日本歯周病学会会誌
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原著
歯周炎新分類に基づく診断と歯の喪失との関連性評価
島袋 善夫沢田 啓吾小清水 まみ品田 和子浅井 晴美溝口 あゆみ林 裕子塚本 明奈宮後 緑西原 風香西端 隆子島袋 美千代岩山 智明藤原 千春竹立 匡秀村上 伸也
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2021 年 63 巻 3 号 p. 129-142

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要旨

2017年にworld workshopにおいて策定された歯周炎新分類の,本邦における臨床評価が定まっているとは言いがたい。本研究の目的は,歯周炎新分類をretrospectiveに対象被験者に適用し,歯周炎新分類と歯の喪失との関連性を検討することである。被験者総数700人(男性211人,女性489人)の初診時平均年齢は54.4±11.9歳で,被験者の受診期間は6~214ヶ月であった。ステージI,II,IIIおよびIVの被験者数はそれぞれ,21人,142人,392人そして145人であり,グレードA,B,Cの被験者数はそれぞれ10人,386人そして304人であった。ステージ分類した被験者の平均年齢はステージ上昇とともに高くなっていた。歯を喪失した被験者の割合はステージ,グレードの上昇とともに増加した。ステージIおよびステージIIグレードA被験者では,歯の喪失者はなかった。喪失歯進行度(患者一人当たりの年間平均喪失歯数)は,ステージIIグレードB,ステージIIIグレードB,ステージIIIグレードC,ステージIVグレードB,そしてステージIVグレードCでは,それぞれ0.01±0.05(歯/患者/年:以下同),0.06±0.19,0.11±0.23,0.13±0.22,そして0.58±1.04であった。以上から,歯周炎新分類による診断と歯の喪失を指標とした予後は強く関連することが明らかとなった。

緒言

1999年に歯周炎分類(以下歯周炎旧分類)1)が発表され,本邦においては,これを基にした日本歯周病学会による歯周病分類システムがこれまで用いられてきた。その後,2017年アメリカ歯周病学会・ヨーロッパ歯周病連盟共催ワークショップにおいて歯周炎の新規分類(以下歯周炎新分類)が策定され,翌2018年にその結果がコンセンサスレポートとして発表された2)

この歯周炎新分類では,これまで用いられてきた慢性歯周炎,侵襲性歯周炎という分類名がなくなった。そして,臨床的アタッチメントロス(CAL),骨吸収率や歯の喪失を指標とした歯周炎の重症度に,プロービングポケットデプス,分岐部病変や咬合崩壊などの歯周治療を複雑にさせる要因を加味して規定された4段階のステージと,歯周炎の進行速度を判定した3種類のグレードが決められた。このステージとグレードを組み合わせて表記した新しい枠組みが歯周炎新分類として導入された。

ステージ(病期)分類は,元々がんの進行度と広がりを組み合わせて作成された分類の1つであり,臓器別にも分類されている。ステージは適切な治療法を決定する際の重要な指標であり,ステージ別の治療成績評価から,予後を予測することが可能となっている。

歯周炎の治療においては,アクティブな治療後に適切なメインテナンス/SPTを行うことで多くの患者で良好な予後が得られることが報告されている3-8)。一方,歯周炎の発症や進行を的確に予測できる予知モデル構築の試みがなされているが,十分に機能しているとは言いがたい5,9,10)

歯周炎新分類において,その分類が予後とどのような関連性を持つのかは,生涯に渡って健康な歯周組織の維持に携わろうとする臨床家にとって大いに興味あるところである。本研究の目的は,一般歯科医院に通院する患者を対象に,retrospectiveに歯周炎新分類を適応し,その分布状況,患者背景および歯の喪失状況を調べ,歯周炎新分類と歯の喪失との関連性について検討をおこなうことである。

材料と方法

1. 被験者

大阪のある一般歯科医院にて2002年11月8日から2020年12月15日までの期間に受診歴のある患者のうち,初診時の問診票,診療録,口腔内診査,歯周組織検査と全顎のエックス線検査から歯周炎新分類のステージとグレードの決定が可能で,初診から6ヶ月以上歯周治療を受けている患者のうち歯周病専門医による口腔機能回復治療終了後の再評価を終了している患者を抽出し,そして受診間隔が6ヶ月以上生じた患者を除外して解析対象とした。

本研究はヘルシンキ宣言を遵守して計画され,日本歯周病学会倫理委員会にて承認(令和3年2月5日承認,承認番号 第JSP2020001号)の後,実施された。本研究では,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に従い,治療を受けた被験者の包括同意を得て,解析に用いた情報は個人が特定できないように匿名化した。

