日本歯周病学会会誌
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歯科衛生士コーナー
超高齢社会だからこそ歯科衛生士が知っておきたい含嗽剤としての新規機能水
荒川 真一
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2023 年 65 巻 1 号 p. 26-34

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はじめに

我が国は2022年9月現在,高齢者人口,高齢化率それぞれが3,627万人,29.1%を占めている超高齢社会であり1),口腔健康管理,在宅歯科医療を通した口腔保健・予防の重要性が高まっている。2016年本誌歯科衛生士コーナーで五味先生が,「歯科衛生士が知っておきたい洗口剤の応用」として歯科衛生士が行う薬物療法について解説され2),また歯周治療における化学的プラークコントロールの重要性については「歯周治療のガイドライン2022」に明示されている3)。一方,口腔衛生管理を実施する際,または特に高齢者の方々が含嗽する際には,洗口剤の誤嚥とともに誤飲にも留意する必要がある。しかし,微量ではあるもののかなりの頻度で口腔内に残留した洗口剤を嚥下してしまっている。一般的な洗口剤・含嗽剤は,洗口するために開発されており,誤飲した際に100%安全とは言い難い。一方,特にオゾン系の場合オゾンはタンパク質と反応し酸素に変換されるため安全性が保証されている。本コーナーでは,機能水の概説およびオゾンウルトラファインバブル水の基礎的性質と臨床応用について概説する。

様々な機能水

機能水(Functional Water)は,日本学術会議協力学術研究団体である日本機能水学会により「人為的な処理によって再現性のある有用な機能を獲得した水溶液の中で,処理と機能に関して科学的根拠が明らかにされたもの及びされようとしているもの」と定義されている4)

機能水は大きく分けて,電解水とオゾン水に分けられる。さらに,電解水は,洗浄消毒など衛生管理に使われる殺菌性電解水(強酸性電解水や微酸性電解水などの酸性電解水,電解次亜水,ならびに電解製オゾン水)と,持続的飲用による胃腸症状改善効果が明らかとなっている飲用アルカリ性電解水(アルカリイオン水)とに大別される。特に,微酸性電解水は新型コロナウイルスを不活化するので,次亜塩素酸ナトリウム(ちなみにこれは化学合成物質で機能水ではない)とともに注目されている。

一方,オゾン水とはオゾンが溶解した水であり,酸化活性が強く,抗微生物作用,脱臭,脱色などの性能を示す安全性の高い機能水である。0.1~10 mg/L(ppm)の溶存オゾン濃度のものが一般的で,その安全性ゆえに流水洗浄による衛生管理や食材の殺菌などに利用されている。しかし,オゾン溶存濃度は30分で半減(半減期が30分)してしまうため,製造後速やかに使用する(用時調製)必要があり,臨床応用する際,歯科医院でオゾン水製造器を設置しなければならず,ホームケアでも含嗽させる場合などには使用できないという欠点がある。安全性が高く,抗菌作用も備えたオゾン水を広く臨床応用するためには半減期を延長させることが必要であったが,ウルトラファインバブル技術によりそれが可能となった。

オゾンウルトラファインバブル水とは:小さい泡の大きな力

ファインバブルとウルトラファインバブルは,国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)において産生技術が開発され,独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)国際評価技術本部 国際規格課 ファインバブル室の主導により,日本が幹事国となりISO(国際標準化機構)にて2017年にファインバブル技術(ISO 20480-1:2017)として規定された物質である。

泡には,通常気泡,ファインバブル(旧:マイクロバブル)とウルトラファインバブル(旧:ナノバブル;UFB)に大別される。ウルトラファインバブルが含まれる水溶液をウルトラファインバブル水(UFBW)と呼び,オゾンの他に酸素,窒素,水素,空気などが含まれたUFB,UFBWが存在している。上記の内,殺菌作用のあるオゾンウルトラファインバブル水(OUFBW)について解説する。

