日本歯周病学会会誌
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原著
糖尿病教育入院患者を対象とした歯周炎症表面積PISAによる歯周病重症度と動脈硬化との関連
杉 典子畑中 加珠吉田 綾香高柴 正悟
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2022 年 64 巻 4 号 p. 158-166

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要旨

近年,医科歯科連携を推進する上で,歯周炎症表面積(PISA)が歯周病評価指標として着目されている。PISAは,歯周組織の炎症部面積を定量的に評価でき,歯周病を一臓器の慢性炎症巣として客観的に捉えることができる新たな評価指標である。これまでに,このPISAによる評価指標を用いて動脈硬化などの糖尿病合併症との関連について検討した報告はなく,本研究にて検討することを目的とした。2010年4月から2017年3月に,洛和会音羽病院に糖尿病教育入院した患者447名のうち,歯科受診を拒否した患者30名,X線撮影および歯周ポケット測定を行っていない患者30名,1型糖尿病患者41名および無歯顎患者34名を除外した2型糖尿病患者312名を対象とした。その結果,PISAによる歯周病重症度と各糖尿病合併症の間に有意な関連は認められなかったが,頚動脈肥厚との間に有意な傾向があった。

糖尿病重症度にて層別化したところ,HbA1cが10%未満群では,PISAによる歯周病重症度軽度群に比べて重度群では有意に頚動脈肥厚(IMT ≥ 1.1)のオッズ比が高く,年齢,性別,BMI,喫煙習慣,飲酒習慣で調整した頚動脈肥厚のオッズ比(95%信頼区間)は,2.74(1.02-7.40)であった(P<0.05)。一方,10%以上群では,有意な差はなかった。

PISAによる歯周病の重症度評価を用いると,HbA1cが10%未満の者は,歯周病と動脈硬化との関連を認めた。

Abstract

Recently, periodontal inflammatory surface area (PISA) has attracted attention as a new method of evaluation of the severity of periodontal disease for promoting medical-dental collaboration. PISA represents a quantitative estimate of the inflamed area of periodontal tissue and serves as an objective parameter of the severity of periodontal disease as a chronic inflammatory lesion of one organ. As there have been no related reports to date, we conducted this study to evaluate the relationship between PISA and the presence of diabetic complications such as arteriosclerosis. A total of 447 patients with diabetes who were hospitalized for diabetes education between April 2010 and March 2017 at Rakuwakai Otowa Hospital, Japan, were enrolled in the study. We excluded some of these patients from the initial evaluation, as follows: refusal of dental checkups (n=30), lack of radiographic data and/or data on the periodontal pocket depths (n=30), underlying type 1 rather than type 2 diabetes (n=41), and presence of an edentulous jaw (n=34). Finally, 312 patients with type 2 diabetes were included in this study. The results of our analysis showed no significant association between the severity of periodontal disease as evaluated by PISA and any specific complication of diabetes, however, a tendency was noted for association between the severity of periodontal disease and carotid arterial thickening.

In regard to the association with the diabetes severity, in the patient group with HbA1c levels of less than 10%, but not in the patient group with HbA1c levels of ≥10%, the odds ratio for carotid thickening (IMT ≥ 1.1) was significantly higher in the subjects with severe periodontal disease than in the subjects with mild periodontal disease. The odds ratio (95% CI) of carotid artery thickening adjusted for the gender, BMI, smoking habit, and drinking habit was 2.74 (1.02-7.40) (P < 0.05). On the other hand, there was no significant difference in the group with HbA1c levels of 10% or more.

Using PISA to assess the severity of periodontal disease, an association was found between the severity of periodontal disease and arteriosclerosis in diabetic patients with HbA1c levels of less than 10%.

緒言

インスリン抵抗性は,心血管病変の独立した危険要因であることが明らかになっている1,2)。一方で,軽微な慢性炎症はインスリン抵抗性を惹起することが報告されている3)。したがって,重度歯周病による軽微な炎症により,インスリン抵抗性や心血管病変の発症や進展に影響を与える可能性がある。

米国NHANESの報告4)によると,健常人の集団を対象として,歯周病の重症度(歯周ポケット値の深化)はインスリン抵抗性(HOMA-IR)と相関することが報告されている。さらに,白血球数や高感度C反応性蛋白(hs-CRP)の上昇群でなおかつ歯周病がもっとも重症であったグループでは,インスリン抵抗性が高かったことが報告されている。