2. 臨床検査項目および患者情報

初診時の患者問診票,口腔内診査資料および診療録から,糖尿病罹患の有無,HbA1c値,喫煙歴および1日の喫煙本数,性別,初診時年齢,初診時現在歯数,初診からの治療期間,受診期間中の喪失歯数と主たる喪失理由,現在歯の6点法によるプロービングポケットデプス,Millerの分類による動揺度,Lindhe & Nyman11)による分岐部病変2度以上の有無,二次性咬合性外傷の有無,歯の病的移動やフレアーアウトの有無,そして対合歯のある歯数を調査した。ただし,埋伏あるいは半埋伏智歯については,現在歯数や喪失歯数の対象から除外した。

初診時の全顎のデンタルあるいはパノラマエックス線画像から,最重度罹患歯の歯根長に対する骨吸収率をscheiのルーラーを用いて計測した。

3. 歯周炎新分類の診断

上述の抽出臨床データを基に,指導医資格を持つ歯周病専門医が歯周炎新分類の基準2,12)に従い,歯周炎新分類のステージおよびグレードを決定した。

本研究ではCALデータが揃っていなかったために,診断基準にCALを用いることができなかった。そのため,骨吸収率を用いてステージングとグレーディングをおこなった。

ステージの決定は以下の方法でおこなった。

エックス線画像上で最も骨吸収が著しい歯について,同歯の歯根長に対する骨吸収率が1/3を超える場合にステージIIIあるいはIVとした。同歯の骨吸収率が1/3未満の場合であっても,2度ないし3度の分岐部病変の有無,プロービングポケットデプス>5 mmの有無,歯周炎が原因と思われる歯の喪失の有無を,診査資料を基に確認あるいは判断し,いずれかの項目がある場合には同じくステージIIIあるいはIVと診断した。そして,骨吸収率が1/3未満で,上述のいずれの項目も存在しない場合にはステージIあるいはIIとした。なお,プロービングデプス>5 mm以上の基準については,該当部位のエックス線画像で骨吸収が認められる場合のみを対象とした。

前述のステージIあるいはステージIIと分類された症例に対しては,最大骨吸収率が<15%の場合にはステージIと分類し,15~33%の場合はステージIIと分類した。

ステージIIIあるいはステージIVと分類された症例に対しては,歯周炎により喪失した歯が4歯以内,対合歯の存在する歯のペアが10対以上存在するという条件に加えて,二次性咬合性外傷(動揺度2度以上),咬合崩壊,歯の病的移動,フレアアウト,もしくは重度の歯槽堤欠損がないと確認,あるいは判断した場合にはステージIIIと分類した。そして,これらの条件を満たさない症例,すなわち歯周炎により喪失した歯が5歯以上,対合歯の存在する歯のペアが10対未満,咬合崩壊,歯の病的移動,あるいはフレアアウトの各項目がひとつでも存在する,と確認あるいは判断した症例はステージIVと分類した。

グレードの決定は以下の方法でおこなった。

初診時には,それ以前の歯周組織検査やエックス線画像がなかったために,初診時のエックス線画像により計測した最重度歯の骨吸収率/年齢を用いてグレードの評価をおこなった。まず,骨吸収率/年齢が,<0.25の場合にはグレードA,0.25~1.0の場合にはグレードBと暫間的に分類し,そして>1の場合にはグレードCと分類を決定した。次に,暫間的分類がグレードAまたはグレードBとした症例では,HbA1cが正常値範囲内であり,非喫煙者でもある場合には,グレードを変更することなくそのまま最終グレード分類とした。一方,HbA1cが<7.0の糖尿病患者もしくは1日10本未満の喫煙者である場合にはグレードB(暫間的分類がグレードBであれば変更無しとなる)に,HbA1cが>7.0もしくは1日10本以上の喫煙者である場合はグレードCにアップグレードして最終グレード分類と決定した。

4. 歯周治療

被験者には通法に従い,歯周組織検査,診断の後,治療計画を策定して,口腔衛生指導,スケーリング,ルートプレーニングを主体とした非外科的な歯周基本治療をおこなった。再評価後に,歯周病専門医が必要と判断し,被験者の同意が得られた場合には歯周外科処置をおこない,また必要に応じて口腔機能回復治療をおこなった。歯周外科処置にはヘミセクション,歯根分離,トンネリング,歯根切除,リグロスやエムドゲインを用いた歯周組織再生治療などが含まれた。修正治療終了後のメインテナンス/SPTは歯周組織の状態,被験者のプラークコントロール状況に応じて1~6ヶ月間隔で,口腔清掃指導,専門的機械的歯面清掃,スケーリング,歯周ポケット内抗菌薬投与,外傷性因子の除去などの処置がなされ,深いポケットが残存している場合には適宜再ルートプレーニングが行われ,病状が進行したと判断された場合には歯周ポケット掻爬術や歯周外科処置が行われた。

