2024 年 66 巻 2 号 p. 49-59
歯周炎は糖尿病と密接な関連があり,糖尿病合併症のような側面が知られている。主な糖尿病の慢性合併症ではインスリン抵抗性の発現が重要な要因となっている。歯周組織においても同様に,前糖尿病段階から血管内皮細胞に炎症が起き,歯肉にはインスリン抵抗性が生じていることが見出された。そして,高血糖による活性酸素種(ROS)産生などの酸化ストレスがインスリン抵抗性発現に関与し,細胞機能の低下や歯肉の創傷治癒遅延,歯周組織再生の悪化,インプラントのオッセオインテグレーションの悪化に関わっていることが示された。
臨床研究においては,糖尿病がある患者では歯肉の毛細血管の形態異常の頻度が有意に増すことが示された。高血糖の歯周組織の炎症への影響について解析したところ,プラークコントロールレベルで補正した後でも血糖管理レベルは歯周炎症波及面積(PISA)と有意に相関していた。さらに,集約的な糖尿病治療によって,歯周組織における炎症および歯周ポケット深さの有意な軽減が起きた。これらの所見は糖尿病と歯周病の関連の双方向性を示している。
現在,歯周病との関連において研究が求められているのが慢性腎臓病である。特に末期腎不全に至った人工透析患者では粗死亡率が高い。また,人工透析患者の口腔環境は悪化しやすく,全身状態や生命予後に影響を与えていることが示唆されてきている。我々の3年間の縦断研究においても,口腔内の清掃状態が生存率に対する有意なリスクであることが示された。また,近年透析患者の生命予後の大きなリスクファクターと報告されているMalnutrition-inflammation-atherosclerosis(MIA)症候群への歯周病の関与も明らかとなった。これらの知見は,口腔衛生指導や歯周治療という介入が透析患者の生命予後に貢献できる潜在性を示唆しているであろう。
今後のペリオドンタルメディシンの研究において,歯科医療従事者が歯周病のコントロールを通して全身の健康増進に貢献できるようなエビデンスの構築を進めてゆく必要があると考えられる。
Periodontitis is closely associated with diabetes mellitus and has a diabetic complication-like appearance. In an in-vivo study performed using obese rodents, we first found that insulin resistance in the gingiva, in addition to that in the retina and glomeruli of the kidney, was induced via vascular inflammation even prior to diabetes mellitus. Furthermore, inflammation caused by oxidative stress was observed in the vascular endothelial cells of the gingiva. Oxidative stress caused by elevated production of reactive oxygen species (ROS) in the periodontal tissues is associated with impaired cellular functions, delayed gingival wound healing, impaired periodontal tissue regeneration, and compromised implant osseointegration.
Clinical studies have shown that patients with type 2 diabetes mellitus have a significantly higher frequency of morphological abnormalities in the gingival capillaries. The glycemia control status was found to be correlated with the periodontal inflammatory surface area (PISA) even after adjusting for the full-mouth plaque control level. Intensive diabetes care resulted in a significant reduction in the severity of periodontal inflammation and of the probing pocket depth. These clinical findings provide evidence for a bidirectional relationship between diabetes mellitus and periodontal disease.
Chronic kidney disease is associated with the major complications of diabetes mellitus. Further research is needed to better understand the association between periodontal disease and chronic kidney disease. Available evidence to date suggests that a correlation may exist between the oral health of patients with end-stage renal failure and their systemic condition, including survivability. A 3-year longitudinal study found insufficient oral hygiene as a significant risk factor for mortality, and involvement of periodontal disease in the development of the malnutrition-inflammation-atherosclerosis (MIA) syndrome, which is a significant risk factor for survival in patients undergoing dialysis. The findings suggest that dental interventions, such as instructions for maintaining oral hygiene and periodontal therapy, may potentially improve the overall prognosis of patients undergoing hemodialysis.
Future research in the field of periodontal medicine should consider how dental professionals could potentially contribute to the promotion of overall health by controlling periodontal disease.
