日本歯周病学会会誌
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ミニレビュー
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と歯周病
瀬名 浩太郎野口 和行
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2023 年 65 巻 2 号 p. 41-48

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要旨

新型コロナウイルスによって引き起こされたパンデミックは世界中の医療体制や経済活動に大きな影響を与え,我々の社会生活に多くの変化をもたらした。新型コロナウイルスの感染者の多くは軽度から中等度の症状を示すが,一部は重症となり死に至る。しかし,重症化のリスク因子の解明を含めた新型コロナウイルス感染症の病態の全容やメカニズムなどについて未だ不明な点がある。新型コロナウイルス感染症および歯周病の有病率は高齢者で高く,両疾患とも他の多くの基礎疾患との関連が指摘されている。本ミニレビューではCOVID-19/SARS-CoV-2感染と歯周病の関連性について現在までの知見の一部を紹介する。

はじめに

2019年12月に中国湖北省武漢市で病因不明の肺炎の集団発生が報告され,2020年1月,中国当局は,このウイルス性肺炎の原因が,新しいタイプのコロナウイルスであり,既知の他のヒトコロナウイルスとは異なるものであると報告した1)。その後,世界保健機関(World Health Organization;WHO)が新型コロナウイルスを重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2;SARS-CoV-2)と命名し,このウイルスによる病気をCoronavirus Diseases 2019(COVID-19,新型コロナウイルス感染症)と名付けた。国境を越えた急速な感染拡大により,WHOは2020年3月に正式にパンデミックの状態を宣言してから,全世界で700万人近い死亡者を含む7.5億人以上の新型コロナウイルス感染症の感染者が報告されている(https://covid19.who.int/,2023年4月末現在)。COVID-19は,世界中の人々の健康を脅かし,医療体制だけでなく,日常生活にも深刻な影響をもたらした。

歯周炎はプラーク,バイオフィルムのdysbiosisによって引き起こされる慢性の多因子性炎症性疾患であり,The Global Burden of Diseaseおよびその他の疫学研究より,成人の50%が軽度から中等度の,10%が重度の歯周炎に罹患し,人類を脅かす6番目に多い疾患と報告されている2)。また,歯周炎は糖尿病,動脈硬化症,関節リウマチ,がんなど多くの全身疾患のリスクを高めることが知られている3)。COVID-19と歯周病の関連を検討する研究が進められており,本ミニレビューではCOVID-19/SARS-CoV-2感染と歯周病の関連性について現在までの知見の一部を紹介する。

1. SARS-CoV-2感染およびCOVID-19

SARS-CoV-2は,鼻咽頭のぬぐい液,便,血液4),唾液5-7)および歯肉溝滲出液8)から検出されている。COVID-19は,口腔領域9-13)を含めた多器官1,14,15)に影響を与え,罹患者の症状は,軽度から重症まで多岐にわたる1,16)。感染者の80%近くは軽度から中等度の症状を示すが,20%は重度となり,6%は死に至る1,16)。高齢(65歳以上)は,COVID-19重症化の最も高い危険因子として特定されている17)ほか,性別,慢性肺疾患,中等度から重度の喘息,重度の肥満,糖尿病等の患者でも,COVID-19は重症化すると報告されている16-18)

SARS-CoV-2は2つの経路,宿主細胞の膜結合ペプチダーゼを介する経路とエンドサイトーシスを介した経路にて細胞内に侵入する(図1)。細胞へのSARS-CoV-2感染は,ウイルス表面のスパイクタンパク質(Sタンパク質)と,宿主細胞の細胞膜にあるメタロペプチダーゼであるアンジオテンシン変換酵素2(angiotensin-converting enzyme 2;ACE2)との相互作用から始まる19)。Sタンパク質は,別のプロテアーゼであるfurinによってS1とS2に切断される20)。S1は解離し,S2は細胞上のII型膜貫通型セリンプロテアーゼ(transmembrane protease serine 2;TMPRSS2)によってさらに切断される19)。このプロセスは融合タンパク質を誘導し,ウイルスと細胞膜との融合,およびその後の細胞浸潤を可能にする19)。その他にも各種プロテアーゼ(transmembrane protease serine 4;TMPRSS4,transmembrane protease serine 11D;TMPRSS11D,cathepsin B;CTSB,cathepsin L;CTSL,basigin/CD147;BSG/CD147)21)やneuropilin-122)も,SARS-CoV-2の細胞侵入への関与が報告されている。エンドソームへの侵入経路は,SARS-CoV-2のSタンパク質と宿主細胞膜受容体ACE2との相互作用とそれに続くウイルスの内在化によって引き起こされる。エンドソームでは,カテプシンLがSタンパク質をS1とS2に切断する21)。これにより,ウイルスゲノムを取り囲むカプシドとエンドソーム膜との融合,およびウイルスのゲノムの放出が可能となる。これらSARS-CoV-2およびコロナウイルスの細胞表面のレセプターや侵入に関わる因子は現在まで30近く報告されており,SARS-CoV-2 and coronavirus-associated receptors and factors(SCARFs)と呼ばれている21)が,中でもACE2とTMPRSS2は,SARS-CoV-2の感染プロセスにおいて,すべての侵入と感染の重要な因子である。

