日本歯周病学会会誌
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ミニレビュー
半導体レーザーによる抗菌光線力学歯周療法―特定臨床研究の実際―
福田 光男林 潤一郎岩村 侑樹佐々木 康行藤村 岳樹永原 絢子三谷 章雄
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2022 年 64 巻 2 号 p. 58-65

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要旨

レーザーとインドシアニングリーンナノ粒子を使ったポケット外からのレーザー照射による抗菌光線力学療法(a-PDT)を開発し,認定臨床研究審査会の審査を経て,試験研究を行った。a-PDTは,レーザーを光感受性物質に照射し,一重項酸素を発生させて殺菌する方法である。810 nmの波長のレーザー光は,その吸光スペクトルの特徴から生体透過性があることが知られており,この性質を利用し,ポケット外からのレーザー照射でポケット内細菌を除去する新たな方法を試みた。SPT期の歯周病患者40名を実験群とコントロール群に無作為にわけ,ポケット内細菌のコントロールが基礎研究で得られた条件で可能かを検討した。結果歯周ポケット外からのレーザー照射で,ポケット内細菌の除去は可能であった。このa-PDTの原理を紹介するとともに,平成30年から施行された臨床研究法に則った認定臨床研究審査委員会の審査を受けた諸手続きについて紹介する。

はじめに

日本において,歯科分野にレーザーが使用され始めて,40年以上たつ。歯周病学会でもレーザーを用いた研究報告は数多く発表され,日本歯周病学会会誌で,「レーザー」で検索すると193件ヒットする。歯周病学におけるレーザー研究は多岐にわたるが,ここでは,我々が現在行っている抗菌光線力学療法について解説する。

我々が,抗菌光線力学療法(以下a-PDTと表記する)の研究を始めたのは,2005年に東京で開催された第16回国際レーザー医学会で歯科部門の発表をした折,産婦人科でのPDTの発表があり,その原理を知ったのがきっかけである。

現在,我々のa-PDT研究は,基礎研究を経て,特定臨床研究の審査を受け臨床研究を実施中である。

臨床研究法は,平成29年4月に公布され,平成30年4月に施行されている。適応外の薬剤の使用や機器の適応外の使用を伴うヒトを使った研究をする場合は,この臨床研究法のルールに則った手順を踏む必要がある。本原稿では,この臨床研究法についても紹介する。

1. a-PDTの原理とナノ粒子化光感受性物質

光線力学療法(PDT)は,一般的に,光感受性物質にレーザー光を照射して発生する一重項酸素の作用により,その直近の細胞を死滅させる治療法で,医科の分野では主にがん細胞に対して用いられている。光感受性物質はレーザー照射により励起され,励起一重項状態となり,さらに項間交差を経て励起三重項状態となる。この状態の光感受性物質が周囲に存在する酸素(基底状態である三重項酸素)にエネルギーを付与する結果,一重項酸素が生じ細胞を死滅させる作用を示す。歯周病の領域では,この原理を歯周ポケット内細菌の殺菌に応用しているため,抗菌光線力学療法と呼ばれている。

歯周病のa-PDTに用いられる光感受性物質には,メチレンブルー1)やトルイジンブルーO2)など,いろいろな種類があるが,我々は,波長810 nmの半導体レーザーにより励起されるインドシアニングリーン(以下ICG)3-5)に着目し,新規のaPDTシステムの開発を進めてきた。ICGは,血漿蛋白と結合することで,体内で化学的変化を受けない安定した状態で存在することができ,血中から選択的に肝に取り込まれ,肝臓から胆汁中に高率かつ速やかに排泄される。医科領域では,眼底検査や,肝機能検査などで,静脈注射して使われており6),安全性が高い色素である。近年では,PDTにおける光感受性物質として応用されている7)

a-PDTでは,光感受性物質を単体で溶液にして使用するシステムが多いが,我々はこのICGを使用するにあたり,新たな剤形として,ポリ乳酸でナノ粒子化(約直径560 nm)することとした8-10)。さらに,このナノ粒子にキトサンコーティングを施すことで,粒子はプラスに荷電した状態となる。光感受性物質にレーザーを照射すると活性酸素(一重項酸素)が発生し,殺菌作用を示すが,その作用距離は極めて狭く,細菌のごく近傍に光感受性物質が存在しないと,殺菌されない。ナノ粒子にキトサンコーティングすることで,マイナスに帯電している細菌に付着しやすくなり,殺菌作用は強化される(図1)。ナノ粒子化した場合と,しない場合で,殺菌能を比較したところ,ナノ粒子化したほうが,有意に殺菌能が強化されていることからもそのことがうかがえる8)(図2)。