歯周病は多因子疾患として,全身状態や内科疾患と密接な関連を有している。1990年代以降,ペリオドンタルメディシンという概念の下で研究が進められ,特に糖尿病との関連は双方向性に密接であることは十分にコンセンサスが得られている1)。そのため,歯周炎の診断においてもGrade判定時に糖尿病は喫煙と共に重要な修飾因子として扱われており,歯周治療の臨床において十分に考慮すべきものである2)。
しかし,糖尿病と歯周病との関連の背景として,糖尿病による免疫機能の低下や終末糖化産物の増加などが示されている3)が,それらの現象の原因となっている根本的なメカニズムは明確にはなっていない。医科領域においては,腎臓や網膜,大動脈など慢性の糖尿病合併症が生じる部位の病態メカニズムとしてインスリン抵抗性の発現が詳細に研究解析されているが,歯周組織においては全く解析がなされていなかった4)。また,糖尿病合併症として関連する慢性腎臓病と歯周病の関係性については不明なことが多い。そこで,本稿では歯周病と糖尿病の関連についてインスリン抵抗性や酸化ストレスを中心として得られている知見について概説し,そして慢性腎臓病の最も進行した段階である末期腎不全における歯周病の影響についても研究成果を述べる。
糖尿病は我が国において罹患者は約1,000万人と言われ,さらにその予備軍(前糖尿病段階)を含むと2,000万人にのぼり5),そのうち95%が2型糖尿病と言われている。歯周病と糖尿病が相互に影響を及ぼし合うことは,2型糖尿病でもっともエビデンスが確立している。2型糖尿病は,過食や運動不足などの環境因子,および遺伝的影響により,インスリンが糖を取り込む作用の低下や,インスリンの膵臓からの分泌低下によって高血糖を呈する。インスリンは生体の細胞へ糖の取り込みをさせるはたらきがあり,これによって血糖のコントロールをつかさどっている。そして,インスリンが糖を取り込みにくい状態(インスリン抵抗性の発現)が血中の糖濃度の上昇をもたらす。さらに,慢性的になった高血糖状態がインスリン抵抗性を亢進させる。そのため,主要な糖尿病合併症の発現にインスリン抵抗性の発現が強く関わることが知られており,血管内皮細胞におけるインスリン抵抗性が網膜症や腎症などの細小血管症,さらに動脈硬化性病変である大血管症において,その発症と悪化の重要な要因となっている6)。
2型糖尿病と歯周炎との関連性は,疫学的調査7)や介入研究8)によって広く認識されている。これまでに様々な関連の機序が示されてきたが,十分に検討されていない事柄として,インスリン抵抗性を介した歯周組織の血管内皮細胞への影響があった。血管内皮細胞は,血管を構成しているもっとも基本的な細胞であり,高血糖時の血流の影響を直接的に受ける。そのため,糖尿病合併症を発症する臓器では血管内皮細胞への傷害が根本にある。歯周組織も,糖尿病合併症を発症する臓器と同様に血管を比較的豊富に有するため,インスリン抵抗性の発現を介した血管内皮機能不全が,糖尿病や肥満の状態における歯周組織破壊の進行に影響すると考えられる4)。大規模な疫学研究では,糖尿病によって全身的にインスリン抵抗性が起きていることや,そのインスリン抵抗性が歯周炎の進行に関連があることが示されている9,10)。しかし,糖尿病合併症を発症する臓器と同様に,高血糖によって歯周組織にインスリン抵抗性が生じるかは不明なままであった。
そこで,前糖尿病段階と考えられるインスリン抵抗性発症肥満モデルのラット(Zucker Fatty rat)を用い,歯周炎の生じていない健全な歯肉におけるインスリンのシグナル経路の定量的解析を行った。その結果,肥満ラットの歯肉では血管内皮型の一酸化窒素合成酵素(eNOS)の発現量が低下しているだけでなく,インスリンシグナルにおけるAkt-eNOS経路が阻害されていることが示された。そして,インスリン抵抗性の発現に,プロテインキナーゼCおよび酸化ストレスが関与しており,特に歯周組織で生じるインスリン抵抗性が高脂血症により生じる潜在的な歯肉の血管内皮細胞の炎症に起因する可能性を報告した(図1)11)。
新城らの最近の研究では,歯肉におけるインスリン抵抗性の発現が歯周組織の免疫反応に関わっていることも報告されている。インスリン受容体の選択的欠損マウスを用い,インスリンシグナル伝達がエンドトキシン誘導性C-X-C motif chemokine ligand 1(CXCL1)の発現を増強することで好中球動員を調節できること12)や,血管内皮への白血球の接着低下に関与していること13)を明らかにしている。これらの所見は,糖尿病によって歯周炎が進行しやすくなる要因としてインスリン抵抗性の発現が関与していることを示しており,さらなる研究成果が期待されている。