図1

SARS-CoV-2の構造および宿主細胞への侵入メカニズム

(A)SARS-CoV-2はNタンパク質が結合したウイルスゲノムとその周囲のSタンパク質やMタンパク質で構成されたエンベロープで構成される。Nタンパク質はウイルスゲノムの安定性に,Sタンパク質は宿主細胞への吸着・侵入,Mタンパク質はウイルス粒子の形成に関与する。Sタンパク質は,プロテアーゼによりS1およびS2サブユニットに切断される。(B)SARS-CoV-2は2つの経路,宿主細胞の膜結合ペプチダーゼを介する経路(BI)とエンドサイトーシスを介した経路(BII)にて細胞内に侵入する。SARS-CoV-2感染は, Sタンパク質と, ACE2との相互作用から始まる。Sタンパク質は,別のプロテアーゼであるfurinによってS1とS2に切断される。S1は解離し,S2は細胞上のTMPRSS2によってさらに切断される。このプロセスは融合タンパク質を誘導し,ウイルスと細胞膜との融合,およびその後の細胞浸潤を可能にする。エンドサイトーシスは,Sタンパク質とACE2との相互作用とそれに続くウイルスの内在化によって引き起こされる。エンドソームでは,カテプシンLがSタンパク質をS1とS2に切断し,これにより,ウイルスゲノムを取り囲むカプシドとエンドソーム膜との融合,およびウイルスのゲノムの放出が可能となる。ACE2:angiotensin-converting enzyme 2,TMPRSS2:transmembrane protease serine 2,BSG:basigin.

2. COVID-19重症度の危険因子としての歯周炎

Maroufらはカタールで行われた臨床研究より,歯周炎とCOVID-19の重症化との関連を報告した23)。歯周炎は,COVID-19の重症度に影響を与えることが知られている他の慢性炎症疾患とリスクファクターを共有しているため,多変量ロジスティック回帰を行い,年齢,性別,喫煙などの交絡因子,および基礎疾患(糖尿病,高血圧など)について調整を行った後,解析を行った。歯周炎はCOVID-19の重症化(オッズ比3.67,95%信頼区間1.46-9.27),COVID-19罹患による死亡(オッズ比8.81,95%信頼区間1.00-77.7),ICU入室(オッズ比3.54,95%信頼区間1.39-9.05)および補助換気装置の必要性(オッズ比4.57,95%信頼区間1.19-17.4)と有意な関連が見られた。これらの結果は,歯周病がCOVID-19罹患後の経過に重大な影響を及ぼすことを示している。

歯周炎とCOVID-19の重症度の間で見られた関連性にはいくつかの機序が提唱されている。口腔内細菌の誤嚥により肺疾患を誘発する可能性があることは知られており24),Takahashiらは,歯周病原菌(Fusobacterium nucleatum)の誤嚥が,ACE2,および下気道の炎症性サイトカインの発現を誘導することにより,COVID-19による症状を悪化させる可能性があることを示唆した25)

一方,体内で産生された炎症性サイトカインが多量に血液中に放出され,過剰な炎症反応が惹き起こすサイトカインストーム症候群は,COVID-19血栓性合併症,多臓器不全,および死亡の主な原因と見なされている26)が,歯周炎患者では局所のIL-1,IL-6といった炎症マーカーの慢性的な上昇が報告されており27),これら炎症マーカーの慢性的な上昇がCOVID-19によるサイトカインストームを悪化させるという仮説も提唱されている28)

