日本歯周病学会会誌
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症例報告
異種骨移植による歯周組織再生療法を行った18年経過症例
小出 容子鈴木 基之宮下 元山本 松男
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2022 年 64 巻 4 号 p. 167-181

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要旨

重度の垂直性骨吸収に対する治療法として,近年開発されたFGF-2製剤(リグロス)をはじめ,これまでに骨移植術,GTR法やエナメルマトリックスタンパク(エムドゲインゲル)を用いた歯周組織再生療法が行われている。今回,2次性咬合性外傷を伴う重度慢性歯周炎(ステージIV,グレードB)患者にコラーゲン使用人工異種骨(ウシハイドロキシアパタイト:HA)移植による歯周組織再生療法とヘミセクションを行い良好な長期経過を得ているので報告する。歯列不正はあるがプラークコントロールは良好で,SPT開始7年後に癌のため長期間化学療法を受け,副作用で味覚障害を一時的に生じたが口内炎の発症はない。移植から18年経過したHAは,エックス線的に置換・吸収されず残存するが感染源とならずに歯周炎の急性発作や歯周ポケットの進行もなく機能している。歯周外科後の歯周組織および化学療法中の口腔環境の維持に,徹底したプラークコントロールは有効であると考える。

Abstract

Treatment for severe vertical bone resorption in periodontal tissue regeneration therapy includes the recently developed recombinant human FGF-2 therapy (REGROTH®), bone graft, guided tissue regeneration (GTR), and enamel matrix proteins (Emdogain® gel). We report an excellent long-term outcome in a patient with severe chronic periodontitis (stage IV, grade B) with secondary occlusal trauma, who underwent periodontal tissue regeneration therapy using artificial bone (hydroxyapatite: HA) grafting and hemisection.

The patient had malocclusions but suitable plaque control. However, seven years after the start of SPT (supportive periodontal therapy), the patient underwent long-term chemotherapy for cancer, which caused temporary taste disorder, but no onset of stomatitis. Eighteen years after the bone grafting, the HA remains without radiographic replacement or resorption, and there are no functional problems, it has not been a source of infection, and there have been no acute symptoms or periodontal pocket progression. We believe that thorough plaque control effectively maintains periodontal tissue after periodontal surgery and the oral environment during chemotherapy. We concluded that complete plaque control effectively maintains periodontal tissue after periodontal surgery and the oral environment during chemotherapy.

緒言

重度の垂直性骨吸収に対する治療法として,近年開発されたFGF-2(Fibroblast Growth Factor-2)製剤(リグロス)をはじめ,これまでに骨移植術,GTR(Guided Tissue Regeneration)法やエナメルマトリックスタンパク(エムドゲインゲル)を用いた歯周組織再生療法が行われている1)。骨移植術で用いられる骨補填材には,自家骨,他家同種骨,他家異種骨,人工骨がある。自家骨は骨形成能,骨伝導能,骨誘導能のすべての性質を有し,最も古くから用いられるゴールドスタンダードだが,供給側の侵襲や供給量に制限のある点が短所である。自家骨以外の骨補填材は,供給側の侵襲や供給量に制限のない点が長所である一方,骨誘導がないため,骨置換が十分に生じない点が短所である。また,自家骨と人工骨以外の骨補塡材は製造過程での未知の感染リスクの可能性を否定できない1,2)

根分岐部病変に対する治療法は,従来の歯周基本治療,トンネリング,GTR法,歯根分離(セパレーション),歯根切除(ルートリセクション),歯根分割抜去(ヘミセクションおよびトライセクション)がある1)。根分岐部内と歯根周囲の歯槽骨吸収の進行度,歯根の分離状態,歯髄の生活反応の有無などさまざまな条件から選択される。歯根分割抜去は,根分岐部病変を呈した歯根のいずれかに進行した歯槽骨吸収がみられ,ルートトランクが長過ぎずに歯根の分離がよい場合適応となる。歯髄が保存できないため,歯根破折や根尖性歯周炎の再発のリスクを伴うことが短所である3,4)