図1

F. nucleatumに,ナノ粒子を作用させた顕微鏡像

キトサンコーティングしたナノ粒子をFusobacteriumnucleatum に付着させたところ。

ナノ粒子は,菌体に密に多数付着している。F. nucleatum は,複数個凝集していると思われる。

図2

ICG溶液とICGナノ粒子溶液における,a-PDTの殺菌能の比較(文献8より改変)

カラム左から,菌液のみ群,菌液にレーザー照射群,ICGナノ粒子溶液添加レーザー非照射群,ICGナノ粒子溶液添加にレーザー照射群,ICG溶液添加でレーザー非照射群,ICG溶液添加でレーザー照射群の各群の殺菌能を示す。ICGナノ粒子添加でレーザー照射した群が,有意に殺菌能が高かった。

2. a-PDTの殺菌能および軟組織作用の検討

こうした準備の後,照射条件を5 w,Duty Cycle 10%,パルス幅100 ms 3分間照射としてP. gingivalisを用いて殺菌能について検討し,99.7%殺菌能を示すことを確認した。

また,サーモグラフィにて発熱についても検討したところ,3分以内なら,液面から5 mm内部の最も温度の高いエリアでも,温度上昇は,10度以内に抑えられることがわかった。つまり熱に依存しない殺菌能があることを示した8)

また,ICGナノ粒子はポケット内に注入するため,ICGナノ粒子が上皮内に侵入するか確認したところ,表層の錯角化層に留まり,上皮内への侵入はなかった。そこでレーザー光の上皮細胞への影響を検索した。まず,上皮の炎症反応関連の反応および上皮細胞の走化性に対する影響を検討した。半導体レーザー照射により,LPS刺激で誘導された上皮細胞のIL-6,IL-8mRNAの発現が有意に抑制され,LPS刺激では誘導されない抗炎症性のDel-1mRNA発現が有意に亢進していた。これらのことより,レーザー照射が炎症抑制に働くことが示された(図3)。次に,サブコンフルエントに増殖した上皮細胞の走化能を,スクラッチ法により調べたところ,ICGナノ粒子+レーザー照射群は有意に高い走化能を示した(図4)。さらに上皮の接着分子の発現について,レーザー照射群ではICAM-1の発現が3倍ほど亢進していた。以上から,ICGナノ粒子と半導体レーザー照射により,上皮の炎症は抑制され創傷治癒が促進されることが示唆された9)

図3

レーザー照射による上皮細胞の炎症関連遺伝子発現への影響(文献9より改変)

ヒト口腔上皮細胞(Ca9-22)にLPSを添加し,刺激1時間後に半導体レーザー照射,1時間培養後,qPCRにて炎症関連遺伝子発現を解析した。

低出力の半導体レーザ照射を行った群において,LPS刺激によって誘導されたIL-6とIL-8のmRNA発現亢進は,レーザー照射により有意に(p<0.05)に抑制された。またコントロール群やLPS群と比較してDel-1 mRNAの有意な発現上昇を認めた。

図4

Wound healing Assay(文献9より改変)

サブコンフルエンスに増殖した上皮細胞層に1.2 mmのスクラッチをつけ,レーザーおよびレーザーナノ粒子を作用させて,48時間後に評価した。上皮細胞の走化性は無刺激に比べ,a-PDT群において,より高い傾向があった。

3. ポケット外照射を想定したa-PDTの検討

我々が,半導体レーザーを用いた理由の一つは,その組織透過性の高さにある。光の吸収スペクトルの観点からすると,生体組織の成分は主に水とヘモグロビンであり,これらに吸収されなければ,光は組織を透過できる。種々の物質の吸光スペクトルから,「分光学的窓」と呼ばれる組織透過性が高い波長域が存在する11)。半導体レーザーの810 nmの波長は,その領域に含まれることから,この性質を利用してポケット外から照射する方法を考案した。従来のポケット内からの照射では,照射方法が一方向からに限られるのに対し,ポケット外からの照射は,照射角度の自由度が高く,照射範囲を広げることができる。また,ポケット内での盲目的な照射は,レーザーの安全使用の点からリスクが高く,回避されることが望ましい。