5. 抜歯の判断基準

本研究で取り扱った抜歯は,アクティブな治療中とメインテナンス/SPT期間中を含めたものである。本研究はretrospectiveな研究であるため,抜歯に際してあらかじめ決められた基準が設けられていた訳ではなかったが,抜歯適応とした判断基準を列挙する。

・水平性あるいは垂直性の歯槽骨吸収,もしくは動揺が著しく,十分な歯周治療がおこなえないと判断した場合。

・アクティブな歯周治療をおこなったが,経過がおもわしくなく予後不良と判断した場合。

・欠損補綴に際し,鉤歯や支台歯として保存できないと判断した場合。

・垂直性の歯根破折が見られた場合。

・歯内病変があり,根管治療あるいは外科的歯内治療によって症状が改善されなかった場合。

・歯肉縁下の深いう蝕あるいは根破折があり,補綴修復処置が行えないと判断した場合。

・歯が歯列から外れ,あるいは傾斜して口腔清掃に著しく支障をきたしている場合。

・審美的理由。

主だった判断基準を掲げたが,上記基準のみで全ての抜歯症例を網羅して説明できたわけではない。個々の症例において抜歯となった理由はさまざまかつ複合的で,該当歯以外の状況によっても抜歯の判断は影響を受けていた。また,術者が抜歯適応と判断しても,被験者がそれを受け入れない症例も存在した。

6. 統計解析

年齢を変数とした2群間の平均値の有意差検定はStudent's t-testを用い,それ以外の変数で2群間の平均値の比較はMann-Whitney U testを用いた。また3群以上では,年齢を変数とした平均値の有意差検定はOne-way ANOVA,post-hoc Tukey testを用い,それ以外の変数ではKruskal-Wallis testを用いた。正規分布性の検定にはShapiro-Wilk normality testを用いた。統計解析にはEZR version 1.53を用いた。

結果

1. 対象被験者

解析対象となった被験者総数700人(男性211人,女性489人)の平均年齢±標準偏差(以下同)は54.4±11.9歳(男性55.4±12.4歳,女性54.0±11.9歳)であり,被験者の年齢分布(21歳~87歳)はShapiro-Wilk normality test(p-value=0.45)で正規性が棄却されず,度数分布グラフから正規分布と判断された。そして初診時の平均現在歯数は26.1±3.7歯(男性26.3±3.8歯,女性26.0±3.7歯)であった。被験者の平均受診期間は71.2±39.2ヶ月(男性74.2±41.1ヶ月,女性69.9±38.4ヶ月)で,受診期間別の被験者数を表1に示した。被験者全体のうち喫煙者は70人,元喫煙者は124人,そして糖尿病は13人であった。

表1

被験者の受診期間分布

2. 歯周炎新分類の分布

被験者の歯周炎分類分布実態を把握する目的で,retrospectiveに歯周炎新分類を適応し,また年齢階層別にも調査した。対象となった被験者を初診時のデータを基に歯周炎新分類基準に従って分類すると,半数以上がステージIII(392人:56.0%)であり,次いでステージIV(145人:20.7%)とステージII(142人:20.3%)がほぼ同数で,ステージIが21人(3.0%)であった(図1)。グレードについてはグレードBがほぼ半数(386人:55.1%)を占め,次いでグレードCが304人(43.4%)であり,グレードAはわずかに10人(1.4%)であった。ステージII被験者のほとんどがグレードBであり,ステージIIIではグレードBとグレードCがほぼ半数ずつ,そしてステージIVではグレードCが2/3程度を占めていた。

年齢階層別に新分類の被験者数を検討すると,ステージII被験者は40歳代をピークに20,30歳代から70歳代の幅広い年代に分布していた(図2)。そして,ステージIII被験者は50歳代をピークに20,30歳代から70,80歳代にかけてステージII被験者よりやや年齢層高く分布し,ステージIV被験者は50,60歳代を中心に40歳代から70,80歳代にかけて,さらに高い年齢層に分布していた。

グレードA被験者は10人であったが,その分布は40歳代と50歳代にステージIグレードA被験者が各1人,60歳代にステージ1グレードA被験者が2人とステージIIグレードA被験者が6人存在した。

