日本歯周病学会会誌
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ミニレビュー
歯周病の病態形成における好中球の二面性:歯周炎の制御と病態進行に関する最新の知見から
梶川 哲宏山田 聡
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2023 年 65 巻 3 号 p. 93-100

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1. はじめに

好中球は自然免疫細胞の中でミエロイド系細胞に分類される細胞群の1つである。ヒト骨髄において体重1 kgあたり約10億個もの好中球が毎日生成されており1),血液循環中に放出される。健常者の血液中に存在する全白血球のうち約50~70%が好中球であり2),その他の免疫細胞と比べ割合が非常に高い免疫細胞集団といえる。一方で,実験動物として最も使用されるマウスの血中における好中球の割合は10~30%とヒトよりもやや低めである2,3)。しかし,これはマウス好中球の非重要性を示唆するものではなく,モデル動物としてのマウスの特性や飼育環境に基づく現象であると考えられる。好中球の基本的な機能として,感染源となり得る微生物を迅速に認識し排除する能力がある4)。好中球は細菌感染症である歯周病に罹患した患者の歯肉において高頻度に検出され,特にプラークやバイオフィルムとの物理的距離が近い歯周ポケット周囲に局在している5)。この好中球の特徴的な局在は口腔内の特有の環境,すなわち絶えず多様な微生物に曝されていることが影響していると考えられる。したがって好中球の歯周組織における機能は,その殺菌作用による継続的な感染源の排除ということが想像されるが,実際の詳細な役割,つまり歯周病の発生や進行にどのように関与しているかということについては未だ完全には理解されていない。本稿では,歯周組織における好中球の役割について,近年発表された報告も含めて考察し,概説を行う。

2. 歯周組織への好中球遊走のメカニズム

慢性歯周炎患者だけでなく,健常者の歯肉や歯肉溝においても好中球は多数存在している。特に,歯肉溝滲出液中の好中球の割合は非常に高く,健常者において白血球中の約9割近くを占めている6)。歯周炎が惹起されると,局所に誘導される好中球の割合や数はさらに増加する7)が,どのような機序によって好中球が歯周組織中に誘導されるかについては不明な点が数多くあった。

ある現象に対し,分子レベルでのメカニズム解明を進めるためには,動物モデルの使用が非常に有効である8)。特定の疾患に対してマウスモデルを確立することができれば,遺伝子改変マウスを利用した実験を行うことで,標的分子の機能解析を行うことが可能になる。この点においてマウス歯周炎モデルは,これまでにいくつかの手法が報告されているが,その中の一つとして,大臼歯に絹糸を結紮することで細菌の蓄積を誘導し,宿主の炎症反応を引き起こすという絹糸結紮歯周炎モデルが存在する9)。このモデルにおいても,絹糸結紮直後の早期段階において好中球の誘導が確認できる10)。しかし抗菌薬投与により口腔内の細菌量を事前に減少させると,絹糸結紮後の好中球誘導が抑制されることから10),細菌由来の産物,あるいは細菌によって誘導されるケモカインなどにより,炎症歯周組織へ好中球が誘導されることがわかる。

一方,定常状態における歯周組織好中球の局在に注目すると,好中球特異的抗体を用いた免疫染色による解析の結果,Specific pathogen free(SPF)環境下で飼育された野生型マウス歯肉において好中球は接合上皮に集積するが,無菌環境で飼育された同じ遺伝的背景を持つ同週齢のGerm-freeマウスにおいても,好中球数は減少するものの接合上皮への集積は同様に観察される11)。この現象は,細菌以外の何らかの因子が好中球を歯周組織へ誘導している可能性を示している。この点に関連して,マウス好中球が発現するケモカイン受容体の1つであるCXCR2が欠如したCxcr2ノックアウトマウスの歯肉において,好中球がほとんど検出されない(図1,未発表データ)ことは,好中球の歯周組織への移行におけるCXCR2-CXCL2シグナル経路の重要性を意味する11,12)

