日本歯周病学会会誌
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教育賞
能動学習のための仕掛けを組み込んだオンライン授業におけるグループ討議とピア・ラーニングによる臨床実地問題作成を通した学生の学びに関する検討
大澤 銀子加藤 智崇仲谷 寛
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2022 年 64 巻 4 号 p. 192-198

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要旨

目的:令和2年度の日本歯科大学生命歯学部の臨床実習はCOVID-19の影響により一部がオンライン講義となった。そこで,臨床実習の代替となるような能動学習の効果を期待して,臨床実地問題作成を課題としたオンライン講義を行った。課題実施後に本取り組みにたいするアンケート調査を行い,学生にどのような学びがもたらされたかについて検討した。

方法:本学第5学年の学生124名を7~8名のグループに割り当て,症例を基に臨床実地問題を作成する課題を実施した。課題作成にあたってはグループ討議やピア・ラーニングを通して能動的に学習するような仕掛けを組み込んだ。講義終了後にアンケート調査を行い量的および質的に分析した。

結果および結論:本取り組みの結果,80%の学生は自身の学びになったと考え,自習時間が増えた学生は約60%であった。また,約84%の学生は学生同士の話し合いは,学ぶ上で役立ったと回答した。自由記述による抽出語計量テキスト分析から本取り組みは,「知識の定着」,「知識の補完」,「理解の深まり」,「自ら考える力」を促進する結果となった。また,「他者の意見」を聞くことにより学生は不足していた知識を共有し,学びを深めることができたと考える。

しかしながら,一部の学生は学習に取り組む姿勢が消極的であり,今後,さらに能動学習を促し,学習成果につながるような学習方略を検討する必要があろう。

Abstract

Objective: A part of the clinical clerkship at the Nippon Dental University School of Life Dentistry was shifted to online lectures during the COVID-19 pandemic in 2020. Therefore, we conducted online lectures about student-generated clinical multiple-choice questions (MCQs) with the expectation that they would serve as a substitute for clinical clerkship and promote active learning. A questionnaire survey was performed after the online lectures to discuss the effects of this strategy on the students' learning.

Methods: A total of 124 students in the fifth grade were assigned to groups of 7 or 8 students and given the task of creating multiple-choice questions based on clinical cases. The assignment was done with active learning through group discussions and peer learning. Questionnaires were administered after all the lectures and analyzed quantitatively and qualitatively.

Results and Conclusion: After this course, 80% of the students thought that they had learned for themselves well, and about 60% said that their self-study time had increased. About 84% of the students also indicated that the discussions among students had been helpful for their learning. The quantitative text analysis based on free-text descriptions indicated that this course promoted "acquisition of knowledge, " "advancement of knowledge, " "a richer understanding, " and "ability to think independently. " We also believe that by listening to "others' opinions, " the students were able to fill gaps in knowledge and deepen their learning. However, some students were still reluctant to engage in learning, and it is necessary to consider further learning strategies to encourage more active learning and obtain better learning outcomes.

緒言

大学教育の現場では,学習者が主体的に学習ニーズを理解,必要な知識を獲得,問題解決できる能力を培う場を提供することが求められる。さらに,学習支援者は学習者の学習目標到達のために,学習意欲や学習効果を最大限に引き出す工夫をおこない,その学習内容を定着するよう努める必要がある。

日本歯科大学生命歯学部では,第5学年の4月からの12か月間,臨床実習を行っている。臨床実習では,学習者である臨床実習生が習得した知識,技能,態度を総合的に発揮し臨床現場を通して学習内容が定着される。しかしながら,令和2年度の臨床実習はCOVID-19の拡大,さらには感染症予防のため,臨床実習の一部をオンラインによる講義形式とするなど大幅に変更せざるを得ない状況となった。その結果,実習の約半分はオンライン学習となり,受動的な講義が多くを占める結果となった。そこで,臨床実習の代替としての歯周病学講義において,学習者が能動的に学習を行うような仕掛けを組み込んだ臨床実地問題作成を課題として行った。課題実施後に,本取り組みに対するアンケート調査を行い,学生の学びにどのような変化がもたらされたか量的および質的に検討を行った。