次に年齢階層ごとの歯周炎新分類比率について調べた(図3)。ステージII被験者は20,30歳代において34.7%を占めていたが,年齢の上昇とともに各年齢階層内のステージII被験者の比率は低下した。年齢階層内のステージIII被験者の比率は,20,30歳代から年齢の上昇とともに微増して50歳代で58.4%とピークとなり,その後は徐々に減少した。ステージIV被験者は,20,30歳代では4.0%であったが,その割合は年齢上昇とともに大きく増加していた。

各年齢階層内で最も多くを占めたのはステージIII被験者であった。このステージIII被験者のうち,各年齢階層内でのグレードBとグレードCの割合は,若年者階層ではグレードB被験者よりもグレードC被験者の比率の方が高かった。しかし,年齢階層の上昇とともにグレードB被験者の割合が増加し,60歳代以降でその比率は逆転していた。

ステージIV被験者では,20,30歳代と40歳代ではグレードCのみであったが,年齢階層が上昇するとグレードB被験者の割合が徐々に増加し,70,80歳代ではグレードBとグレードC被験者の割合はほぼ同程度であった。

図1

歯周炎新分類による被験者分布

図2

年齢階層別歯周炎新分類による被験者分布

図3

年齢階層別歯周炎新分類被験者の割合

3. 歯周炎新分類被験者の年齢と初診時現在歯数

歯周炎新分類の患者背景を知る目的で,歯周炎新分類の被験者年齢と現在歯数について検討した(表2)。

新分類のステージ別に被験者の平均年齢を比較すると,ステージIからIVへと順にステージが上がるごとに平均年齢は高くなり,4つのステージ分類間で有意差を認めた。一方グレード分類では,グレードA被験者の平均年齢が,グレードB被験者あるいはグレードC被験者の平均年齢に比較して高かったが,グレード間の被験者平均年齢には有意差はなかった。

ステージ分類と平均年齢との間には関連性がみられたが,グレード分類と年齢との間には関連性がみられなかった。しかし,その一方,各年齢層別にみたステージ内のグレード分類比率が年齢層の変化とともに変動し,若年層でグレードの高い被験者の割合が高くなる傾向がみられていた(図3)。そこで,ステージ内でのグレード分類被験者間の平均年齢に差異があるか否かを検討する目的で,ステージ別にグレード分類被験者の平均年齢を調べた(表2)。その結果,いずれのステージ内においても,グレードの低い被験者の平均年齢が,グレードの高い被験者の平均年齢よりも有意に高くなっていた。

次に,初診時の現在歯数について検討した(表2)。ステージ間で初診時現在歯数を比較すると,ステージIV被験者の平均現在歯数が他のすべてのステージ被験者の平均現在歯数に比較して有意に低かった。グレード分類間で被験者の平均現在歯数を比較すると,グレードC被験者の現在歯数がグレードAおよびグレードB被験者のそれよりも有意に低かった。

続いてステージ内で各グレード間の被験者の初診時平均現在歯数を比較した。ステージI,ステージII,およびステージIII被験者内で,グレード間で平均現在歯数に有意な差は見られなかった。一方,ステージIV被験者内ではグレードC被験者の平均現在歯数はグレードB被験者のそれに対して有意に多かった。

表2

被験者の歯周炎新分類別年齢と現在歯数

4. 歯周炎新分類と喪失歯数との関連性

歯周炎新分類における歯の喪失状態を知る目的で,歯周炎新分類別に歯の喪失被験者の割合および歯の喪失理由について検討した(表3, 4)。

被験者700人中,受診期間中に歯を失った人は213人で喪失歯数は総数452歯であった。

歯周炎新分類別に歯を喪失した被験者の割合は,ステージ上昇,またグレード上昇と相まって増加した。ステージIV被験者において,歯を喪失した被験者の割合は,グレードC被験者よりも約1.5倍高かった。

続いて,各ステージ内のグレード分類別に歯の喪失被験者の割合を調べた。ステージIII被験者,ステージIV被験者ともに,グレードBよりもグレードCと分類された被験者の方が歯を喪失した被験者割合が増加していた。

さらに,歯の喪失理由について注目すると,喪失歯全体452歯のうち,歯周病が原因の喪失歯数が最も多く,次いで歯根破折によるものであった。歯の喪失理由が歯周病である割合は,ステージIV被験者とグレードC被験者で著しく高かった。そしてステージIVグレードC被験者では,歯の喪失理由が歯周病である割合は90.6%と喪失歯のほとんどを占めていた。その一方で,グレードB被験者では,ステージ分類に分けた場合を含めて,喪失歯のうち,歯の喪失理由が歯周病である割合が1/2以下であった。