今回,保険適用である異種骨HAを骨補塡材として骨縁下欠損部を補塡する目的で使用し,2度の根分岐部病変に対してヘミセクションを行った。SPT開始7年後に卵管癌を発症したが,歯周治療後の良好な長期経過を得ているので報告する。

症例

・患者:53歳,女性(初診日:2002年8月)

・主訴:下顎右側第一大臼歯部の舌側歯肉腫脹と疼痛

・現病歴:7か月前に腫脹したがすぐに消退したため放置していた。その後,1週間前から同部位が腫脹したため近医を受診し抗菌薬を処方されたが改善しないため,昭和大学歯科病院歯周病科に来院した。

・歯科的既往歴:6年前に上顎前歯部の空隙に気付いた。2年前に近医で歯周治療を受け,その際31,32,35を抜歯,下顎前歯部にブリッジが装着された。その後家族の介護のため歯科治療を中断した。他部位の修復物は10年以上前う蝕治療のため装着された。

・喫煙歴:なし

・全身既往歴:右側乳癌(43歳,全摘出+リンパ節郭清),高血圧症,WPW(Wolff-Parkinson-White)症候群

・服用薬剤:カルスロット(カルシウム拮抗薬:降圧薬)

・特記事項:歯科恐怖症

1. 口腔内所見

残存歯は,17-11,21-27,36-38,34,33,41-47の26歯,4 mm以上の歯周ポケット43%,プロービング時の出血(BOP:Bleeding on Probing)60%で全顎的に動揺が認められた。また,上下顎左右側臼歯部に根分岐部病変(Lindhe & Nymanの分類:17近遠心I度,16頬側II度近遠心I度,26頬側I度遠心II度,27頬側II度遠心I度,36頬側I度,37舌側II度,46頬側I度舌側II度,47舌側I度)が認められた。主訴である46舌側は,歯周ポケット深さ8 mm,BOP,歯周ポケット底と交通するsinus tractを伴った歯周膿瘍,歯髄電気診56で失活の傾向がみられた。口腔清掃指導を受けた経験はあったが歯間ブラシを使用しておらず,歯間部にプラークの付着が認められた。また,口呼吸を疑う口呼吸線とテンションリッジが認められた。初診時のO'Learyのプラークコントロールレコード(PCR)は60%で,歯ブラシをpalm gripで持ち,ストロークの大きい横磨きだった。歯列の状態は,11唇側転位と挺出,口唇閉鎖時に切縁が露出する口唇閉鎖不全が認められた。12舌側転位および12,13間に空隙がみられた。また,45は舌側に転位していた。咬合の状態は,右側がAngleの分類I級,左側がIII級だった。中心咬合位の際,14と44に早期接触が認められた。右側側方運動の際,14と44でガイド,非作業側の27と37,38に干渉が認められた。左側側方運動の際,23と33でガイド,非作業側の17,16と47,46に干渉が認められた(図1,表1)。

図1

初診時の口腔内写真(2002年8月)

表1

初診時の歯周組織検査(2002年8月)

2. エックス線画像所見

全顎的に歯根長1/2から2/3程度の水平性骨吸収と上下顎臼歯部に垂直性骨吸収が認められた。11に挺出と歯根長3/4におよぶ水平性骨吸収が認められた。また,歯根面に歯石と思われる不透過物が認められた。17,16,24,25,44,46に歯根膜腔の拡大が認められた(図2)。

図2

初診時のエックス線写真(2002年8月)

診断

2次性咬合性外傷を伴う重度慢性歯周炎(ステージIV,グレードB)

治療計画

1.歯周基本治療(炎症性因子・外傷性因子の除去)

・46急性発作のため切開・排膿,歯周ポケット内掻爬(緊急処置)

・口腔清掃指導,スケーリングおよびルートプレーニング

・咬合調整,暫間固定

・46抜髄処置

2.再評価

3.歯周外科(フラップキュレッタージ,ヘミセクション)

4.再評価

5.口腔機能回復治療[MTM(minor tooth movement),補綴治療]