また,遺伝的に均一な集団であるうえに,同一州内のインディアンコミュニティに居住しているため環境要因も多様性に乏しいとされる2型糖尿病を有するピマインディアンを対象とした研究では,歯周病重症群の心腎死(虚血性心疾患あるいは糖尿病性腎症による死亡)のリスクは,歯周病が軽度または中等度の群より高かった。重症の歯周病は糖尿病患者における心腎死の予知因子となり得るとしている5)

このように,歯周病と糖尿病・動脈硬化との間には,両者に影響を及ぼす因果関係がある。しかし,糖尿病を除外した健常人を対象とした報告は存在するものの,糖尿病患者に特化して,また糖尿病合併症も含めて歯周病との関連性を検討した研究はほとんどない。

また,歯周病は歯周病原細菌に感染することによって引き起こされる歯周組織の破壊を伴う慢性炎症性疾患である。細菌および炎症性メディエーターが全身循環に入る炎症負荷は,歯周組織の炎症量に関係すると考えられている。したがって,歯周組織の炎症量を定量化する必要がある。しかし,今日の歯周病の臨床検査は,歯周ポケット検査,プロービング時の出血の有無,歯の動揺度の測定,そしてX線検査が一般的である。したがって,現在,使用されている歯周病の診断は,これらの検査結果を総合的に判断するという特徴のため,歯周病の全身への影響の大きさや歯周治療の効果を客観的に表現することが難しい上に,歯科関係者以外の医療従事者にとっては分かりにくいという問題がある。そのため,日本歯周病学会ペリオドンタルメディシン委員会は,ペリオドンタルメディシン(歯周医学)の考え方を広め,他の医療従事者も理解して活用できる歯周病評価法が求められるとしている6)

近年,新たな歯周病評価法として歯周炎症表面積(PISA)が開発された。PISAは,歯周組織の炎症部面積を定量的に評価できて,歯周病を一臓器の慢性炎症巣として客観的に捉えることができる新たな評価法として注目されている。PISAは,出血ポケット上皮の表面積を平方ミリメートル単位で反映しており,口腔内の歯周組織炎症部位の面積を定量的に評価できる点で比較的理解が容易である。Nesseら7)は,PISAのさらなる利点は,臨床アタッチメントレベル(CAL),歯肉退縮およびBOP測定値を含む既存の研究データを使用してそれを遡及的に計算することができることであると報告している。現在使用されている分類よりもはるかに優れた他の疾患のリスクファクターとしての歯周炎の分類であると思われると報告している。

2018年には,Leiraら8)は,歯周病の重症度によって各群20名ずつで調べられたPISAの平均値を報告した。最も高い平均PISA値は,重度の歯周炎群(2309.42±587.69 mm2)で得られ,健康な群(34.30±16.48 mm2)で最小となった。ROC分析を実施したとき,130.33 mm2以上のPISA値は,98%の感度および100%の特異性で歯周炎の存在を予測した。また,井上ら9)は,中等度以上の歯周炎においてPISAを用いると,初診時は表面積約1,500 mm2の歯周組織の炎症がSPT時は100 mm2未満(初診時の約7%)に減少することが明らかになったと報告している。さらに,畑中ら10)は,「感染」「炎症」「機能」の3つの観点から,歯周病治療の効果を指標とする指標として,抗Pg抗体価,PISA,そして歯の動揺度を用いることは有用であったことを示している。PISAは医科歯科連携の際に歯周炎症を伝える指標になり得ると考える。

そこで,本研究の目的は,このPISAによる評価指標を用いて,動脈硬化などの糖尿病合併症と歯周病との関連について検討することとした。

対象および方法

1. 対象者

対象者は,2010年4月から2017年3月まで洛和会音羽病院糖尿病・内分泌・生活習慣病センターに糖尿病教育入院した2型糖尿病患者447名とした。そのうち,歯科受診を拒否した30名,X線撮影および歯周ポケット測定検査を受けていない30名,1型糖尿病患者41名,および無歯顎の34名の患者を除外した。最終的に,本研究の対象者は,2型糖尿病患者312名であった(図1)。

本研究は,洛和会音羽病院倫理審査委員会および岡山大学倫理委員会の承認を得て実施した(洛音倫-17-014号および研1706-041)。なお,研究対象者からの同意の取得はオプトアウトによって行った。