表3

歯周炎新分類別歯の喪失患者の割合

表4

歯周炎新分類別喪失歯数とその喪失理由

5. 歯周炎新分類と喪失歯進行度との関連性

歯周炎新分類とその予後との関連性を調べる目的で,歯周炎新分類のステージ別およびグレード別に被験者の喪失歯進行度(患者一人当たりの年間平均喪失歯数)を検討した(表5)。ステージIとグレードA被験者では喪失歯は見られなかった。喪失歯進行度はステージならびにグレードの上昇と連動して増加し,ステージIVおよびグレードC被験者の喪失歯進行度は,それぞれ他の分類被験者のそれに比較して有意に高かった。また,歯周病が原因である場合の,歯の喪失歯進行度も同様であった。

続いて,ステージ分類とグレード分類を組み合わせることで歯周炎新分類がその予後をより精度高く予知することができるか否かを知る目的で,ステージとグレード併記分類別に喪失歯進行度を検討した(図4)。その結果,ステージIVグレードC被験者の喪失歯進行度が他群と比較して,突出して高く,症例数の少ないステージIグレードAを除く全ての群に対して有意差があった。また,ステージを逆転して喪失歯進行度が高くなることはなく,また同じステージ内ではグレードの高い方が喪失歯進行度が高かった。

被験者の喪失歯進行度のうち喪失理由が歯周炎である場合も,前述と同様の傾向を示した(図5)。ただ,有意差はなかったが,ステージIIIグレードC被験者の喪失歯進行度はステージIVグレードB被験者の進行度より高かった。

表5

ステージ別,グレード別喪失歯進行度

図4

歯周炎新分類による喪失歯進行度

:p<0.01,**:p<0.05

a:平均±標準偏差

図5

歯周炎新分類による,歯周病を原因とする喪失歯進行度

:p<0.01,**:p<0.05

a:平均±標準偏差

考察

本研究で対象となった被験者は,一般歯科医院で歯周病専門医が治療をおこなっている患者が対象で,700人の被験者は,年齢が50歳代をピークとした正規分布集団で,6ヶ月から最長17年10ヶ月の受診期間の患者であった。この集団に初診時のデータを基に歯周炎新分類を適用したところ,歯周炎新分類の患者の特徴が示され,歯周炎新分類と予後との関連性も認められた。

700人の全被験者中,歯周炎新分類のステージIII被験者が最も多く,ステージI被験者は少なく21症例であった。本研究ではCALデータが揃っていなかったために診断基準にCALを用いることができなかった。そのため,歯周炎重症度のステージ決定にはエックス線画像の解析による骨吸収率を用いた。健康な歯周組織であってもセメントエナメル境から歯槽骨頂との距離が1~3 mmと報告され13,14),また日本人の平均歯根長が切歯,側切歯では10.8~12.2 mm,大臼歯では9.9~12.0 mmであること15)を考えると,エックス線画像を基準にステージングを行った場合には,骨吸収率が<15%を満たす症例は多くなく,ましてや歯周治療を希望して来院する患者の中でステージI症例に遭遇することは希であろう。CALを基準にした場合には,エックス線画像を基準にした場合とは違い,ステージI被験者数を含め,各ステージ被験者数分布は異なるであろう16)

ステージ分類が上昇するとステージ分類別被験者の平均年齢も増加していた。年齢階層別にステージ分類分布状況の特徴を見ると,20歳から80歳にかけて,それぞれの年齢階層の中でステージIII被験者の比率は多少上下変動しているが,50~60%程度で大きくは変化していない。それに対して,ステージII被験者の比率は,年齢階層上昇とともに徐々に減少していた。そして,ステージII被験者に取って代わるように,ステージIV被験者の比率が上昇していた。このような年齢階層別ステージ分布の変移が,ステージ分類と被験者平均年齢との相関に反映されたと考えられる。

80歳代の被験者は13人で,ステージIIIグレードBの7人を含めて11人がグレードBであった(結果には示さず)。今後医院を受診する80歳代の患者は増加すると思われるが,通院できる患者は全身状態に大きく依存することが予想されるため,外来受診患者が80歳代の全体像を必ずしも表すわけではないだろう。