図1

野生型マウスとCxcr2ノックアウトマウスの歯肉に存在する好中球の割合

3. 歯周炎における好中球の作用

好中球は,食作用・活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)の産生・好中球細胞外トラップ(NETs:Neutrophil Extracellular Traps)形成などの機能を持つことから,細菌感染によって引き起こされる歯周炎において,その殺菌能力によって炎症反応を抑制すると考えられてきた。しかしながら,歯周炎モデルを適用させたマウスに好中球に対する中和抗体である抗Ly6G抗体を投与すると,歯槽骨吸収が抑制されたことから,炎症により過剰に誘導された好中球は歯槽骨破壊を促進することがわかった13)。炎症により活性化された好中球は,ROSやマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)を過剰に分泌し,組織破壊を誘導することが示唆されており14),さらにはMMPsなどによって分解された歯周組織を栄養素として細菌がさらに繁殖する可能性があることから,歯周炎において好中球を中心とした炎症増悪のループが形成されていると考えられる(図2)。実際,歯周炎患者においてMMPsに分類されるコラゲナーゼの活性の上昇が認められることや15),好中球数と歯周炎の重症度に正の相関性を認めることから16),過剰に誘導される好中球の制御を行うことが歯周炎の改善につながる可能性は高い。好中球走化性因子としては,ロイコトリエンB4・CXCLケモカイン・C5a・ホルミルペプチドが広く知られている17,18)。特にC5aとホルミルペプチドは‘end-target chemoattractants’として感染源周囲への好中球の誘導に強く貢献しており19,20),歯周組織への好中球誘導にも重要な役割を担うことが示唆される。この点に関連して,補体C3阻害薬:AMY-101はその下流の補体産物であるアナフィラトキシンC3a,C5aなどの生成を抑制するが,歯周炎患者においてAMY-101の局所投与が歯周組織の炎症状態を改善したことは大変興味深い21)。詳細なメカニズムの解析に関しては今後の研究が待たれるところではあるが,アナフィラトキシン作用の抑制に加え,C5aによる歯周組織への好中球誘導が阻害された結果,抗炎症作用を示した可能性が考えられる。

近年,好中球が産生するNETsが歯周炎を増悪させるという報告がなされた22,23)。NETs形成とは感染により活性化された好中球が自らのゲノムDNAや顆粒を含む網目状の構造物を能動的に放出する現象であり,これにより細菌が捕獲され,炎症を改善するのではないかと考えられてきた24)。しかしながら歯周炎モデルマウスを用いた解析により,NETsがIL-17を誘導し歯槽骨吸収を促進すること23)や,特にフィブリンが集積した環境下においてMac-1を介したROS,NETsの生成が歯周組織破壊を促進すること22)が示された。さらに,活性化好中球の産生する好中球エラスターゼが,歯肉上皮によって形成されるバリアを破壊し,細菌の侵入を促進してマウス歯周炎を悪化させることも判明した25)。すなわち,これらの報告においても好中球の活性化が歯周炎の増悪に関与することが示されており,歯周炎における好中球の詳細な機能が明らかにされつつあるといえる。

図2

歯周炎における好中球の作用(図はBioRender.comを使用して作成した)

4. 自然免疫記憶と歯周炎

以前は好中球やマクロファージなどの自然免疫細胞は,T細胞やB細胞といった獲得免疫細胞とは異なり,免疫記憶という現象が存在しないと考えられてきた。しかしながら実際は,個体が一度ある微生物などの刺激に反応を示すと,2度目の刺激を受けた際に自然免疫細胞がより強く反応するという現象が観察されることがわかった。この現象を自然免疫記憶(Trained innate immunity:TII)と呼ぶ。TIIは2011年ころに発見された比較的新しい免疫学の概念であるが26),獲得免疫細胞における免疫記憶とは異なり,一度目の刺激と二度目の刺激が異なる状況でも生じ得る現象である。例えば,新生児期にBCGワクチンを接種すると新生児の生存率が上昇するという報告があるが27,28),これはTIIによって達成されると考えられている29)。すなわち,種々の微生物による感染が生じた際に,BCGワクチン接種の既往がある場合は,TIIによって自然免疫細胞が効率良く反応し,感染症の増悪から個体を保護する。

TIIの特性は少なくとも3か月から1年程度持続すると報告されている30,31)。好中球・単球などのミエロイド系細胞の寿命は血液循環中で長くても数日間であり32),このような細胞群がTIIという数か月にわたって観察され得る免疫反応を示すメカニズムは以下のように考えられている。例えば好中球は骨髄中において,造血幹細胞(Hematopoietic stem cells:HSCs)から多能性前駆細胞(multipotent progenitor:MPP),骨髄球系共通前駆細胞(common myeloid progenitor:CMP),顆粒球・単球系前駆細胞(granulocyte/monocyte progenitor:GMP)と分化した後に,成熟した好中球となり血液循環へと放出される。TIIはHSCsにおいて生じるエピジェネティックな変化によって説明される。すなわち,例えばBCGワクチンなどを接種した際には,自己複製能を持ったHSCsにおいてエピジェネティックな変化が生じ,そこから分化・成熟した自然免疫細胞は,その後の感染に対して効率よく反応することができる33)