肥満により惹起される歯肉血管内皮細胞の炎症。炎症反応の転写因子(NF-ĸB)特異的に緑色蛍光タンパク(EGFP)を発現するマウスに高脂肪食を8週間給餌すると,健全な歯周組織であっても,血管内皮細胞(CD31陽性)においてNF-ĸBが発現していた(文献11)より転載)。
内科領域において,糖尿病や肥満に起因する酸化ストレスが様々な臓器に影響を及ぼすことが知られている。そのため,高血糖状態をin vitro,in vivoにおいて再現し,組織や構成細胞への糖尿病による酸化ストレスの影響について研究を行った。Buranasinらはヒト歯肉線維芽細胞の高グルコース培養下で,活性酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS)産生により細胞増殖能,遊走能が低下し,一方で抗酸化剤N-アセチル-L-システイン(NAC)を添加すると細胞機能の改善がみられたことを報告した14)。また,城戸らの研究では,ストレプトゾトシン(STZ)を腹腔内投与することでインスリン分泌をする膵臓のβ細胞を損傷させるSTZ誘発型糖尿病ラットにて強度の高血糖を持続させ,口蓋に外科的に歯肉欠損モデルを作製したところ,明らかな創傷治癒遅延が起きることを観察した。そしてラット歯肉から単離した歯肉線維芽細胞は,高グルコース培養下で細胞増殖に関わるインスリンシグナル経路のAktのリン酸化を阻害し,インスリン抵抗性が誘発されていることを示した15)。そこで,歯周組織局所におけるインスリン抵抗性の改善が歯周組織の創傷治癒を改善させる可能性があると仮説を立てた。小湊らは高脂肪食による肥満と全身的なインスリン抵抗性発現によって前糖尿病状態を惹起したマウスに口蓋歯肉の欠損モデルを作製し,インスリン抵抗性改善効果のある糖尿病治療薬であるメトホルミンを2週間投与した。前糖尿病状態であり血糖値の上昇は少ないためメトホルミン投与による血糖値の改善は軽度であったが,遅延していた創傷治癒は,投与群において創部の上皮化が明らかに改善した16)。その機序を確認するためのin vitro研究において,メトホルミンがヒト歯肉線維芽細胞のPI3/Aktシグナル経路に作用して血管内皮細胞成長因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)発現の促進や細胞増殖,遊走能を亢進させることを示した16)。
また,齋藤らは酸化ストレスがインプラントのオッセオインテグレーションを阻害することを,STZ誘発型糖尿病ラットの上顎骨に埋入するin vivo実験,およびラット骨髄由来幹細胞の石灰化のin vitro実験によって明らかにした17)。さらに武田らが,STZ誘発型糖尿病ラットにおける垂直性骨欠損への再生療法の組織再生の低下に酸化ストレスが関わっていることを報告している18)。これらの一連の基礎研究から,高血糖が歯周組織において,酸化ストレスの亢進と,それによって引き起こされるインスリン抵抗性の発現を通して,創傷治癒の低下などに影響を及ぼしている可能性が示唆された(図2)。
これまでに,糖尿病を有する歯周炎患者への非外科的歯周治療において,酸化ストレスを制御する目的で抗酸化剤を併用する研究が多く報告されている。筆者らがおこなったシステマティックレビュー19)では,2型糖尿病に罹患した歯周炎患者へのスケーリング・ルートプレーニング(SRP)にメラトニンなどの抗酸化剤の服用が歯周ポケットの減少において有意に付加的な効果がみられることが明らかとなった。今後は酸化ストレスのコントロールに着目し,糖尿病を有する患者への歯周治療として特化したアプローチの開発,その有効性の検証について研究が必要となるであろう20)。

糖尿病による酸化ストレスの亢進が歯周炎に及ぼす影響。高血糖により活性酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS)が産生され,歯肉線維芽細胞の増殖能,遊走能が低下し,破骨細胞の活性化により,歯周炎が進行しやすく,歯周治療後の治癒が低下すると考えられる。
