日本歯周病学会会誌
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ミニレビュー
miRNAを用いた転写因子制御による歯周組織構成細胞の分化・誘導の可能性
高井 英樹小方 賴昌
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2022 年 64 巻 2 号 p. 51-57

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はじめに

歯周組織は,歯肉,歯根膜,セメント質および歯槽骨によって構成される。歯根膜に存在する間葉系幹細胞は,セメント質,歯槽骨および歯根膜の再生に関与している1)。歯周炎によって破壊された歯周組織を再生するために,guided tissue regeneration(GTR)膜,エナメルマトリックスタンパク質,血小板由来成長因子BB(PDGF-BB)および塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)などの再生材料または医薬品が使用され,歯根膜中の間葉系幹細胞はセメント質,歯槽骨および歯根膜に分化・誘導される2-6)。FGF-2は骨関連転写因子であるラント関連転写因子2(Runx2)の転写を増加させ,骨芽細胞の分化と軟骨細胞の成熟を誘導する7)。本稿では,様々な間葉系細胞で優位に発現する転写因子に作用するmiRNAについて,我々が行った歯周組織構成細胞に高発現する転写因子に関する研究結果を含めて紹介したい。

転写因子調節による細胞分化・誘導

転写因子はDNAに特異的に結合するタンパク質の一群であり,RNAポリメラーゼ(RNA合成酵素)による転写を促進または抑制する。転写因子はこの機能を単独または他のタンパク質と複合体を形成することで実行する8)。転写因子は多細胞生物の発生に関与し,刺激に応じて,ターゲット遺伝子の転写を開始または停止させることで,細胞形態や活動を変化させ,細胞の運命決定や分化・誘導に関与する。間葉系幹細胞は様々な細胞に分化することができ,骨芽細胞,軟骨細胞,筋芽細胞および脂肪細胞への分化には,転写因子が関与する。骨芽細胞の分化にはRunx2およびOsterix(Osx/Sp7)9,10),軟骨細胞の分化にはSox5,Sox6およびSox911),筋芽細胞の分化にはMyoD,Myogenin,Mrf4およびMyf512),脂肪細胞の分化にはC/EBPファミリー(C/EBPβ,C/EBPδ,C/EBPα)およびPPARγ213)が重要な役割を果たしている(図1)。また,様々な細胞の特性を解析するために,RNA干渉を引き起こすshRNAやsiRNAを用い,細胞分化に重要な転写因子を抑制した研究が盛んに行われている。shOsxを使用してOsxをノックダウンさせたMC3T3-E1マウス骨芽細胞様細胞では,骨結節形成と細胞分化が抑制された14)。がん原遺伝子のc-Fosは,p53ノックダウン骨髄間葉系幹細胞を軟骨肉腫へ分化・誘導し,さらにshSox9を使用してSox9をノックダウンすると,軟骨細胞への分化が抑制された15)。マウス筋芽細胞でMyogeninをノックダウンさせると,細胞周期を制御するcyclinD1およびcyclinE2の発現が増加し,MyoDを阻害することにより,筋芽細胞への分化が抑制された16)。shPPARγを使用してPPARγをノックダウンさせたマウス脂肪前駆細胞では,脂肪細胞の分化マーカーであるAdipocyte protein 2(aP2)が抑制され,脂肪細胞への分化・誘導が抑制された17)。一方,転写因子の過剰発現による細胞の分化・誘導に関する研究も数多く行われている。Runx2を過剰発現させたトランスジェニックマウスでは,健常マウスと比較して長骨中のアルカリフォスファターゼ(ALP),オステオカルシン(OC)およびMMP13などの骨関連遺伝子発現が減少し,骨芽細胞の成熟が阻害され,骨減少症が引き起こされた18)。MC3T3-E1マウス骨芽細胞様細胞でOsterixを過剰発現させると,骨芽細胞の分化に関連するα2タイプIコラーゲン(COL1A2)とOC mRNAの発現が増加した19)。ヒト脳神経膠芽腫細胞(U251)でSox9を過剰発現させると,上皮系細胞のマーカーであるE-カドヘリンの顕著な減少と間葉系細胞のマーカーであるN-カドヘリン,ビメンチン,フィブロネクチンおよびα-SMAの発現が増加した。これらの結果は,Sox9が,上皮系細胞を間葉系細胞の表現型に移行させたことを示していた20)。ウシ胎児線維芽細胞にMyoDを過剰発現させた研究では,Myogeninおよび筋芽細胞の分化マーカーであるデスミンの発現が増加し,筋形成が促進された21)。血管平滑筋細胞にPPARγを過剰発現させると,平滑筋収縮タンパク質であるα-SMAおよびSM22 αの発現が増加し,平滑筋細胞の増殖を阻害した22)。歯周組織構成細胞での転写因子の過剰発現による分化・誘導に関する研究では,ヒト歯根膜細胞にアデノウイルスプロモーターを調節する転写因子USF2を過剰発現させると,成熟した骨芽細胞の機能を維持するATF4の発現が増加するとともに,Runx2およびOC mRNA量が増加し,骨芽細胞の分化を促進することで,ヒト歯根膜細胞を骨芽細胞に分化・誘導させた23)。ヒト線維芽細胞にOct3/4,Sox2,c-MycおよびKlf4の4つの転写因子をトランスフェクションすることで,様々な細胞に分化・誘導できる多能性幹細胞を樹立したことが報告された24)。リプログラミングに関与するc-MycおよびKlf4と軟骨形成に関与するSox9の3つの転写因子をマウス皮膚線維芽細胞にトランスフェクションすると,軟骨細胞分化マーカーであるCOL2A1およびAggrecan(ACAN)の発現が増加し,皮膚線維芽細胞を軟骨形成細胞に分化・誘導した25)。分化した細胞が多能性状態を経ることなく性質を変えたことは,これまでの細胞分化の概念を覆す研究成果であると考えられた。我々は,ヒト歯肉線維芽細胞(HGF)およびヒト歯根膜線維芽細胞(HPDL)では,ヒト骨芽細胞様細胞(Saos2)と比較し,骨芽細胞分化の抑制に関与するTwist2,未分化マーカー転写因子であるKlf12および歯胚形成初期に関与するPax9が優位に発現していることを見出した。siRNAを用いて3つの転写因子を同時に抑制すると,歯根膜線維芽細胞中で軟骨形成に関与するSox5タンパク質量の増加,軟骨分化マーカーのACAN mRNA量の増加および線維化マーカーのCOL1A1 mRNA量の減少を引き起こし,細胞はアルシアンブルー染色で青く染色され,歯根膜線維芽細胞が軟骨細胞に分化誘導させることが明らかになった(図226)。特異的な転写因子を阻害すると分化・誘導が抑制され,過剰発現させると分化・誘導が促進されることが報告されているが,我々の研究の結果,各々の細胞に高発現する転写因子をノックダウンすることによる異種細胞への分化・誘導の可能性が示唆された。