そこで外部照射法を用いたa-PDTのモデル実験を行った10)。まず,歯肉に見立てた3 mm厚の牛肉でレーザーの透過性を検討した。牛肉は鶏肉や豚肉と比べミオグロビンを多く含むため,より歯肉に近いことを事前に確認した。次に,3 mm厚の牛肉を透過したレーザー光でのa-PDT効果を検討した。図5のように3 mm厚の牛肉を透過したレーザーを,菌液とICGナノ粒子の混合溶液に照射した。その結果,合計3分照射(1分照射10秒休止の繰り返し3回)することで,約99%の殺菌作用を示した(図6)。同時に牛肉表層の温度上昇を測定したところ,照射時にエアーによる空冷をすることで,3分で5度前後に抑えられることが確認された。以上の結果から,歯周ポケット内に注入したICGナノ粒子に対し,ポケット外からの照射によっても,殺菌作用が得られることが予想された。

図5

軟組織透過レーザーによるa-PDTの実験モデル

レーザーは,歯肉を透過し,ICGナノ粒子添加菌液に照射される。

エアー流量は,2 L/分

図6

a-PDTのレーザーの照射時間による殺菌能について(文献10より改変)

ナノ粒子と菌液の混合液に図6の装置を用い,レーザー照射を0,1,3,5分行い,殺菌能を調べた。3分の照射では,約99%殺菌され,5分照射では99.99%殺菌された。

4. 特定臨床研究へ

基礎研究で得られた照射方法で,殺菌効果や臨床的効果が得られるかは,ヒトを使った臨床研究を行い検証する必要がある。そこで我々は,まず外部照射のモデル実験で確認された殺菌効果が,実際のポケット内細菌に対しても同等に得られるのかを確認するための臨床研究を計画した。

臨床研究は,平成29年4月に公布され,平成30年4月に施行された臨床研究法という法律に準拠して行う必要がある。対象となる臨床研究は,医薬品製造企業・医療機器開発企業の資金を使って行う臨床研究(いわゆる治験)や,医師主導の医薬品・治療用の医療機器の適応外使用に関わる臨床研究である。以下その手順(図7)を解説する。

図7

臨床研究法の流れ

CRB(Certified Review Board):認定臨床研究審査委員会

jRCT(Japan Registry of Clinical Trials):臨床研究等提出・公開システム

まず,ヒトを使った臨床研究を始めるにあたり,認定臨床研究審査委員会(CRB:2021年現在全国に121か所)に,研究がこの臨床研究法に定める特定臨床研究に該当するかどうかを問い合わせる必要がある。特に医薬品の場合,判断が微妙なことがあるため,事前相談が必要である。

我々の研究の場合,用いるICGが蛍光眼底造影剤である「オフサグリーン」(参天製薬)であるため,a-PDTへの応用は適応外使用となり特定臨床研究に該当する。また使用した半導体レーザー「オサダライトサージ5」(長田電気工業)の用途に,PDTは含まれないためこれも適応外使用にあたる。

事前相談で,該当するという判断が下されたら,認定臨床審査委員会に審査を依頼する。所属する大学等に認定臨床審査委員会が設置されていない場合は,他大学のCRBに審査を依頼する。審査依頼の申請は,大学の学部長(病院の場合は病院長)からCRBあてに行う。我々の場合は名古屋市立大学に設置されたCRBに審査を依頼した。審査手数料は,各CRBでまちまちで,30~100万円ほどかかる。期間が長ければ1年毎の定期報告も必要となり,その際にも6~10万円の費用が別途かかる場合もある。審査に必要な書類一覧を表1に示す。

表1

CRBの審査時に必要な書類一覧

このほかに臨床研究等提出・公開システムに報告する書類(システム入力し印刷して厚労省へ提出)がある。

これら書類の中で最も細かくチェックされるのは,当然ながら2番目の研究計画書である。この研究計画書に関しては,表2に示すような記載事項が必要とされている。研究計画をまとめる際の基本的な考え方になるのは,対象者が被る不利益を最小限に止めることを常に念頭におくということ,恣意的な結果の評価に陥らないようにすることである。7のプロトコル治療は研究手順を含み,誰が何を担当するのかを含んだ研究の流れを時系列で具体的に記載する。実験に用いる新薬や新規治療法は,安全性や臨床効果の面から未知の部分が多いため,従来法を受けられないという不利益を最小限におさえるような研究プロトコルが求められる。