1) 基礎的な性質

a) 物理的性質

3種類の泡(通常気泡,ファインバブル,UFB)は互いに大きさ(直径)が異なるが(図1a),大きさの違いだけでなく性質も異なり,特にUFBは含有する気体が数か月から年単位で保持される5)(図1b)。

我々の使用しているOUFBWは,オゾン濃度1.5 ppm,粒子の直径は76-440 nmの範囲にあり,平均直径は122 nm,中央値は91 nmである。また,1 mL中に16億8千万個のオゾンを含有した粒子が含まれている(図1c)。

図1a

様々な泡について

図1b

ウルトラファインバブル水とは

図1c

われわれが用いているOUFBWの物理的性質

b) 抗微生物作用(表1

OUFBWは,多剤耐性黄色ブドウ球菌,バンコマイシン耐性腸球菌,多剤耐性緑膿菌といった耐性菌,歯周病原細菌,う蝕原性細菌など,広範囲な細菌に対して抗菌活性がある6)。歯周病原細菌が属するグラム陰性細菌に対する殺菌機序としては,透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた観察からグルコン酸クロルヘキシジン(コンクール)とは異なり,細胞壁,細胞膜は破壊せず細胞質の凝集,各様態の凝縮を引き起こし殺菌することが明らかになった。さらに,真菌(Candida albicans)に対しては,殺菌作用はないものの,義歯などのレジン上での増殖を抑制することを明らかにした7)。さらに,ノロウイルス,インフルエンザウイルス,SARSコロナウイルス,日本脳炎ウイルスなどの各種ウイルスに対する抗ウイルス活性も保有していることを確認している。

表1

OUFBWの抗微生物活性

c) 口腔組織に対する安全性

アメリカFDAで認定されている3次元培養キットを用いて,口腔上皮細胞,口腔粘膜細胞に対する安全性を確認した6)(図2a)。ET50(生細胞数が半減する時間であり,時間が短いほど細胞毒性が高い)で比較した結果,口腔上皮細胞,口腔粘膜細胞において市販の含嗽剤がそれぞれ6.2時間,1.1時間であるのに対してOUFBWはどちらも24時間以上となり,安全性が確認された(図2b)。

図2a

OUFBWの安全性試験:3次元モデル

図2b

OUFBWの安全性

d) 抗酸化作用の誘導(図3

OUFBWの臨床的効果は,当該水の保有する抗菌活性が大きく関与していると考えられるが,さらに,他の機序としてOUFBWの生理活性誘導能も考えられた。そこで,ヒト歯根膜細胞にOUFBWを作用させ効果を検討した。その結果,活性酸素(reactive oxygen species,ROS)が発生することによって適度な酸化作用が起こり,抗酸化反応が誘導される(ホルミーシス効果)メカニズムの分子情報伝達経路を明らかにした8)。すなわち,OUFBWを歯根膜細胞に作用させることにより,適度な酸化作用が発生し,元来は負の作用を誘導する活性酸素により逆に抗酸化反応が誘導されるのである。

図3

OUFBWによる抗酸化作用の誘導

e) 創傷治癒能

マウス背部に創傷を作成し,OUFBWを滴下した結果(図4a),コントロールと比較して上皮化が有意に進行し,一方創傷面積については,有意差は認められなかったが小さくなる傾向が認められた(図4b)。また,mRNA発現の検討から,治癒初期においてはTNF-αなどの炎症性サイトカインをコードする遺伝子の発現が亢進し,いわゆるSeptic inflammationが誘導され,治癒中期では,それらの発現が抑制されかつFGFといった組織修復に有用な因子をコードする遺伝子の発現が上昇していた。したがって,治癒過程において,OUFBWは多面的に作用している可能性が示唆された9)

図4a

創傷治癒実験の方法

図4b

OUFBWによる創傷治癒の誘導

2) 臨床応用例

a) 歯周治療への応用(超音波スケーリング時の注水)