図1

対象者のフローチャート

2. 歯周病重症度

対象者の歯周ポケット(6点法)とBleeding on probing(BOP)を測定した。歯周病重症度は,これらのデータから算出したPISAにより分類した。PISAで評価した歯周病重症度は,軽度:< 215,中等度:216-600,重度:≥ 600の三分位(各104名)にて定義した。また,撮影したエックス線写真から,第三大臼歯を除外した現在歯数を計測し,さらに,Scheiらの方法11)を用い,各歯の近遠心部の歯槽骨吸収率を測定した。歯周ポケット,BOPおよび骨吸収率の測定は,日本歯周病学会で認定された歯周病指導医1名,認定歯科衛生士3名によって行われた。

3. 背景および糖尿病因子

背景因子として,年齢・性別・体格指標Body Mass Index(BMI)・糖尿病罹病期間・インスリン治療の有無・拡張期血圧・収縮期血圧・降圧剤服用の有無・喫煙の有無・習慣的な飲酒の有無を調査した。また,糖尿病因子は,血液指標として,Glycated hemoglobin(HbA1c)(%),low-density lipoprotein(LDL)(mg/dl),high-density lipoprotein(HDL)(mg/dl),triglyceride(TG)(mg/dl),uric acid(UA)(mg/dl),随時血糖値(mg/dl),そしてcreatinine(Cr)(mg/dl)を調べた。これらの血液サンプルは,糖尿病教育入院時のものを使用した。

血管損傷マーカーとして,内膜中膜複合体Intima Media Thickness(IMT),血管壁硬化Pulse Wave Velocity(PWV)および閉塞性動脈硬化Ankle Brachial Pressure Index(ABI)を調べた。IMT ≥ 1.1 mm,PWV ≥ 1400 cm/s,ABI < 0.9の患者を動脈硬化ありと定義した。

糖尿病合併症に関しては,糖尿病性腎症は,日本腎臓病学会の診断基準によって,尿蛋白/クレアチニン比 > 0.5 g/gCr,または尿アルブミン(U-ALB)> 30 mg/日,または推算糸球体濾過量(eGFR)< 60 ml/min/1.73 mm2をありと定義した12)

糖尿病性網膜症は,当院の眼科医によって検査されDavis分類によって①網膜症なし(NDR)②単純網膜症(SDR)③増殖前網膜症(PPDR)④増殖網膜症(PDR)の4期に分類し,②③④のいずれかを有するものをありと定義した。

糖尿病性神経障害の診断は,糖尿病性神経障害を考える会の糖尿病性多発神経障害の簡易診断基準案による次の3つの基準(1)糖尿病性多発神経障害に基づくと思われる自覚症状(2)両側アキレス腱反射の低下あるいは消失(3)両側内踝の振動覚低下(C128音叉にて10秒以下)の2つ以上を有するものをありと定義した。

また,冠動脈疾患および脳血管疾患は,それぞれ過去に狭心症や心筋梗塞,あるいは脳血栓,脳塞栓,脳出血,そしてくも膜下出血等の既往があったかどうかを調べた。

4. 統計学的解析

PISAによって評価した歯周病重症度別対象者の特徴について,年齢性別調整平均値および割合を算出した。PISAにより評価した歯周病重症度と糖尿病関連疾患との関連を検討するために,歯周病重症度の軽度群に対する中等度群,重度群の各糖尿病関連疾患罹患の性別・年齢調整,および多変量調整オッズ比をロジスティック回帰分析にて算出した。さらに糖尿病の重症度別(HbA1c < 10%,≥ 10%)に層別して同様の解析を実施した。多変量調整は,年齢,性別,BMI,喫煙習慣,飲酒習慣にて調整した。統計解析には,解析ソフトSAS Ver.9.4を使用した。両側検定でP<0.05を有意水準と設定した。

結果

PISAによって評価した歯周病重症度別対象者の特徴についての年齢性別調整平均値および割合を表1に示す。歯周病が軽度,中等度,重度の者の平均年齢は,それぞれ,65.3,63.4,58.6歳で,歯周病重症度が重度であるほど,年齢は低かった(P<0.001)。また,歯周病が軽度,中等度,重度の者の平均現在歯数は,16.9,18.9,22.0本,全顎6点法での歯周病検査における4 mm以上の歯周ポケットの割合は,22.6,43.2,52.3%,BOPは29.5,50.2,74.8%で,歯周病重症度が重度であるほど,現在歯数,4 mm以上の歯周ポケットの割合およびBOPは増加した(P<0.001)。また,歯周病が軽度,中等度,重度の者のScheiによる骨吸収率(%)は,それぞれ26.8,28.2,31.2%で有意な差があった(P<0.001)。