図1

未分化幹葉系細胞から各細胞への分化

図2

歯周組織構成細胞に高発現する転写因子抑制による歯根膜線維芽細胞から軟骨細胞への分化・誘導(文献26)より引用)

miRNAによる転写因子の調節

miRNAは20~25塩基長の一本鎖RNAで,タンパク質へは翻訳されないノンコーディングRNAである。miRNAの役割は,ターゲットmRNAの3' untranslated region(3'-UTR;3'非翻訳領域)に結合し,RNAの分解またはRNAの翻訳抑制を行うことで,遺伝子の転写後発現調整に関与する27)。miRNAは細胞の成長,生存,分化,ストレス応答,アポトーシスおよび細胞周期の停止を調節する転写因子を制御できることが報告されている28)。miR-132-3pは,腫瘍の進行に関与するSox4を標的とし,肝癌細胞の遊走および浸潤を抑制した29)。miR-3174は,脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化・誘導に関与するFOXO1を標的とし,脂肪細胞の分化を抑制した30)。さらに,miR-205-5pは,Runx2を抑制することにより骨形成マーカーであるCOL1A1およびALPの発現を抑制し,骨髄間葉系幹細胞から骨芽細胞への分化・誘導を抑制した31)。これらの研究は,miRNAが転写因子を抑制することで,細胞の分化や活動性を調節することを示した。一方,PPARγを標的とするmiR-210は,骨髄間葉系幹細胞でALPおよびOsterixの発現を増加させ,脂肪細胞への分化を抑制し,骨芽細胞への分化を促進した(図332)。脂肪細胞の分化に重要な転写因子を抑制することで,骨芽細胞の分化に重要な転写因子の発現が増加し,骨髄間葉系幹細胞が骨芽細胞に分化・誘導されたことは,miRNAによる転写因子の調節が,細胞の運命決定や分化に重要な役割を果たすことを示している。Runx2の3'-UTRに結合するmiRNAを解析した結果,Runx2をターゲットとする11種類のmiRNA(miR-23a,miR-30c,miR-34c,miR-133a,miR-135a,miR-137,miR-204,miR-205,miR-217,miR-218およびmiR-338)が同定され,MC3T3-E1細胞中にmiR-218が高発現していることが示された。さらに,MC3T3-E1細胞を骨芽細胞分化培地で培養すると,OCやALPの発現が増加すると共に,Runx2をターゲットとするmiRNAの発現量が増加した。それとは逆に,マウス軟骨前駆細胞(ATDC5)を軟骨細胞分化培地で培養すると,Sox9,Runx2,ALPおよびCOL2A1の発現が増加すると共に,Runx2をターゲットとするmiRNAの発現量が減少した。以上の結果から,骨芽細胞分化後期のRunx2の減少と軟骨細胞分化後期のRunx2の増加を同じmiRNAが調節し,miRNAの発現量が変化することで2つの細胞の分化・誘導を調節していることが示された(図433)。一方,様々な細胞中でのmiRNAの発現を解析した結果,マウス筋芽細胞(C2C12)でmiR-23aおよびmiR-133aが高発現し,miR-205およびmiR-217の発現量が他の細胞より少なかった。miR-30cはマウス骨髄間質細胞(C3H10T1/2),miR-204はMC3T3-E1細胞,miR-34cはマウス前駆脂肪細胞(3T3 L1),miR-135aはATDC5およびマウス線維芽細胞(NIH3T3)で高発現していた。これらの結果は,細胞の表現型により発現するmiRNA量が異なることを示していた。また,ATDC5で高発現しているTRPS1は,Runx2と同じmiRNAによって調節され,軟骨細胞分化後期に,それらのmiRNAが抑制されることでTRPS1タンパク質が増加し,軟骨細胞の分化が促進された34)。