材料と方法

1. 講義の概要

令和2年度日本歯科大学生命歯学部第5学年後期の臨床実習代替歯周病学講義(全5回)をWeb会議システムZoom(Zoom Video Communications, Inc.)を利用して行った。講義は1回90分であり,124名の学生をグループA(62名)とB(62名)に分け,更に,そのグループの学生を7~8名の8班に分けた。スモールグループに与えた課題は,教員が提示した歯周炎患者の視覚素材と臨床検査結果を基にした臨床実地問題(多岐選択肢:MCQ)の作成である。症例は4種類を準備し,A,Bそれぞれ2班ずつ同じ資料を配布した(図1)。患者背景は自由に設定し,使用する視覚素材等は与えられた症例資料から各班が自由に取捨した。グループ討議はZoomシステムのブレイクアウトルームを活用した。討議中は学生同士で分からないことなどは積極的に教えあい,時間外にもオンラインにてグループ討議の時間を持ち,班員全員が理解を深めるよう指示した。オンライン講義の進め方を図2に示す。なお,複数の教員が各班のファシリテーションを行った。学生は4回目の講義までにプロダクトとしてPower Point(Microsoft)にて作成した臨床実地問題と解説を提出した。プロダクトは3~4枚にまとめ,1枚目に問題,2枚目に解説,そして,3枚目以降には問題を解くうえで関連する知識などをまとめるよう指示した。

図1

学生に提示した症例の1例

図2

オンライン授業の進め方

さらに,学生が能動的に学習を行う環境となるように下記に示すような仕掛けを組み込んだ。

1) 能動学習のための仕掛け

①ピア・ラーニングを促進するために,講義時間内のグループ討議の他に講義時間外にもグループ討議(オンライン勉強会)を持つことを課した。このオンライン勉強会の日時は講義のグループ討議時間内に決定し,その場で教員にメールで報告することで,確実に実施するように仕掛けた。

②オンライン勉強会の成果や内容,課題作成の進捗状況を必ず教員が設定した期限内にメールで報告することとし,学生の作業内容や進捗状況の振り返りを促した。

③作成した問題を発表するにあたり,発表者は発表直前に教員が指名することを前もって学生に伝えた。そのため,班員各自が課題を理解するために,学生同士で学びあい,班員全員の理解を押し上げる効果を期待した。

④授業時間における討議やメールでの進捗状況確認時に教員は,課題内容について,「学生に教える」のではなく「学生自身が考える」質問を投げかけるよう努めた。

オンライン講義第4回目はグループA,B各班の当日指名された学生がプロダクト発表した(プロダクトの発表)。第5回目では,グループA,Bのプロダクトを交換し,教員がプロダクトを提示した(別グループのプロダクトの提示)。全ての講義終了後に学生にアンケート調査を実施した。アンケートは,「通常の講義と比較してどの程度,自分自身の学びとなりましたか」,「通常の講義と比較して自習の時間は変化しましたか」,「班員との話し合いは学ぶ上で役に立ちましたか」,「最も効果的な授業の形式は次のうち,どの形式と思いますか」といった質問にたいして,4~5段階のリッカートスケールもしくは選択式回答を,「通常の講義と比較してよかった点」,「今回のグループ学習をよりよくするために改善すべき点」,「その他」について自由記述回答とした。

2. アンケート結果の分析

リッカートスケールと選択式回答の結果は,質問毎に集計した。自由記載内容に関しては,通常の講義と比較して良かった点を内容分析にて検討した。内容分析には,KH Coder(ver.3)を使用した計量テキスト分析を行った1)。テキスト分析を行うにあたり,「思う」という用語は抽出しないように設定し,抽出語の関連を把握するために共起ネットワークを行った。抽出語の最小出現数は4とし,最小スパニングツリーのみを描画した。

KH Coderは,形態素解析により自動抽出した語を用いたテキストマイニングを行う分析ツールである。その機能の1つである共起ネットワークは文章中に出現する語と語が共に出現する(共起する)関係性を直感的にとらえることができる分析方法であり,文章中に出現する単語の出現パターンが類似しているものを線でつないでいる。円が大きいほど出現回数が多く,語と語が線で結ばれているかどうかで共起性や関連性の有無を表し,線が太いほど関連性が強いことを示す。一方で,円の位置や近さは共起性との関連はない2,3)。なお,共起関係の解釈時には,Key Words in Context(KWIC)コンコーダンス機能を用いて,原文を参照して特定の語の前後の文脈を表示して確認した3)