東京医科歯科大学病院歯周病外来を受診した初診患者20名を2群に分け,超音波スケーリング時の注水にOUFBW又は水道水を用いて,臨床指標,細菌数などの変化を検討した(図5a)。ベースライン時と処置後4週,8週でのポケット深さの減少量については,両期間において水道群と比較してOUFBW群で有意に減少量が大きかった(図5b)。さらに,歯肉縁下プラーク中の総細菌数の減少率に関しても,OUFBW群で有意に大きな値となり,その効果は水道水群と比較して長期に保たれていた10)

図5a

OUFBWを超音波スケーリング時の注水に用いた場合の歯周治療の補助療法としての評価

図5b

臨床パラメーターのベースライン時からの変化量

b) インプラント周囲炎(含嗽およびイリゲーション)

インプラント周囲炎治療への応用として,インプラント周囲溝のイリゲーションにOUFBWを用いたところ,CIST(Cumulative Interceptive Supportive Therapy)にて外科処置が必要と診断された症例において,外科処置なしで,インプラント周囲の歯槽骨の増生が認められた11)。同様な症例が複数得られている。

c) 周術期口腔健康管理における応用(含嗽)

歯科衛生士の業務として周術期口腔健康管理(周術期口腔衛生・機能管理)も重要な位置を占めている。そこで,われわれはOUFBW含嗽による口腔粘膜炎への効果を検討した。抗がん剤や造血幹細胞移植術時の免疫抑制剤投与,放射線療法によって口腔粘膜炎が発症し,がんなどの本体治療のコンプライアンスや治療のアウトカムに与える影響が大きいだけではなく,摂食機能が著しく阻害されるため入院生活の質(QOL)が極度に低下してしまう12)(表2a)。しかし,効果的な予防法・治療法はなく,現在も多くの入院患者が苦痛に耐え入院生活を強いられている現状がある。東京医科歯科大学病院血液内科病棟での入院患者(表2b)においても,造血幹細胞移植のための前処置で使用される大量の抗がん剤や全身放射線照射,移植片対宿主病(Graft versus Host Diseases:GVHD)予防で使用されるメトトレキサートなどが原因となり,同様な現状である。そこで,OUFBWによる含嗽を実施し,口腔粘膜炎の改善効果,QOL改善効果を評価した。その結果,OUFBWの含嗽により口腔粘膜炎,QOLが改善された(表2c)。作用機序として,口腔粘膜炎の潰瘍形成期における細菌感染の抑制,治癒期における創傷治癒(組織修復)能が機能していると考えている(図6)。OUFBWの特徴として,1.0.9% NaClが含まれており,粘膜炎に対し刺激が皆無:アズレン(アズレンスルホン酸ナトリウム水和物)などの他の含嗽剤と異なり含嗽を行っても痛みを感じない,2.オゾン水(Ozonated water)と異なり半減期が6か月から1年(以上)である,3.上記のように,殺菌作用と組織修復能を併せ持つ,など特徴があり口腔粘膜炎に対して効果的であると考えられた12)。また,化学療法剤による口腔粘膜炎発症予防も確認されている。

表2a

口腔粘膜炎発症率における他の治療法との比較

表2b

症例の背景情報(N=14)

表2c

口腔有害事象の発症率(N=14)

図6

OUFBWの口腔粘膜炎に対する効果の想定される作用機序

おわりに

超高齢社会において人々の口腔衛生状態を良好に維持するための補助手段として,化学的プラークコントロールは有効である。機能水,特にオゾン系機能水は安全性が担保され,殺菌能のみならず創傷治癒効果,抗酸化作用も備えている。口腔マイクロバイオータ(口腔細菌叢)をSymbiosisの状態にすることがひいては腸内マイクロバイオータをSymbiosisの状態にし,口腔のみではなく精神状態をも含む全身状態を良好に保つ上で重要であることは周知の事実である。今後は,一般的な含嗽剤のみに頼るのではなく,機能水にも目を向け,全身の健康に寄与していることを常に頭において日々の臨床に活用していただければと考える。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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