6.再評価

7.メインテナンス

治療経過

1. 歯周基本治療(2002年8月~2003年8月)

・緊急処置

初診時に46舌側歯肉に直径約10 mmの歯周膿瘍が認められたため,浸潤麻酔下で切開・排膿,歯周ポケット内掻爬,抗菌薬の内服(ケフラールカプセル,共和薬品工業株式会社,大阪)および消炎鎮痛剤の頓服処方(ボルタレン錠,ノバルティスファーマ株式会社,東京)を行った。

炎症性因子の除去(口腔清掃指導,スケーリングおよびルートプレーニング)

プラークの為害性と歯頚部および歯肉辺縁部のプラークコントロールの重要性を説明した。口腔清掃指導は,歯肉腫脹が著しい部位でも痛みへの抵抗が少なく歯ブラシの毛先が歯面に当てられるよう軟らかめに加工された歯ブラシ(DENT. MAXIMA MS,ライオン歯科材株式会社,東京)でスクラッビング法を指導した。また,歯間部清掃は叢生部の狭い歯間に挿入しやすいようL字型の柄の長い細めの歯間ブラシ(DENT.EX歯間ブラシSSS,ライオン歯科材株式会社,東京)を使って,頬舌側の両方から清掃するよう指導した。その後,治療経過で鼓形空隙が大きくなったのに伴い,歯間ブラシのサイズはS,Mサイズの使用に変更した。

4 mm以上の歯周ポケットの部位に対して,浸潤麻酔下でルートプレーニングを2-3歯ずつ実施した。術後菌血症を予防するため抗菌薬を処方した。

・外傷性因子の除去

動揺のみられる歯,食片圧入および隣在歯との接触状態が緩く150 μmのコンタクトゲージが入る歯間部に対して,暫間固定(接着性レジン固定:スーパーボンド,サンメディカル株式会社,滋賀)を実施した。また,側方運動時の非作業側での干渉部位に対して咬合調整を実施した。

2. 再評価および2回目の歯周基本治療(2003年10月~2004年3月)

再評価を実施したところ,4 mm以上の歯周ポケットは初診時43%から17%に減少した。PCRは初診時60%から24%に減少し,上顎前歯部歯肉の発赤と腫脹は軽減したが,BOPは45%で全顎にまだ炎症が残っておりテンションリッジの残存が認められた。

再評価の結果をもとに,口腔清掃指導の強化と4 mm以上の歯周ポケット残存部位に再度スケーリング・ルートプレーニング,歯髄に失活状態が認められた46の抜髄処置を実施した(図3, 4,表2)。

図3

1回目の歯周基本治療再評価時の口腔内写真(2003年10月)

図4

1回目の歯周基本治療時のエックス線写真(2003年10月)

表2

1回目の歯周基本治療時の歯周組織検査(2003年10月)

3. 再評価および歯周外科(2004年3月)

根面のデブライドメントを目的として43-46フラップキュレッタージ,46根分岐部病変に対して遠心根分割抜去を実施した。その際,44近遠心部に舌側に骨壁のない2-3壁性骨欠損,45遠心に2壁性骨欠損が認められた。患者に術中に状況説明をし,患者了承のもと骨縁下欠損に対して異種骨HA(ボーンジェクト,株式会社高研,東京)を塡入,閉創した(4-0絹糸,単純縫合)。翌日創部と縫合の確認,消毒,暫間固定(歯根分割抜去後の46はカンチレバーの暫間被覆冠装着と接着性レジン固定)を実施した。1週間後に創部の消毒と機械的歯面清掃,抜糸を実施し,暫間固定が破損していないことを確認した。術後週1回程度の頻度で機械的歯面清掃を実施した際,歯周ポケットから塡入した異種骨の漏出が1か月間位まで認められた。また,術後2か月位までの間,2週間に1回位の頻度で暫間固定の破損が認められ,その都度暫間固定の修理と咬合調整を実施した。

術後5か月経過した2004年8月,家族の介護のため定期的な通院ができなくなったと患者から申し出があったため,特に口腔清掃を中断しないよう注意をして治療を中断した。図5に43-46の治療経過を示す。