3. 倫理的配慮

解析は学生の成績が判定された後に,個人情報を破棄したデータを用いて分析した。本研究は日本歯科大学生命歯学部倫理審査委員会の承認を受けて実施した(2021年6月4日承認,承認番号:NDU-T2021-01)。

結果

1. 対象者

アンケート回答者は,最終回の講義に出席した115名であった。

2. アンケート結果

1) リッカートスケールと選択式回答の結果

アンケート結果を図3a~dに示す。ピア・ラーニングを含むグループ学習の結果,80%の学生は自身の学びになったと考え,自習時間が増えた学生は約60%であった。また,約84%の学生は学生同士の話し合いは,学ぶ上で役立ったと回答した。一方で,効果的な授業の形式としては,オンラインによる講義が40.0%となり一番多く,オンラインのグループ学習は11.3%で一番少なかった。

図3

アンケート結果

2) 自由記述による共起ネットワークの結果

「通常の講義と比較してよかった点」に関する自由記述は58名から回答を得た。共起ネットワークによる分析では(上位60,最小出現数4)5つのサブグラフが表示された(図4)。サブグラフの抽出語および自由記述の文脈から,それぞれのタイトルを,サブグラフ01は「知識の定着」,サブグラフ02は「知識の補完」,サブグラフ03は「他者の意見」,サブグラフ04は「理解の深まり」,サブグラフ05は「自ら考える力」と名付けた。

サブグラフ01「知識の定着」では,抽出語の「調べる」「時間」「分かる」「勉強」「先生」が共起していた。具体例として「調べる時間が多くて知識の定着に役立った」「自分たちで考える時間が増えたのでわかっているところとわかっていないところが明確に分かり,時間を有効に使えました」などの記載が見られた。これらの記載から,自ら調べて,班員同士で勉強することにより知識がより定着しやすくなったと考える。

サブグラフ02「知識の補完」では,抽出語の「知識」「問題」「出来る」「グループ」が共起していた。「問題作成にあたって,知識の根拠を求められる点が良かった」「グループで話し合うことで,今足りない知識などを知り,補うことができた」などの記載から,班員同士での学びや,自ら学ぶことで今まで不足していた知識を補うことができたと考える。

サブグラフ03「他者の意見」では,「意見」「聞ける」「人」「他」が共起しており,例として「他の意見も聞けてより深まった」「臨床例を他の人と考えられた」などの記載があった。班員から様々な意見を聞くことで学びが促進されたと考える。

サブグラフ04「理解の深まり」では,「理解」「話し合う」「班」が共起していた。「話し合う機会が増え理解が深まった」「班のメンバーと話し合うことで,自分が気づかなかった視点にきづけた」などの記載が見られ,話し合いによってより理解が深まったと思われる。

サブグラフ05「自ら考える力」は「自分」と「考える」の抽出語が共起していた。「自分で考える力が身についたと思う」「自分で色々調べたので勉強になった」などの記載があった。本授業を通して学生自身が自ら考える機会が増えたと考える。

図4

自由記述による共起ネットワーク

考察

医療系大学で身に付けるべき能力のひとつは,実際の複雑な臨床問題や医学に関する科学的,もしくは倫理的事例に対して自ら学習ニーズを理解し,能動的に必要な知識を獲得し,その対象を分析・解析できるような問題解決能力である4)。臨床実習やケーススタディは能動学習であり,学習者自らが物事を理解し,把握した情報を関連付けることが可能であり,単なる事実を受動的に吸収するよりも効果的であると言われている5)

しかしながら,令和2年度においては,COVID-19の影響により本学の臨床実習は大きく制限され,その代替としてオンライン講義に変更せざるを得なかった。講義は均一な情報を多量に受け取る受動的な学習方法であるため,本取り組みでは臨床実習に則した学習効果が得られるよう学生自身で臨床データを読み取り,患者背景を考察して問題解決能力が得られるよう臨床実地問題作成を課題とした。さらに,グループ討議やピア・ラーニングを通してチームワークの醸成を期待した。