歯周炎においてもこのTIIが生じ,宿主における免疫反応に影響を与えている可能性がマウスを用いた実験によって示された。歯周炎を惹起させたマウスでは,IL-1βを主体としたサイトカインが骨髄中のHSCsにエピジェネティックな変化を誘導し,このことがHSCの好中球を含むミエロイド系細胞への分化を促進させ,かつこれらのミエロイド系細胞は過剰に炎症性サイトカインを分泌することから,組織破壊を進行させることがわかった。すなわちマウスモデルにおいてではあるが,TIIによってエピジェネティックな変化を生じた好中球を主体とするミエロイド系の細胞が歯周炎をより増悪させることが示された34)(図3)。歯周病患者においては,治療後も再発を防ぐためにサポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)・メインテナンスが重要視されているが35),TIIによって過剰に免疫反応を活性化させる好中球の存在が歯周炎再発のしやすさの一因となっている可能性が考えられる。

図3

自然免疫記憶(TII)に起因する歯周組織破壊促進(図はBioRender.comを使用して作成した)

5. 白血球接着不全症

以上のように,炎症歯周組織において誘導された好中球は炎症を増悪させていることが示唆されるが,歯周組織に好中球は存在しない方が良いということではない。このことを証明する事象として,10代・20代といったかなり年齢の若い時期から非常に重度の歯周病を発症する白血球接着不全症I型(Leukocyte adhesion deficiency type I:LAD1)の存在がある36,37)。LAD1はCD18をコードするβ2インテグリン遺伝子の変異に起因する常染色体劣性遺伝疾患である38)。CD18は好中球が血液循環から組織中へ溢出する際に重要な分子であるため,LAD1患者の歯肉には好中球をほぼ認めない39)。LAD1のモデルマウスであるCD18ノックアウトマウスにおいても,LAD1患者と同様に血管内に限局した好中球の局在を認め,重度歯周炎が自然発症する40)。また前述のように,CXCR2ノックアウトマウスにおいても好中球の歯周組織への移行が阻害されるが,同マウスにおいても重度の歯槽骨吸収が生じる41)。さらに,日本歯周病学会やアメリカ歯周病学会(American Academy of Periodontology:AAP)・ヨーロッパ歯周病連盟(European Federation of Periodontology:EFP)による歯周病分類において歯周炎を随伴する遺伝疾患が列挙されているが42),この中の多くの疾患(家族性周期性好中球減少症・白血球接着能不全症候群・Papillon-Lefèvre症候群・Chédiak-Higashi症候群・Cohen症候群)において好中球の数や機能に異常を認めることから,好中球は歯周組織の恒常性維持に必要不可欠であり,歯周組織中の好中球数が極度に減少すると重度歯周炎を発症することがわかる。

LAD1患者の歯周組織恒常性が破綻するメカニズムの一つとして,アポトーシスを起こした好中球をマクロファージなどの食細胞が貪食する現象であるエフェロサイトーシスという現象の欠如が考えられる40,43,44)。エフェロサイトーシスの過程で,マクロファージは抗炎症作用を持ったM2マクロファージへと分化し,抗炎症作用を示す45)。LAD1患者の歯周組織ではこの炎症抑制機構が欠落しているために,絶えず微生物に曝露され続ける環境である口腔内において炎症のコントロールを失い,その結果,歯周組織が重度に破壊されると考えられた(図4)。実際,無菌環境下で飼育されたCD18ノックアウトマウスは重度歯周炎を発症しないことから,歯の周囲で生息する微生物によって誘導される炎症の制御に,好中球が重要な役割を担っていることがわかる。

図4

エフェロサイトーシスとLAD1関連性歯周炎(図はBioRender.comを使用して作成した)

6. おわりに

歯周組織の恒常性を維持にするためには,バランスの取れた好中球の存在が必要である。すなわち,好中球が歯周組織中に過剰に存在する場合,過少にしか存在しない場合,いずれの状態においても,歯周組織の破壊という結果につながる。最近ではscRNA-seq解析などの技術により,好中球が歯周組織においてどのように制御されているかをより詳細に解析することができるようになっている。今後は好中球に関連するシグナル経路を制御することで,慢性歯周炎や遺伝疾患に伴う歯周炎における炎症のコントロールが可能になるのではないかと期待される。

今回の論文に関連して、開示すべき利益相反状態はありません。

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