図5

43-46部の治療経過

a. 初診時の口腔内写真(2002年8月)b. 2回目の歯周基本治療再評価時の口腔内写真(2004年3月)c. 歯周外科手術の術中の口腔内写真(2004年3月)d. 術後7週の口腔内写真(2004年5月)e. SPT移行時の口腔内写真(2009年5月)f. 最新SPT時の口腔内写真(2021年2月)g. 初診時のエックス線写真(2002年8月)h. 歯周基本治療再評価時のエックス線写真(2003年10月)i. 46根管充填後・術前のエックス線写真(2004年3月)j. 術後7週のエックス線写真(2004年5月)k. SPT移行時のエックス線写真(2009年5月)l. 最新SPT時のエックス線写真(2021年2月)

4. 治療再開および3回目の歯周基本治療(2007年6月~2008年12月)

治療中断から2年10か月後,患者から連絡があり治療を再開した。歯周外科を行った下顎右側臼歯部は,暫間被覆冠のカンチレバー部の破損は認められたが,歯周ポケットは3 mm以下であった。その他の臼歯部に4 mm以上の歯周ポケットとBOPが認められたため,口腔清掃指導,浸潤麻酔下でスケーリング・ルートプレーニング,暫間固定(接着性レジン固定),25全部鋳造冠除去および感染根管治療,38抜歯を実施した。

5. 再評価および歯周外科(2009年1月~2月)

2009年1月に3回目の歯周基本治療の再評価を実施した。25遠心に5 mmの歯周ポケットが認められたため,2月にフラップキュレッタージを実施した。口蓋側に浅い骨縁下欠損と棚状骨が認められたため,棚状骨に対して歯槽骨整形を実施し骨の平坦化を行い,閉創した。図6に25の治療経過を示す。

図6

25部の治療経過

a. 初診時の口腔内写真(2002年8月)b. 3回目の歯周基本治療再評価時の口腔内写真(2009年1月)c. 歯周外科手術の術中の口腔内写真(2009年2月)d. 歯周外科手術再評価時の口腔内写真(2009年4月)e. SPT移行時の口腔内写真(2009年5月)f. 最新SPT時の口腔内写真(2021年2月)g. 初診時のエックス線写真(2002年8月)h. 根管充填時のエックス線写真(2008年5月)i. SPT移行時のエックス線写真(2009年5月)j. 最新SPT時のエックス線写真(2021年2月)

6. 再評価および口腔機能回復治療(2009年4月)

再評価の結果,歯周ポケットは3 mm以下になったため口腔機能回復治療を実施した。25に全部鋳造冠,46近心根および47支台とするブリッジを製作装着した。

7. 再評価およびSPT(supportive periodontal therapy)(2009年5月~)

再評価の結果,4 mm以上の歯周ポケットは初診時43%だったが0%,BOPは初診時60%だったが12%に改善した。口呼吸線およびテンションリッジは消失していた。治療中に実施した暫間固定は,破損脱離することがなかったため,除去せずそのまま永久固定として,MTMによる歯列不正の改善を検討したが患者の同意が得られなかった。そのため,歯列不正の進行予防を目的としてオクルーザルスプリント(ハードタイプ,側方力がかからないよう咬合調整したもの)を装着し,現在に至るまで使用している(図7, 8,表3)。

SPT開始当初は3~4か月に1回の頻度,卵管癌の診断を受けた後は1~3か月に1回の頻度で定期的にSPTを行っている(卵管癌治療経過は下記詳述)。卵管癌診断後のSPTは,腫瘍摘出手術の入院直前と術後3か月から再開した。SPTの来院日は,化学療法による体調悪化を考慮し,体調が回復している化学療法実施日の数日前になるよう配慮した。SPT再開までの3か月間は,化学療法の副作用による味覚障害と口内炎により食事の摂取が難しい時期があった。味覚障害は,2017年11月からのベバシズマブⓇ*(bev,中外製薬株式会社,東京)療法開始後から徐々に緩和された。その後,化学療法が長期にわたり行われるが,口内炎の形成や歯周ポケットの進行,急性発作は認められていない。SPTで来院した際に口唇炎の訴えが1,2度あったが,口腔内に唾液量の減少に伴う口腔乾燥の所見は認められなかったため,1日数回ワセリンの塗布を指示し,症状は緩和された。