グレードの主な評価は骨吸収率/年齢であるため,同じステージであれば年齢が低いとグレードが高くなる傾向が生じる。ステージ分類で最も被験者数の多かったステージIII被験者においても,若年層ではグレードC被験者割合がグレードB被験者割合よりも多く,50歳代と60歳代を境にその比率が逆転して,高齢者層ではグレードB被験者割合の方が多かった。ステージIII被験者の喫煙率は年齢とともに減少し60歳代以降プラトーになっていた(結果には示さず)。本研究対象者の喫煙率は平均で10%程度であったため,この要因による影響は少ないと思われるが,喫煙率は若年層でグレードC被験者の割合が高かった事象の,複合的な要因の1つかもしれない。また,ステージIII被験者を50歳代以下と60歳代以上に群分けして,両群の喪失歯進行度を比較検討すると,興味深いことにグレードB被験者では50歳代以下の喪失歯進行度(0.05±0.16歯/患者/年,n=118)と60歳代以上の喪失歯進行度(0.08±0.23歯/患者/年,n=77)との間には有意差がなかったのに対し,グレードC被験者においては,60歳代以上の喪失歯進行度(0.17±0.34歯/患者/年,n=54)は50歳代以下の喪失歯進行度(0.09±0.16歯/患者/年,n=143)よりも有意に高かった(p<0.05)。同じグレードCと分類されても,50,60歳代を分岐点として年齢階層によって歯周炎の進行度に違いがあるのかもしれない。年齢階層別にグレード分類と予後との関連を調査することは,歯周炎の進行パターンを理解する上で,今後興味あるテーマである。

歯周炎新分類では,喪失歯を考慮するステージングとは異なり,グレードの判定基準に喪失歯評価を組み入れない。間接的なグレード評価において,口腔内のほとんどの歯がグレードBに該当しても,グレードCに該当する高度骨吸収歯が残存すれば,その症例はグレードCと判定される。しかし,その最重症度の歯が失われた後に診断することになれば1口腔単位では,グレードBと判定される。とりわけ,ステージIVのような重度歯周炎症例ではこのような症例が少なくないであろう。

ステージIV内でグレードC被験者の喪失歯進行度は,喪失理由に限定がかからない場合だけでなく,喪失理由が歯周病である場合に限っても,ステージIVのグレードB被験者よりも著しく高かった。そして,ステージIV被験者ではグレードC被験者の方がグレードB被験者よりも初診時の平均現在歯数が有意に多かった。これらのことから,ステージIVグレードC被験者は,ステージIVグレードB被験者よりもより多く,保存の危ぶまれるような高度骨吸収歯を保有していたことがうかがわれる。また,ステージIVグレードB被験者の平均年齢が,ステージIVグレードC被験者の平均年齢よりも高いのは,高度骨吸収歯が失われた後で受診している被験者の存在を類推させる。

グレード決定を初診時から5年前の資料と直接的に比較する方法において,5年前のエックス線画像で高度骨吸収歯があって,初診時にその歯が失われていた場合は,歯周炎進行の概念からすればそれはグレードCに該当するかもしれない。しかし,歯周炎新分類ではそのような症例に対する明確な判断基準は示されていない。

グレードA被験者はほとんど見られず,全被験者700人中わずか10人であった。それらの被験者はステージIとIIに分布し,ステージIIIとステージIVには存在しなかった。本研究ではCALデータがなかったために,初診時エックス線画像を基にステージ分類を行い,またエックス線画像と年齢による間接的な方法でグレードを分類した(材料と方法の項を参照)。この診断方法では,ステージIIIおよびステージIV患者は骨吸収が歯根長1/3を超えているために,グレードA基準(骨吸収率/年齢<0.25)を満たす患者は事実上存在しない。またステージII(15%~骨吸収率~33%)と診断された場合,60歳以下ではグレードAと判定されることはない。グレード判定の直接的な方法では,グレードAは5年間の骨吸収あるいはアタッチメントレベルに変化がない場合としている。歯周治療を受けていない成人を対象としたシステマティックレビューでは,平均年間アタッチメントレベルの変化分布を調べ,20パーセンタイルと80パーセンタイルがそれぞれ-0.23 mmと0.45 mmと報告している17)。従って,グレード分類基準の直接的な判断基準に従えば,あるいはCALをグレードの診断基準に用いれば,グレードA基準を満たす症例はもっと多くなるのかもしれない。歯周炎新分類のグレード設定基準については,CALや過去のデータを用いずにエックス線画像に基づいた骨吸収率/年齢のみとし,グレードAとグレードBのしきい値を0.5,グレードBとグレードCのしきい値を1.0に設定することを推奨する異論もある18)

歯周炎新分類では糖尿病と喫煙が歯周病を悪化させる因子として,グレード分類を行う際の修飾因子となっている。本研究の対象者では,糖尿病患者は13名,喫煙者は70名で,一般成人の集団としてはその有病率や喫煙率は低いと思われた。これら歯周病増悪因子が存在するという理由でアップグレードの対象となった被験者は糖尿病被験者で1人(グレードBからCへ),喫煙者で5人(グレードAからBとグレードBからCがそれぞれ,3人と2人)であった(結果には示さず)。また,本研究対象者には元喫煙者が124人存在した。過去の喫煙状況や禁煙の時期などは歯周炎の進行に影響を与えていたであろう。グレード判定の修飾因子となる歯周炎増悪因子と歯周炎新分類との関連性について検討を行うには,より大規模な集団を対象にし,さらに詳細な情報が必要と考えられた。