PISAによって評価した歯周病重症度と糖尿病合併症との関連を表2に示す。PISAによる歯周病重症度と各糖尿病合併症の間に有意な関連は認められなかった。表3に歯周病重症度と動脈硬化との関連を示す。頚動脈肥厚IMTとの間に有意な傾向があった。

そこで,IMTに関して,糖尿病重症度にて層別化したところ,HbA1cが10%未満群では,PISAによる歯周病重症度軽度群に比べて重度群では有意にIMTのオッズ比が高く,年齢,性別,BMI,喫煙習慣,飲酒習慣で調整したIMTのオッズ比(95%信頼区間)は,2.74(1.02-7.40)であった(P=0.05)。一方,HbA1cが10%以上の群では,有意な差はなかった(表4)。

表1

PISAによって評価した歯周病重症度別年齢性別調整平均値および割合

表2

PISAによる歯周病重症度と糖尿病合併症との関連

表3

PISAによる歯周病重症度と動脈硬化との関連

表4

PISAによる歯周病重症度と頚動脈肥厚(IMT)との関連

考察

本研究では,PISAによる評価法を用いて動脈硬化などの糖尿病合併症との関連について検討した。

本研究では,歯周病重症度が重度であるほど,年齢は低く,現在歯数,全顎6点法での歯周組織検査における4 mm以上の歯周ポケットの割合およびBOPは増加した(表1)。また,歯周病重症度が重度であるほど,Scheiによる骨吸収率は,有意に高くなった。年齢が高齢化するに伴い,現在歯数は減少し,歯周ポケットの4 mm以上の割合およびBOPは増加傾向にある13)。このことは,年齢が高い患者は歯周病が著明に進行したため,抜歯を行った可能性がある。また,年齢が低い患者は年齢が高い患者に比較して,歯周組織破壊がより急速に進行している可能性があると考える。つまり,年齢が低い者ほど,抜歯や歯周病治療が必要な歯があるにもかかわらず,未治療のまま残存放置していることが考えられる。それにより,歯周組織の炎症が多い,つまりPISAの値が高い結果となったと推察する。

また,PISAによる軽度,中等度および重度歯周炎の3群とも,HbA1cとは有意差がなかった。それぞれ3群の平均値は10%を超えていた。本研究の対象者が,元々血糖コントロールが非常に不良であり,糖尿病教育入院を必要とする患者であったため,相関関係がなかったものと考える。さらに,糖尿病重症度(HbA1c)にて層別化したところ,HbA1cが10%未満群のPISAの平均値は510.4 mm2で,10%以上群では,548.4 mm2と有意にPISAの値は高かった(P=0.04)。

PISAによる歯周病重症度と各糖尿病合併症の間に有意な関連は認められなかった(表2)。歯周病と糖尿病合併症である糖尿病腎症,網膜症,神経障害,心血管障害および脳血管障害が正の関連を認める報告がある14-16)。特に,糖尿病性腎症との関連性を報告している文献は多い。しかし,本研究では,歯周病とそれら糖尿病合併症との間には有意差はなかった。それぞれの合併症患者に軽度,中等度および重度歯周炎を有する患者数が少なく,また対象者の血糖コントロールが非常に不良で糖尿病教育入院を必要とする患者であったため,相関関係がなかったのではないかと考える。

IMTは,頚動脈血管壁内腔側の表層を構成する内膜と中膜の厚みを示す。動脈硬化の進展に伴って肥厚することから,動脈硬化性ハイリスク患者のスクリーニングおよび脂質異常症,高血圧症,糖尿病,危険因子が複合したメタボリックシンドローム,喫煙等の生活習慣病における治療効果の指標とされている17-19)。PWVは,心臓から駆出された血液の衝撃により生じた動脈の脈動が,末梢へと伝播していく波の脈波である16)。動脈の硬さは,血管の器質的変化と機能的変化を含んでおり,PWVはその両方を反映した指標である。メタボリックシンドロームの危険因子の重積に伴い,PWVが亢進し20),また,糖尿病患者は,PWVが高値を示すことが報告されている20)。APIは,再現性が高く,客観性の高い,非侵襲的検査として足首の最大収縮期血圧と上腕の最大収縮期血圧の比で定義される21)。50歳以上の糖尿病患者には5年ごとにAPIを閉塞性動脈硬化症のスクリーニング検査として行うことを推奨している22)。本研究では,2型糖尿病患者において動脈硬化性疾患の発症・進展の予防は臨床上大変重要であり,スクリーニング検査として,有用なIMT,PWVおよびAPIを用いた。