2019年3月にSPTで来院した際,舌尖,舌側縁,下唇の異常感覚(ピリピリ感)が数か月続いていると訴えがあったため細菌検査を実施し,口腔カンジダ症と診断された。フロリードゲル経口用2%(5 g/本,持田薬品製薬株式会社,東京)を処方,5日間使用したところ症状に軽快傾向が認められた。

SPT開始から13年経過するが,プラークコントロールの悪化や歯周ポケットの進行,急性発作,暫間固定の脱離は認められず,経過は良好である(図9, 10,表4)。

ベバシズマブ:総称名アバスチン,卵巣癌や子宮頸癌等に用いる抗悪性腫瘍剤の1つで,抗VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)ヒト化モノクローナル抗体。

図7

SPT移行時の口腔内写真(2009年5月)

図8

SPT移行時のエックス線写真(2009年5月)

表3

SPT移行時の歯周組織検査(2009年5月)

図9

最新SPT移行時の口腔内写真(2021年2月)

図10

最新SPT移行時のエックス線写真(2021年2月)

表4

最新SPT移行時の歯周組織検査(2021年2月)

8. 卵管癌の治療経過(2017年3月~)

SPT移行7年後の2017年3月に右側卵管癌と診断を受けた[high-grade serous adenocarcinomaリンパ管侵襲(Ly)+静脈侵襲(V)+,腹腔洗浄細胞診陰性(CY0),治療前腫瘍マーカーCA125:438,LDH:2317]。試験開腹後に術前化学療法としてパクリタキセル+カルボプラチン(TC)療法が3クール実施された。その後,単純子宮全摘出,両側付属器摘出,直腸高位前方切除,大網切除,右側横隔膜部分切除,左側横隔膜生検,播種切除が行われた。2017年7月から4クール目のTC療法が開始された。TC療法5クール目からbevが追加されたが,四肢の痛みおよび痺れの副作用のためTC療法からドセタキセル+カルボプラチン(DC)療法に変更された。2017年8月から49日間にDC療法が6-8クールとbev療法が3クール行われた。2017年11月から11か月間,bev療法が3週間隔21クール行われた。腫瘍摘出から2年半経過した2019年12月に脾臓背側に12 mmの腫瘤がCT画像所見で認められたため,2020年3月に脾臓摘出手術,High-grade serous adenocarcinoma involving the spleenと診断された。2020年4月から5か月間,ドキシル+カルボプラチン(PC)療法が6クール行われた。2020年10月,CT画像検査で転移や播種は認められなかったが化学療法による血球減少(血小板数20000 /μl)のため入院下での管理となった。2020年11月からオラパリブの投与が開始されたが,2021年1月に貧血(Hb5.8 g/dL)のため輸血目的で入院した(2日間輸血:RBC2単位/日)。その後,同月に薬剤性肺炎Grade 1と診断されたため,患者本人の希望もありオラパリブを中止した。

考察

治療計画の立案に際し,舌側歯肉に歯周膿瘍とsinus tractが認められた46,初診時から唇側転位と挺出が認められた11の保存可否と44・45の歯列不正,生活歯の根分岐部病変の4点を問題点とした。46は,歯髄電気診で反応の低下が認められ,失活に移行の可能性が疑われ,また根分岐部病変と骨縁下欠損が認められたため,歯根分割抜去を計画,実施した。11は,患者ができる限り保存を希望したため,矯正治療(MTMによる歯の圧下)を計画したが同意が得られず,歯列不正の進行予防のためオクルーザルスプリントを作製した。44・45の歯列不正(45舌側転位)は,歯列の連続性を配慮して45を抜歯せず,歯周外科手術を実施した。生活歯の根分岐部病変について,失活傾向(歯髄電気診:56)がみられた46以外の大臼歯は歯周基本治療の治療の反応性を見て最終的な治療方針を決定することにした。歯周基本治療の結果,初診時大臼歯部にみられた深い歯周ポケットは歯周基本治療により改善傾向が認められたため,抜髄および歯根抜去を回避できた。