歯を喪失した被験者の割合はステージあるいはグレード上昇とともに増加していた。しかし,本研究被験者の受診期間は6ヶ月から17年10ヶ月とバリエーションがあり,被験者の受診期間の長短が被験者のステージ分類あるいはグレード分類比率に偏りをもたらしている可能性が考えられた。結果には示していないが,受診期間を3年まで,4~6年,7~9年,10~18年と被験者全体を4階層にわけて歯周炎新分類の比率に差がないかどうかを検討したが,受診期間による階層間でステージ分類,グレード分類いずれにおいてもその比率に有意な差は見られず,同等と判断された(結果には示さず)。今後は被験者を受診期間別に区分して,横断的,そして縦断的に詳細な解析が必要であろう。

歯の喪失理由について検討すると,グレードB被験者では歯周病起因の喪失歯の割合が42.0%であったのに対し,グレードC被験者では83.2%を占めていた。グレードC被験者でこの比率が高くなるという傾向は,ステージIII被験者のグレードBとグレードC被験者間では小さかったが(49.2% vs 68.9%),ステージIV被験者内では顕著であった(39.4% vs 90.6%)。したがって,グレード分類でCに判定されることは,歯周病進行速度が早いという評価通りに,歯の喪失が見られた場合に,歯周病に起因して歯を喪失する可能性が高い被験者,特にステージIVではより明確であることが示された。

歯周炎新分類別に喪失歯進行度について比較すると,ステージIVグレードC被験者が0.58±1.04(歯/患者/年)と突出して高い数値を示した。このことは,歯周炎新分類と歯の喪失リスクとの関係を示した報告19-21)とも一致する結果である。一方,ステージIVグレードC以外の歯周炎新分類被験者の喪失歯進行度で,最も高い値を示したものはステージIVグレードB被験者の0.13±0.22(歯/患者/年)であった。メインテナンス期間中の喪失歯進行度ではあるが,システマティックレビュー22)では5年あるいは12-14年の受診期間中の喪失歯進行度がそれぞれ0.15±0.14(歯/患者/年)と0.09±0.08(歯/患者/年)と報告されている。本研究で示された喪失歯進行度と比較すると,歯周炎新分類で,ステージIVであってもグレードB以下であれば,あるいはグレードCであってもステージIII以下であれば,歯の喪失をほとんど伴わずに良好なメインテナンス/SPTが可能と考えられる。

歯周炎新分類と歯の喪失を検討した報告19,21)では歯周炎新分類と歯の喪失予後と関連性のあることが示されている。本研究の被験対象者集団の平均年齢はこれら2つの報告にある被験者群よりも高かったが,初診時平均現在歯数は多かった。その一方,歯周炎新分類被験者比率がやや重度にシフトしていると思われた。しかし,歯周炎新分類と歯の喪失予後との関連性については,本研究でも彼らの報告と同じ傾向が示された。ただ,受診期間が20年を超えた症例ではその関連性が薄れると報告されている19)。また,歯周病が原因である歯の喪失と歯周炎新分類との関連について研究された最新の報告21)では,平均23年の長期フォロー被験者を対象として,両者に高い関連性のあることが示されている。今後はさらに長期経過症例を増やして検討すべきと考える。

今回の研究では,歯周炎新分類で示されている歯周炎の範囲については検索を行わなかった。歯の喪失については,広汎型と限局型では差があり,ステージIVやグレードCでは広汎型の方が歯の喪失が多いこと21)を考えると,新分類の歯周炎範囲を併せて適用することで,歯の喪失に対する歯周炎新分類の歯の喪失に対する予知精度はさらに高まるであろう。

今回の被験者集団には,初診時に歯周炎旧分類における日本歯周病学会が示した定義23)を基準として,侵襲性歯周炎と診断した被験者が31人(平均年齢36.9±4.5歳)含まれていた(結果には示さず)。そのうち28人はステージIII(平均年齢36.8±4.7歳)であり,3人がステージIV(平均年齢38.7±2.5歳)に分類され,全ての被験者が歯周炎の進行度の強いグレードCに該当していた。Graetzら16)は同じ被験者に対し,歯周炎の新旧分類比較をおこない,歯周炎旧分類の侵襲性歯周炎患者の半数以上が,歯周炎新分類のステージIIIグレードCに,残りのほとんどがステージIVグレードCに該当することを報告している。本研究においてもGraetzら16)の報告に準じた傾向であったと考える。