3. COVID-19の歯周疾患への影響

COVID-19は,幅広い症状を示す多臓器疾患として認識されている1,9-15)。実際,ACE2およびTMPRSS2を発現するすべての細胞は,SARS-CoV-2の潜在的な標的となりえる細胞であり,これら細胞が構成する組織や臓器で炎症反応を誘発する可能性がある29)。これらウイルスのレセプターや細胞への侵入に関わる因子の,歯周組織を含めた口腔粘膜の上皮細胞における発現が報告されており6,29,30),COVID-19罹患患者では,味覚障害,壊死性歯周疾患,非特異的な口腔潰瘍,点状歯肉出血,口腔カンジダ症などの口腔内の病変が認められている31)

歯周組織からSARS-CoV-2が検出されており32),特定の種類の歯周病,特に壊死性歯周疾患では,ウイルスと細菌の共感染が病因メカニズムの可能性があると見られている33)。パンデミックの初期段階から,COVID-19患者では歯肉出血が認められ,ウイルス感染が収まった後に寛解する傾向が複数報告されている34)。さらに,COVID-19が疑われ,同時に壊死性歯肉炎の臨床診断を受けた患者が報告された35)。この症例では,全身性の紅斑出現および浮腫性の歯肉,ならびにクリニカルアタッチメントロスを認めない壊死性歯間乳頭を認め,COVID-19患者の増加に合わせ,壊死性歯周疾患の有病率は上昇する可能性があると予測されている。これらの報告は,SARS-CoV-2感染による直接的な影響と断定するには至らないが,他組織で報告されている免疫系の異常またはCOVID-19関連の治療に起因する可能性がある36)

4. 口腔組織におけるSCARFs

口腔組織におけるSCARFsの局在は,口腔組織がSARS-CoV-2の侵入と伝播において重要な役割を果たしている可能性を示している。Sakaguchiらは,免疫組織学的に,歯肉粘膜でACE2,TMPRSS2,furinの発現が認められたことを報告した30)。ACE2およびTMPRSS2タンパクは,歯肉内縁上皮と歯肉外縁上皮の両方で認められたのに対し,furinは,歯肉内縁上皮と歯肉外縁上皮で認められたが,歯肉内縁上皮でより強い染色が見られた。

歯肉組織におけるSCARFsの発現は,他の分子生物学的手法によっても報告されている。Huangらは,健全なヒト歯肉のin situハイブリダイゼーションおよび免疫組織学的検討により,歯肉上皮におけるACE2,TMPRSS2等の発現を示した6)。Xuらはsingle cell RNA-sequencingライブラリーのデータより,歯肉におけるACE2の発現を報告した29)。同様に,COVID-19に罹患した患者の検死解剖体の解析を行った研究より,歯肉にSARS-CoV-2のRNAが含まれ32),歯肉溝浸出液8)やデンタルプラーク中33)にもSARS-CoV-2が存在する可能性が示された。

さらにPengらは,若年者よりも高齢者の口腔粘膜でACE2とTMPRSS2のmRNAの発現レベルが高いことを報告した37)。この結果より,高齢者集団では口腔を介してSARS-CoV-2感染が起きる可能性が示唆される。

我々はヒト正常歯肉の線維芽細胞におけるSCARFsの発現および歯周病に関わる歯周病原細菌(Porphyromonas gingivalis)由来のリポ多糖(lipopolysaccharide;LPS)や炎症性サイトカイン等のSCARFs発現への影響をreal-time PCR法により検討し,SCARFsがヒト正常歯肉線維芽細胞で発現し,PgLPSや炎症性サイトカイン等の刺激により,ACE2(図2)およびTMPRSS2(図3)等の遺伝子発現レベルが変化することを報告した38)。これらの知見より,歯周組織がSARS-CoV-2の感染経路となり,歯周病がCOVID-19重症化のリスク因子になる可能性が示唆される。

図2

ヒト正常歯肉線維芽細胞におけるACE2のmRNA発現に対するPorphyromonas gingivalis由来のリポ多糖(PgLPS)および炎症性サイトカイン等の影響