今回,保険適用である異種骨HAを骨補塡材として骨縁下欠損部に使用し,2度の根分岐部病変に対してヘミセクションを行った。患者はSPT開始7年後に卵管癌を発症したが,初診から20年,外科的処置後18年経過し,歯周治療後の良好な長期経過を得ている。

・歯根分割抜去の予後について

根分岐部病変のある慢性歯周炎の予後について,根分岐部病変のない場合と比べて有意にアタッチメントロスをもたらすという報告5)や根分岐部病変の進行度により歯の生存率が影響されるという報告6)がある。根分岐部病変に対する治療法は,根分岐部内と歯根周囲の歯槽骨吸収の進行度,歯根の分離状態,歯髄の生活反応の有無などのさまざまな条件から選択される。各治療法の予後に関するいくつかのシステマティックレビュー7,8),後ろ向き研究9)の報告によれば,根分岐部病変に対する治療後の歯の生存率に関する報告7)は,非外科的アプローチでの5-9年後90%超である一方,フラップ手術や歯肉整形等の歯周外科の術後5-53年は42.9-96%,トンネリングの術後5-8年後は42.9-92.9%,GTR法の術後5-12年後は83.3-100%だった。歯根切除および歯根分割抜去した歯の生存率は,術後5-13年後で62-100%7),術後5-40年後で94.8%9),術後1-27年後で85.6%8),術後5-23年後で90%超だった。Setzerら8)は,歯根切除と歯根分割抜去を比べた歯の生存率に関するシステマティックレビューで統計学的有意差はないと報告している。いずれの報告も軽度の根分岐部病変に対しては非外科的なアプローチで長期管理とほぼ100%に近い保存が可能であること,治療後に多く遭遇する合併症として歯根抜去・歯根分割抜去では歯根破折や根尖性歯周炎の再発・失敗,トンネリング後の根分岐部内のう蝕について報告している7,10,11)。歯根分割抜去を行う際,歯冠の切断部が分岐部中央よりやや保存すべき歯根寄りに設定して歯冠歯根移行部をできる限り平滑にすることが臨床成績を良好にすると言われている3,11,12)。また,歯根抜去・歯根分割抜去の予後を改善させる方法として,保存する歯根周囲に残存する歯槽骨量が十分にある傾斜歯でないことや根管治療時に過度の拡大を抑えること,定期的な咬合診査や調整,メインテナンスにおけるプラークコントロールの重要性を挙げている11,13,14)。本症例においても,歯根分割抜去後に保存した歯根周囲に比較的歯槽骨が残存し歯周炎の再発がなかったこと,咬合の安定やメインテンス時の良好なプラークコントロールが認められていることから,長期的に良好な状態が維持できていると考える。