バイオフィルム量や年齢に比して進行した歯周炎である侵襲性歯周炎であっても,治療に対する反応性が悪いわけではなく,慢性歯周炎と侵襲性歯周炎で,喪失歯を指標とした予後には差がないことが知られている24-27)。本研究で侵襲性歯周炎と診断されていた被験者の平均喪失歯進行度は,ステージIIIグレードCに分類された被験者では0.03±0.06歯(うち喪失理由が歯周病に限定すると0.02±0.04歯)であり,ステージIVグレードCでは0.24±0.25歯(すべての喪失歯が歯周病が原因であった)となっており,被験者全体の同じステージグレード分類被験者における喪失歯進行度と比較して差はなく,むしろ低い傾向であった(結果には示さず)。これは,侵襲性歯周炎被験者の平均年齢が36.9±4.5歳と若く,また初診時平均現在歯数が28.0±2.1歯と多いことから,侵襲性歯周炎被験者の多くが,発症から比較的早期に適切な歯周治療,そしてメインテナンス/SPTを受けているためと推察される。

歯周炎は多因子的に進行するので,その予後を予知することには困難さが伴う4)。歯を喪失した被験者の割合や喪失歯進行度は,これまで述べてきたように歯周炎新分類によるステージ分類依存性に,またグレード分類依存性に増加していた。また同じステージ内について比較しても,グレード分類依存的に歯を喪失した被験者の割合や喪失歯進行度は増加していた。これらのことと,前述の歯周炎旧分類による慢性歯周炎と侵襲性歯周炎との間に喪失歯を指標とした予後に差が見られていないことから,歯周炎新分類は歯周炎旧分類に比較すると,より精度高く予後を予知できる分類といえる。

歯周炎新分類のステージングは,歯間部CALあるいはエックス線画像上の骨吸収率と歯の喪失を指標とした歯周炎重症度に加えて,プロービングデプス,根分岐部病変,咬合崩壊や歯の移動の有無といった複雑度も加えて評価し,4段階に分類している。一方,グレードを分類するに際して,グレードの修飾因子(歯周炎の増悪因子)として現在のところ認められているのは喫煙と糖尿病だけである。非喫煙者,および糖尿病でない患者に対しては,グレード分類決定の要素は最重度歯のCAL変化あるいはエックス線画像上の骨吸収変化,もしくは年齢に対する骨吸収率のみである。従って,歯周炎新分類を歯の喪失を指標とした予後の予知因子ととらえるならば,分類に際して多くの情報量を取り入れたステージ分類の方がより的確な予知因子となるのは当然と思える。また,ステージ,およびグレード分類それぞれ単独よりも,両者を組み合わせて分類し,歯の喪失進行度との関連性を検討した方が,予後予知の精度がより高くなるであろう。今後はいくつかの独立変数とともに多変量解析を用いた研究が考慮されるべきである。歯周炎新分類と年齢を組み合わせて,予後を定量化する予後予測モデルが開発されている20)

本研究被験者は全て1歯科医院を受診した患者である。歯科医院に来院する患者の特性や歯周炎の傾向は,その医院の存在する地域,立地や諸環境などによって影響を受けているであろう。大学病院に通院している患者集団とも大きく異なるであろう。また,歯周病専門医はそのリストが歯周病学会のホームページにも記載され,その情報をもとに歯周病専門医の在籍する医院を来院する患者も数多く存在すると考えられる。そのような患者は歯周炎が重度である可能性がある一方,メインテナンス/SPTへの追従性や口腔清掃に対するモチベーションは高いと推察される。本研究の限界として,本研究対象被験者には選択バイアスの存在する可能性があることを理解した上で,結果を解釈する必要があるだろう。

アクティブな歯周治療を行った後にメインテナンス/SPTを受けている患者の歯の喪失を指標に予後を調べた研究からは,慢性歯周炎25,28-30)においても,侵襲性歯周炎24-26),31)いずれにおいても,限られた特定の患者集団が多くの歯を失っていることが報告されている。また,歯周炎新分類でステージIVグレードCと判定された被験者集団では,確かに喪失歯進行度が高かったが,ステージIVグレードC被験者全てが歯を喪失しているわけではなかった。現在の体系づけられた歯周治療をおこなってもその進行を十分に抑制できない患者集団があり,歯周炎旧分類よりは精度が上がったものの,歯周炎新分類であっても捕らえきれない,検討すべき細菌因子,宿主因子,あるいは環境因子が存在するものと考察される。

結論

歯周炎新分類に基づく差異は,歯周炎患者の年齢による歯周炎の進行と歯の喪失を指標とした予後を良く反映する。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
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