MCQは歯科医学教育において,一般的に用いられている評価方法のひとつであり,学生は試験対策などでMCQに慣れている。一方,医学生自身がMCQを作成することが有効な学習となることを示唆する報告も見られる6-9)。一般的に良い問題を作成することは,綿密に作成された正答に加えて,混乱させる誤答肢を作成する必要があり,解答することよりも多くの認知能力を必要とする10)。本取り組みでは,80%の学生は通常の講義と比較して勉強になったと回答し,63%の学生は自習時間が増えていた。さらに,約84%の学生は班員との話し合いは学ぶ上で役に立ったと回答している。

本活動においては能動学習を促進するような仕掛けをいくつか組み込んだ。学生は90分のリモートグループ討議の他に,時間外のリモート勉強会を必ず行うよう講義時間内にその日時を教員に報告することを義務とした。そして,その討議の内容や問題作成の進捗状況をメールにて報告することも義務付けた。メールでの報告に対しては,基本的に2名の教員が内容を確認してアドバイスを行った。その他の仕掛けとしては,課題発表者を当日,教員が指名することとした。これは,グループメンバー全員が課題内容を理解し,他者へ説明できるように班員同士で学び合うことを目的としていた。教えることには自分自身の学習を促進する一定の効果があるとされ11-13),今回の取り組みにおいて,学生同士で教えあうことで学びが促進されたと思われる。講義時間やメールでの学生とのやり取りにおいて,教員は出来るだけ学生に質問することで,学生自身が考えることを促すようにファシリテートした。学習方略について,西城と菊川4)は,「いかなる学習方略を提供するにせよ,その学習に参加したほうが良いと感じる学習者の価値観を刺激し,さまざまな学習に積極的に参加するよう動機を促す仕掛けを仕込むことが重要である」と述べている。アンケートの自由記載である「通常の講義と比較して良かった点」の内容分析の結果においても,能動学習の促進により,「知識の定着」,「知識の補完」,「理解の深まり」,「自ら考える力」といった内容がサブグラフとして抽出されており,これは積極的に学習に参加する仕掛けを組み込んだ成果と考えられる。

しかしながら,アンケートにおける改善すべき点に関する自由記載には,「先生からの助言の機会を増やしてもらいたい」などの意見が散見された。これは,学生らはこれまでの学習方略において受動的な講義にさらされることが多く,積極的に学習のプロセスに学生自身が関与することへの抵抗感があるのではないかと考える。また,グループメンバーの役割に偏りが出たといった記載や学習に取り組む学生の姿勢に温度差があったとの意見が複数見られた。能動学習を行う仕掛けを設定しても,実際には学生の取り組みに個人差が出てしまっていた。特にリモートの環境においては,消極的な学生にたいする教員の声かけやグループ全体の雰囲気を俯瞰することが難しかったためではないかと思われる。今後,グループワークを行う際には,消極的な学生への声掛けやわからない点への対応などにもさらなる仕掛けが必要であろう。

今回の講義を通して学習者のチームワーク向上も期待できると考えた。臨床現場では,多職種のメンバーと一緒にチームの一員として活動することが求められる。他者の意見に耳を傾け,自分と異なる意見においても受け止めることや自分の意見をしっかりと伝えることは現場では重要である。制限された臨床実習のなかでは,このようなチームワークを学ぶ機会は非常に減っており,今回のグループ学習がチームワーク醸成に役立つことを期待した。多くの学生はチームの一員として活動ができたが,一部は自分の役割を果たせなかったことは残念である。グループ学習やピア・ラーニングには,知識のみならず,態度領域における学習効果も期待できたのではないかと考える。

学習方略としての能動学習の仕掛けを組み込んだ臨床実地問題作成は多くの学生にとって「知識の定着」,「知識の補完」,「理解の深まり」,「自ら考える力」を促進する結果となったと考える。また,ピア・ラーニングにより「他者の意見」を聞くことにより自分自身に不足していた知識を共有し,学びを深めることができた。今後,さらに能動学習を促し,学習成果につながるような学習方略を検討する必要があろう。

本研究の要旨は,第64回秋季日本歯周病学会学術大会(2021年10月15日)において発表した。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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