(A)PgLPS(0,0.1,1,10 μg/ml),(B)IL1β(0,0.01,0.1,1 ng/ml),(C)TNFα(0,1,10,100 ng/ml),および(D)PGE2(0,1,10,100,1000 nmol/l)添加24時間後のmRNAレベルをreal-time PCR法により解析した。ACE2:angiotensin-converting enzyme 2,IL1β:interleukin 1 beta,TNFα:tumor necrosis factor alpha,PGE2:prostaglandin E2。*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001,****p<0.0001。文献38)より引用。

図3

ヒト正常歯肉線維芽細胞におけるTMPRSS2のmRNA発現に対するPgLPSおよび炎症性サイトカイン等の影響

(A)PgLPS(0,0.1,1,10 μg/ml),(B)IL1β(0,0.01,0.1,1 ng/ml),(C)TNFα(0,1,10,100 ng/ml),および(D)PGE2(0,1,10,100,1000 nmol/l)添加24時間後のmRNAレベルをreal-time PCR法により解析した。TMPRSS2:transmembrane protease serine 2,IL1β:interleukin 1 beta,TNFα:tumor necrosis factor alpha,PGE2:prostaglandin E2。**p<0.01,***p<0.001,****p<0.0001。文献38)より引用。

5. COVID-19罹患後症状および再感染

COVID-19に罹患した患者の一部では,急性期から持続するさまざまな罹患後症状があることが報告されており,COVID-19罹患後症状(post COVID-19 condition)/long COVID/新型コロナウイルス急性感染後症候群(post-acute COVID-19)などと呼ばれ,新型コロナウイルス後遺症として新たな問題となっている39)。WHOはpost COVID-19 conditionを「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に罹患した人にみられ,少なくとも2カ月以上持続し,また,他の疾患による症状として説明がつかないものである。通常はCOVID-19の発症から3カ月経った時点にもみられる。」と定義し,代表的な症状として,疲労感・倦怠感,関節痛,筋肉痛,咳,喀痰,息切れ,胸痛,脱毛,記憶障害,集中力低下,頭痛,抑うつ,嗅覚障害,味覚障害,動悸,下痢,腹痛,睡眠障害,筋力低下があり,多岐にわたり39),記憶力低下や集中力低下など頭にモヤがかかったような状態はbrain fog(ブレインフォグ)と呼ばれる。厚生労働省は2022年10月に「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第2.0版」(https://www.mhlw.go.jp/content/000952747.pdf)を発刊し,対応を提示しているが,今後,歯科医療従事者も診療にあたって,新型コロナ後遺症を理解し,長期的に患者を支える必要も考えられる。

COVID-19罹患後の後遺症に加え,SARS-CoV-2感染の回数と死亡や入院および後遺症のリスクとの関係も報告されている。Boweらによる米国の退役軍人の医療データを解析した報告によると,再感染のない群と比較して,再感染群では,死亡(ハザード比2.17,95%信頼区間1.93-2.45),入院(ハザード比3.32,95%信頼区間3.13-3.51)や肺,心血管,血液,糖尿病,胃腸,腎臓,メンタルヘルス,筋骨格および神経障害といった後遺症が認められた40)。後遺症のリスクは,感染していないコントロール群と比較して,1回だけ感染した群(ハザード比1.37,95%信頼区間1.36-1.38),2回感染した群(ハザード比2.07,95%信頼区間2.03-2.11),3回以上感染した群(ハザード比2.35,95%信頼区間2.12-2.62)では感染の数に応じた増加を認めている。歯周病とSARS-CoV-2の再感染・複数回感染の関係は報告されていないが,今後検討が必要である。

おわりに

本稿では,主にCOVID-19と歯周病の関連についてこれまでの基礎研究や臨床・疫学的研究の一部をまとめた。COVID-19は発生から3年が経過し,新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが2023年5月以降,季節性インフルエンザと同じ,「5類」に引き下げられるのに伴う社会の対応や医療体制等の変更も進んでいる。脱マスクや国内外の人の往来などCOVID-19以前の日常に戻りつつある一方,新種の変異株の出現や再感染による影響など,COVID-19により引き起こされる病態の全容やメカニズムなどについて不明な点はまだあり,さらなる研究が求められる。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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