・骨補塡材移植後の予後について

移植骨片が移植床で生育するためには,局所で吸収され骨誘導能による新生骨の形成が起こることが必要である。この要件を満たすのは,骨形成能,骨伝導能,骨誘導能の全てを兼ね備えた自家骨である。しかし,必ずしも骨欠損に見合う十分量を採取できるとは限らない。自家骨採取の実施は,術者の経験,スキルが求められる。歯周外科手術を実施した当時の著者のスキルでは自家骨採取が難しく,異種骨HAの1つであるボーンジェクトを垂直性骨吸収に対して用いた。ボーンジェクトは,1,100℃で焼成したウシ骨由来のHAと2%ウシ真皮由来アテロコラーゲン溶液を混合(3:2の割合)した複合材料で1993年に国内承認されている。ボーンジェクトと同じウシ骨由来の異種骨HAにはBio-Oss(Geistlich Pharma AG,Wolhusen,Switzerland)があり,世界中で使用されている骨補塡材である。Bio-Ossを用いた報告が多くある一方で,ボーンジェクトを使用した報告は少ない。使用したボーンジェクトSサイズの粒径は0.3-0.6 mmで,Bio-Oss(Sサイズの粒径:0.25-1.0 mm)と比べて小さい。Bio-Ossの焼成温度等の製造工程の詳細は明らかではないが,動物実験や生検の結果でほとんど吸収されず数年の長期間にわたり残存している報告がある15-17)。骨縁下欠損に対する骨移植術とフラップ手術の臨床結果を比較したシステマティックレビューにおいて,フラップ手術と比較して骨移植術後のCALとプロービングポケット深さで有意な改善が認められたが,骨移植材の違いによる臨床結果に有意差は認められていない2)。しかし,本症例において術後18年経過するがエックス線画像所見でHAと思われる顆粒状の不透過像が認められるため,移植したHAは置換・吸収せずに顎骨内に残存していると考えられる。ボーンジェクトを用いた症例に対する研究報告は極めて少なかったため,Bio-Ossを用いた研究結果から異種骨HA骨補塡材移植後の予後について考察を加えた。垂直性骨欠損に対してオープンフラップデブライドメント(OFD)とBio-Ossを併用した場合を比較したRCT(Randomized Controlled Trial)では,術後1年では術前と比べてエックス線写真における骨欠損深さの変化量についてBio-Ossを併用した方が有意に大きかったが,歯肉退縮,歯周ポケットの減少,臨床的アタッチメントゲインについてはいずれの治療法においても術前と比べて改善があったものの,統計学的な有意差は認められなかった18)。一方で,垂直性骨欠損に対する治療法としてアクセスフラップ手術と歯周組織再生療法を比較したメタ解析の結果は,GTR法やエナメルマトリックスタンパクを併用した場合,Bio-Ossを更に追加した方が臨床的アタッチメントゲイン,歯周ポケット深さの減少,歯肉退縮のいずれの臨床結果も有意に良かった19,20)。使用できたエビデンスが限られたため明確なヒエラルキーの構築はできなかったが,骨補塡材の使用により一般的にOFDと比較して歯周組織再生療法は残存ポケット深さが浅く,臨床的アタッチメントゲインが大きく,中期(3-5年)から長期(5-20年)ベースで歯の生存率が高いことを示している20)。また,本症例では遮蔽膜を併用しなかったが,一般的に骨補塡材単独よりも遮蔽膜を併用した場合の臨床結果が良かった19,20)との報告がある。

骨補塡材を併用した場合,遭遇する合併症には,骨補塡材の漏出,感染が考えられる。感染については,術直後だけではなく置換・吸収されずに残存した骨補塡材が感染源となり術後15-17年経過してから摘出した報告21)があるため,今後も注意する必要があると考える。

・本症例の長期安定につながった要因について

本症例はSPT開始から13年経過するが,病状の再発および進行はみられない。本症例における長期安定につながった要因は,良好なプラークコントロール,垂直性骨欠損が少なく骨の平坦化の獲得,咬合の安定,非喫煙者,定期的なSPTの継続の5点と考える。

良好なプラークコントロールの維持と外傷性咬合やブラキシズム等の咬合のコントロール,非喫煙は,歯周治療全般を通して治療成功の鍵を握っている22-24)。30年にわたる長期間のメインテナンス・SPTの経過を調査した結果,適切なプラークコントロールはう蝕の発生や歯周病の再発,歯の喪失を予防できると明らかにしている25)。本症例でも,SPT中のPCRは10%以下に維持されている(図11)。また,咬合調整や口腔機能回復治療,オクルーザルスプリントの使用により外傷性咬合の対応をしたが,咬合力が強くないためSPT開始後も咬耗による咬合の変化がほとんど認められなかったことが確認できた。