Lopez-Jornetら23)は,45歳以上の全身的に健康な60名(30名:慢性歯周炎,30名歯周炎なし)を対象にアテローム性動脈硬化症の心血管危険因子と歯周病について調べた。歯周病重症度は,CALにより軽度,中等度,重度と定義した。IMTは歯周病群とコントロール群の2群間では統計的な有意差はなかったが,頚動脈アテローム性プラークの存在と歯周病の重症度に関しては,有意な差がみられたと報告した。この研究では,対象患者は糖尿病患者に特化していなかった。また,Magdalenaら24)は,2型糖尿病119名において,歯周病と心血管疾患とその進行との関係を調べた。歯周病は,歯周ポケット,CAL,plaque index(PI)およびBOPで評価された。深いおよび活動期の歯周ポケットの数と左心室質量指数(LVMI)の間に男性において正の相関があり,IMTは,歯周ポケットとBOPと相関したと報告した。

糖尿病患者では,健常者に比べ有意にIMTが増加する25)。ことに20~40歳代の糖尿病患者のIMTは,健常者50~70歳代と同等である。糖尿病患者では,健常者に比較して,20~30年早く動脈硬化が進展している可能性がある。本研究では,歯周病重症度と動脈硬化の指標であるIMT,PWV,およびAPIとの間に有意な関連はなかった(表3)。その中でも,IMTに関しては,P値が0.07であった。

次に,PISAによる歯周病重症度とIMTとの関連をみた。糖尿病重症度はHbA1c 10%をカットオフ値に設定し,層別化したところ,HbA1cが10%未満群では,PISAによる歯周病重症度軽度群に比べて重度群では有意にIMTのオッズ比が高く,歯周病軽度群に対する重度群のIMTのオッズ比は,年齢,性別で調整したIMTのオッズ比(95%信頼区間)で,2.63(1.03-6.73),年齢,性別,BMI,喫煙習慣,飲酒習慣で調整したもので,2.74(1.02-7.40)であった。HbA1cの値に関しては,Yangら26)は,2型糖尿病患者において,HbA1cはPAD(Peripheral Arterial Disease:末梢動脈疾患)の危険因子で,多変量解析によってハザード比はHbA1cが10%以上の場合,オッズ比(95%信頼区間)は,1.50(1.10-2.04)であったと報告した。HbA1cが10%以上の場合,動脈硬化が発症しやすいと考える。これにより,本研究では,HbA1c 10%をカットオフ値に設定した。

また,Yoshiharaら27)は,高齢女性において,慢性腎臓病(CKD)とPISAで評価された歯周病の相互作用を評価した。PISAが高値4分の1の者は,血清中の高感度CRPが高く,PISAは血清シスタチンCレベルとも有意に関連した。さらに,PISAと2型糖尿病の関連について調べた文献28)では,PISAと2型糖尿病患者のHbA1cの間に正の相関があった。PISAが333 mm2の増加は,他の要因の影響とは関係なく,HbA1cの1.0%の増加と関係した。本研究では,HbA1cが10%未満群と10%以上群のHbA1c値の平均値は,それぞれ9.3±1.7と12.1±1.8であり,PISAの平均値は,それぞれ510.4 mm2と548.4 mm2と有意にPISAの値は高かった(P=0.04)。

HbA1cが10%以上のような糖尿病コントロールが非常に不良な患者では,それ自体が,IMTを上昇させるため,歯周病の炎症による影響はマスクされてしまうと考えられる。

ここで,本研究の限界を次に挙げる。①本研究は横断研究であるため,因果関係については明らかではない。縦断研究により詳細に検討する必要がある。②歯周ポケットの測定は,複数の歯科医師または歯科衛生士によって測定された。そのため,歯周病の重症度に若干のずれが生じている可能性がある。しかしながら,可能な限り,同条件で測定されるよう事前にキャリブレーションを十分に行った。③本研究の対象者は,教育入院患者であったため,対象者の平均HbA1cは約10%と特殊な集団であることに留意が必要である。血糖コントロールが非常に不良な患者でなければ,教育入院を必要としない。また,外来患者では,本研究で動脈硬化の指標としたIMT,PWVおよびAPIを測定することは少ない。したがって,今後,糖尿病内科と連携をし,軽度および中等度の糖尿病患者対象者を増やし,検討したいと考える。

結論

糖尿病患者を対象としてPISAを用いた歯周病重症度と動脈硬化との関連を検討した結果,HbA1cが10%未満の者は,歯周病と頚動脈肥厚IMTとの関連を認めた。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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