係があることが明らかになった。すなわち,咀嚼機能値が低い者ほど,そして6 mm以上の歯周ポケットを有する者ほど,糖尿病が重症であった。なお,咀嚼機能値とCPIにおいて,重回帰分析における標準化係数の絶対値がほぼ等しいことから,両者の糖尿病重症度との関連は同程度であると考えられる。

咀嚼機能の低下が糖尿病に与える影響として,食事内容の変化と食事時間の変化が考えられる。すなわち,咀嚼機能が低下すると自然と硬い物を避けるようになり,結果として野菜の摂取が減り,糖質の摂取が増えるようになると考えられる16)。また,同じ物を食べていても咀嚼時間が短くなり,丸飲みするようになるかもしれない。咀嚼はインクレチン効果にも重要と言われており17-19),これらの変化が高血糖を誘発すると考えられる。なお,本研究は相関関係をみているに過ぎず,糖尿病が咀嚼機能の低下を招く可能性も充分に考えられる。例えば,高血糖そのものや糖尿病神経障害が筋力を低下させる可能性がある20)

さらにもう一つ重要な仮説として,インスリン抵抗性による脂肪筋21)やフレイル/サルコペニア22)が,糖尿病と咀嚼機能低下の両方を引き起こしている可能性も考えられる。重回帰分析の結果では,男性被検者群では咀嚼機能とHbA1cに有意な関連がみられなかった。患者背景の差として,男性被検者群の方が年齢が低く,咀嚼機能値が高かったことが挙げられる。50代の男性被検者群ではフレイルに至っているケースが少なく,フレイルが咀嚼機能や糖尿病に影響を与える程には至っていないと思われる。一方,60歳の女性被検者群ではフレイルを起こしている患者が一定数おり,それが咀嚼機能とHbA1cに影響していたと考えることができる。現実的には,これらの要因が互いに複雑に関係しあっていることが推測されるが,今後,対象者数を増やした更なる研究が求められる。

女性被検者群の重回帰分析の結果において,咀嚼機能値を現在歯数または咬合支持数に置き換えた場合,現在歯数と咬合支持数のいずれも入院時HbA1cとの間に有意な関連はみられなかった。これらの結果から,単なる残存歯よりも,補綴物を含めた機能歯の点からみた咀嚼機能が糖尿病の重症度と関連すると言える。この結果は,現在歯数が同一な場合に補綴処置をしている者の方が未処置者よりも認知症や死亡のリスクが低いという結果23,24)と矛盾しない。本研究は横断研究であり因果関係は不明であるが,天然歯の維持や義歯による咬合の回復が咀嚼機能の維持と向上につながり,バランスの良い食事をとるための環境を提供することによって糖尿病の重症化予防に寄与できるかもしれない。

本研究の対象者の6割以上が6 mm以上の歯周ポケットを保有していた。これは2016年歯科疾患実態調査結果における20歳以上の有所見率3~15%よりもかなり高い値であった。また,糖尿病教育入院患者を対象とした先行研究4-6)の29~82%の範囲内であった。

加えて,対象者の多くの口腔内状態と歯科保健行動が不良であった。半数以上がう蝕に罹患し,3分の2以上が歯科定期受診をしておらず,半数以上が歯間部清掃具を使用していなかった。また,男性被検者群では3割以上が喫煙し,1日当たりの歯磨き回数が1回以下であった。先行研究においても糖尿病教育入院患者の歯科に関する知識不足が指摘されている6)。今後は,糖尿病教育入院のパスに歯科が組み込まれ,歯周炎に加えて咀嚼機能の改善までを含めたプログラムが提供され,その効果が確認されることが望まれる。

なお,本研究は1病院における糖尿病教育入院の患者を対象としており,この結果を一般化するためには多施設での研究を踏まえて確認する必要がある。また,本研究は日常診療の中で既に取得されたデータに基づいて行われたため,CPIによる歯周病の検査値が用いられた。しかし,CPIは代表歯による部分診査であるため,歯周組織の状態を正確に把握できているとは言いがたい25)。また,糖尿病と密接な関係がある歯周組織の炎症状態を反映するプロービング時出血や歯周ポケット内炎症面積(PISA)による評価26)も行われていない。従って,全顎的な検査によって様々な点から評価された歯周組織の状態を用いた更なる研究が必要である。さらに,本研究は横断研究であるために入院時HbA1cと咀嚼機能および歯周炎との関連における因果関係を結論づけることはできず,縦断研究によって更なる検討が必要である。

結論

糖尿病教育入院患者を対象として,入院時HbA1cと咀嚼機能および歯周炎との関連を検討した。その結果,特に女性被検者群において,年齢を調整しても入院時HbA1cは咀嚼機能値と有意な負の,歯周炎重症度と有意な正の相関関係が認められた。これらの結果から,糖尿病教育入院患者において,歯周炎のみならず咀嚼機能の改善を含めた医科歯科連携を行うことが重要であることが明らかになった。

謝辞

本研究にあたり,研究への参加を同意してくださった対象者の方々に感謝申し上げます。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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