アタッチメントロスがあるにも関わらず歯周治療を行わなかった場合,0.24-2.46 mm/年の速さで歯周ポケットは深くなり,0.36歯/年の割合で喪失する26)。垂直性骨欠損のある歯に対して歯周治療を行わなかった場合,10年後に骨吸収がさらに進行し,歯の喪失が増えることが明らかになっている27)。本症例においても2-3壁性骨欠損に対して骨補塡材を用いた歯周外科治療を行った結果,骨の平坦化を獲得し,骨吸収の進行を抑え,歯を喪失せずに初診から20年,術後18年経過できていると考える。そして,骨の平坦化を獲得し,術後に舌側の歯肉退縮を抑制できたことがプラークコントロールを行い易い環境をもたらしていると考える。

歯周治療後のアタッチメントロスや歯の喪失を防ぐ重要な因子は,定期的なメインテナンス・SPTと考えられている24,28-32)。本症例におけるSPTでのリスク評価(PRA:Periodontal Risk Assessment)33)について,SPT開始時のPRAはBOP:中リスク,プロービングポケット深さ≥5 mm:低リスク,歯の喪失数:高リスク,年齢に対する歯槽骨喪失:中リスク,全身状態:評価対象外の結果より,moderate PRAだった。しかし,卵管癌診断後は全身状態:高リスクとなるため,high PRAの評価になる。そのため,本症例ではSPT開始当初は3~4か月に1回の頻度,卵管癌の術後は1~3か月に1回の頻度で定期的にSPTを行っている。定期的なメインテナンスは,患者のプラークコントロールに対するモチベーション維持や体調の変化を確認する上でも重要であると考える。

図11

O'Learyのプラークコントロールレコード(PCR)の推移

・歯周病罹患患者における悪性腫瘍治療について

SPT移行7年後の2017年に卵管癌を発症し,化学療法が約4年間行われた。癌の薬物療法において口腔粘膜炎は発症頻度の高い有害事象の1つだが,疼痛による患者のQOL(Quality of life)の低下,経口摂取の妨げから低栄養・脱水を惹起して全身状態の悪化,潰瘍部からの二次感染など口腔局所の問題にとどまらず全身的な合併症に波及する可能性がある34)。本症例では骨髄抑制による貧血で輸血が必要になる重篤な有害事象を生じたが,口腔内はカンジダや味覚障害の出現のみで潰瘍形成はほとんど生じていない。

がん治療をはじめとする周術期患者に対して歯周治療を行うことは,術後合併症の軽減につながる可能性があり,周術期の口腔内管理は重要であると考えられている1)。日本における2019年度のがん罹患届出数は99万9,075人で,粗罹患率(人口10万対)は791.9である。年齢階級別での罹患数は45歳未満および45-64歳の割合が,各4.2%と20.3%で,65-74歳および75歳以上では,各30.1%と45.4%であった35)。これらのデータより日常臨床において診療の主たる対象となる慢性歯周炎患者の年代は,がんに罹患する可能性が高いことが明らかである。しかし,がん治療中の患者に対する歯周治療やメインテンス・SPTを行う機会に多く遭遇するが,歯周治療やメインテナンスのがん治療による影響に関する報告や調査は少ないのが現状である。

結論

本症例は,歯周外科治療後に置換・吸収されずに残存する骨補塡材が,歯肉退縮の防止やCALの維持に術後18年経過後も有効で,徹底したプラークコントロールと定期的なメインテナンス・SPTの管理下により易感染のリスクを低減できたことを示している。

また,徹底したプラークコントロールと定期的なメインテナンス・SPTは,再生した歯周組織の維持だけでなく,化学療法中の口腔環境の維持にも有効であることを示すエビデンスの1つとなると考える。

謝辞

本論文の執筆にあたり,卵管癌の治療経過の詳細をご提供頂きました公益財団法人がん研究会有明病院婦人科 野村秀高先生に深謝致します。

その他

本論文の要旨は,第64回春季日本歯周病学会学術大会(2021年5月22日,演題名「人工骨移植による歯周組織再生療法を行った17年経過症例」)において発表した。

著者役割

小出容子:当該症例の主治医,論文執筆

鈴木基之:当該症例の主治医指導医,論文執筆に関与

宮下 元:当該症例の主治医指導医,論文執筆に関与

山本松男:当該症例の主治医指導医,論文執筆に関与

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
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