表2

臨床研究実施計画書の目次

計画書と同意書が,主に審査対象となる。

さらに,被検者の選択基準,除外基準,評価項目,統計学的事項等を記載する。特に評価項目,統計学的事項は途中で変更できないので細かく記載する。評価項目は,主要評価項目,副次的評価項目と分け,目的を明確化させることが求められる。主要評価項目は,リサーチクエスチョンの主体となる評価項目をあげる。今回の我々の研究は,モデル実験で行った殺菌効果の確認を実際のヒトのポケット内で行うことを目的としているため,ICGナノ粒子を用いた実験群のa-PDTの処置前後でどの程度細菌数が減るのかを主要評価項目とした。コントロール群との群間比較,処置前と処置後1週間での比較,リアルタイムPCR法による細菌叢評価などは副評価項目とした。

統計学的事項については,評価項目でどのような統計手法で評価するかをあらかじめ決めておく必要がある。得られた試験データに対して,後から様々な分析方法を試し,有意差のある結果を出すという手法は,恣意的な解析となる可能性があるため,事前に統計処理の方法を決め,結果を評価することが求められる。また,解析対象集団についても,FAS(Full Analysis Set:最大の解析対象集団),PPS(Per Protocol Set:プロトコル遵守集団),SAS(Safety Analysis Set:安全性解析集団)などから,どの集団を対象とするのかも事前に決めておく必要がある。

また,サンプルサイズについては,少なすぎる場合,十分な検定力を得られないという問題があり,必要以上に多い場合も,不利益を被る可能性のある被験者を闇雲に増やすことやリソースの無駄遣いにつながり,また多いほど有意差は出やすくなるため,臨床的に無意味な違いでも有意差がでてしまうなどの問題がある。そのため過不足のないよう的確に決定し,その算出方法を明示しておく。我々の研究においては,新規の方法であるため,サンプルサイズの計算に必要な効果量を的確に求められていないという指摘をCRBから受け,まずそのためのデータを取得するためのパイロット研究として,研究計画を立て直すように求められた。安全性評価の項では,有害事象の定義,副作用の定義,疾病の定義,それらが発生した場合の報告の方法などについて記載する。補償がある場合も,記載が必要となる。

その他の文書として,説明文書,同意書,同意撤回書を作成する。説明文書には,被験者が理解しやすいように,標準治療との違い,不利益などについて記載する。

これらの資料が完成したところで,CRBによる審査を受けることとなる。審査では,様々な疑問点に回答するとともに書類の修正が入る。軽微な修正であっても,改訂版として,再提出が求められる。審査で認められると,次に,有害事象等があった際の補償として保険をかける場合,保険会社(通常3社の相見積もり)を選定し,保険契約を大学と結ぶ。その後,正式に実施医療機関の長に実施許可を得て,Web上の臨床研究提出・公開システム(旧;臨床研究実施計画・研究概要公開システム)に登録し,その内容をそれぞれの地域の厚生労働省の出先機関である各地方の厚生局に書面をもって報告する。

以上の手順を踏んでから,具体的に研究を実施するが,第1症例が終了した時点で,その実施状況を臨床研究提出・公開システムに登録し,その内容を認定臨床研究審査委員会に報告する。

第1症例を登録し,研究が進行して,任意の時にモニタリング手順書に従い,事前に決めてあるモニタリング委員に現場に来てもらい,被験者登録用紙,臨床記録,生菌数カウント記録などの保管状況など,研究が計画通り遂行しているかのチェックを受け,CRBに文書で報告する。

さらに中間報告として,1年目の被検者登録状況や進捗状況などについて定期報告書をCRBに報告する。中間報告では,中間解析が求められる場合がある。中間解析は,全数の調査を待たずして,有効か無効かを判断する十分な根拠が得られた時点で,研究を終了するために行う。それは中間解析にて結論が出た場合に,不必要な介入を避けるためである。

予定した症例数に達したら,終了し,委員会で審査を受けるべく最終報告書(任意の形式)を作成する。審査委員会で報告し,終了したことが認められると,審査結果通知書が交付される。これを,病院長に報告するとともに,臨床研究提出・公開システムに登録し,その書類を委員会に提出して完了となる。

現在我々の臨床研究は,最終審査を受けたところで,論文作成中である。

5. おわりに

新規の治療法や,薬剤の適応外使用,医療機器の適応外使用についての臨床研究を行う場合,上記のような手順を踏む必要がある。かつては学内の倫理委員会での審査で費用が掛からなかったが,現在は臨床研究を計画する上で,こうした費用が掛かることを考慮し,十分に検討した上で進めなければならない。

これからこうした臨床研究を予定しようとしている研究者に,少しでも参考になれば幸いである。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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