これらの研究結果は,miRNAが転写因子の発現量を調節し,未分化間葉系幹細胞の骨形成,脂肪生成,軟骨形成の系統分化を制御できることを示唆していた。さらに,miR-543が筋芽細胞の増殖を制御する内在性の転写因子で,腫瘍抑制に関与するKlf6を抑制することで,MyoDやMyoGの発現が増加し,筋芽細胞の分化を促進することが報告されている35)。健常者と比較して,骨粗鬆症患者の骨組織では,miR-2861発現が減少していた。マウス骨髄由来間質細胞でmiR-2861を過剰発現させると,ヒストン脱アセチル化酵素5(HDAC5)が抑制され,Runx2,ALPおよびOCタンパク質発現が増加し,石灰化が促進された(図336)。歯周組織構成細胞での研究では,セメント芽細胞に炎症性サイトカインであるIL-1βを作用させると,miR-325-3pの発現が増加し,Runx2の3'-UTRに結合することにより,セメント芽細胞の分化・誘導を抑制した37)。2型糖尿病モデルマウスの歯槽骨では,miR-31が高発現しており,ヒト歯根膜幹細胞にmiR-31を過剰発現させると骨芽細胞分化に関与するSatb2の3'-UTRに結合し,歯根膜幹細胞の骨芽細胞への分化・誘導が抑制された38)。これらの研究は,miRNAが転写因子を抑制することで,歯周組織構成細胞の分化・誘導が抑制された結果を示した。我々の研究では,Saos2と比較してHGFやHPDLで高発現するTwist2およびKlf12をターゲットとするmiRNAをTargetScanおよびmiRBaseで検索し,miR-141およびmiR-200aを同定した。miR-141とmiR-200aをHPDLで過剰発現させると,軟骨細胞形成に重要な転写因子であるSox5とSox6タンパク質発現が増加し,細胞はアルシアンブルー染色で青く染色された。以上の結果から,HPDLは,未分化間葉系幹細胞にリプログラミングされることなく軟骨様細胞に分化・誘導したと考えられた。また,miR-141およびmiR-200aは,Saos2と比較してヒト軟骨細胞様細胞(HCS2/8)で高発現していることが確認された(図539)。我々の研究を含めた過去のmiRNAの研究から,miR141およびmiR200aは,ヒト軟骨細胞の形質を維持するのに重要である可能性が示された。今後は,mRNA過剰発現によりヒト歯肉線維芽細胞はどのような細胞に分化・誘導されるか明らかにしたいと考える。

図3

骨芽細胞分化制御に関与するmiRNA(文献32,36)より引用改変)

図4

Runx2ターゲットmiRNAによる骨芽細胞と軟骨細胞の分化・誘導(文献33)より引用改変)

図5

miRNA141またはmiR200aによる歯根膜線維芽細胞から軟骨細胞への分化・誘導(文献39)より引用)

終わりに

本ミニレビューでは,転写因子およびmiRNAによる様々な細胞の分化・誘導について基礎研究を中心にその知見をまとめた。各々の細胞には,高発現する転写因子が存在し,細胞維持に重要な働きをしており,複数のターゲットを持つmiRNAは,細胞の分化・誘導に重要な役割を果たすと考えられる。歯周組織構成細胞(骨芽細胞,セメント芽細胞,歯肉線維芽細胞および歯根膜線維芽細胞)で高発現するmiRNAの解析は,将来の歯周治療への応用が期待される。今後の展望として,歯周外科治療後に破棄する組織(歯冠長延長術で除去した歯肉や矯正治療等の目的で抜去した歯)から培養した歯周組織構成細胞(HGF,HPDL等)内でのmiRNAの発現を調節し,骨芽細胞などに分化・誘導することで,歯周組織再生療法に応用できる可能性が示唆される。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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