これまでの臨床研究では,血糖管理と歯周炎の炎症レベルや進行度に関連が示されているものの,歯周炎の炎症の原因となるプラークコントロールについて研究手法が十分に考慮されていなかった。そこで,糖尿病の影響をより明確に解析するため,筆者らはプラークの付着状況(O'Learyのプラークコントロールレコード)について補正後の統計学的解析により,血糖管理(HbA1cおよび空腹時血糖)が歯肉全体での歯周ポケット表面積(periodontal epithelial surface area, PESA)および炎症の波及面積(periodontal inflamed surface area, PISA)と有意に相関があることを示した21)。
さらに,2型糖尿病を有する被験者の歯肉の毛細血管の形態学的な観察を行った。その結果,糖尿病の有無によって血管数に差はないものの,形態異常の割合が糖尿病群において有意に高かった22)。高脂肪食によりインスリン抵抗性をきたしたマウスの歯肉23)では,網膜24)や糸球体25)と同様に血管内皮細胞に炎症が起きることが明らかとなっており11),このように糖尿病は血糖管理レベルに応じて歯周組織に影響を及ぼしていることが明確にされてきている。
また,これまでに歯周治療による血糖管理の改善はコンセンサスがえられていた8)が,逆向きの関連性として糖尿病治療による歯周病の改善はほとんど報告がなかった26)。そこで縦断研究として,2型糖尿病への集約的糖尿病治療によって血糖管理が大幅に改善すると,6か月後に歯周ポケット深さや歯肉からの出血,PISA,PESAなどの歯周病の主要な検査値が有意に改善することを初めて明らかにした27)。この研究では血糖管理が困難な症例で血糖の改善が大きいほど,糖尿病治療によって歯周組織の炎症が改善する結果が得られており,歯周組織において高血糖が誘発する炎症が,糖尿病治療によって除去されたという機序を支持するものと考えられる。本研究の所見は,両疾患の双方向での関連性を裏付ける明確なエビデンスのひとつとなるであろう(図3)。

2型糖尿病により血糖管理が困難な患者(33名)に集約的な糖尿病治療を行い,HbA1c(A)と空腹時血糖(B)が低下した。プラークコントロールレコードは軽微な低下であり(C),限られた歯肉縁上の清掃のみでSRPを行うことなく,BOP(D),歯周ポケットの平均深さ(E),4 mm以上のポケットの割合(F),PISA(G)およびPESA(H)の明らかな改善がみられた。多変量解析の結果,口腔清掃状態とは無関係に歯周病パラメータが改善したことが示された。*p<0.05(文献27)改編転載)。
糖尿病を有する患者では組織の創傷治癒が遅延することが臨床的に知られており,歯周治療においては治癒成績が低下する。糖尿病を有する患者のSRPの治療効果が低いことはシステマティックレビューによって報告されている28)。その治療効果が低くなるメカニズムを解明するために,中川らは2型糖尿病モデルラット(ZDF:Zucker Diabetic Fatty, Leprfa/Leprfa)および対照ラット(ZL:Zucker Lean, Leprfa/+)の臼歯に絹糸結紮による実験的歯周炎を惹起させ,結紮除去後の治癒時のmRNA発現の網羅的解析を行った。その結果,ZDF群では吸収が生じた歯槽骨の回復がZL群より遅れ,ZDF群において治癒時の歯肉におけるPPAR(peroxisome proliferator activated receptor)α,γの発現がZL群に比べて有意に低下していることを見出した。またSRP後の残存歯周ポケットのヒト歯肉検体は,2型糖尿病患者群において健常者群よりも有意に低下したPPARα,γのmRNA発現を認めた29)。PPARシグナリングは近年歯周炎に対して生体への保護効果を有することが示されている30)。一方で糖尿病による治癒悪化のメカニズムとの関連はほとんど報告されていない。PPARシグナリングは抗炎症作用を有することが知られており,糖尿病との関連においてさらなる研究が必要であろう。
また,これまで糖尿病を有する患者に対する歯周組織再生療法の効果は明らかではなく31),2014年日本歯周病学会の「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン 改訂第2版」においても十分なエビデンスがないことが記載されている32)。糖尿病を有する患者に対する歯周組織再生療法として,その病態に適した治療法が求められていた。武田らはSTZ誘発糖尿病モデルラットに対して外科的に垂直性骨欠損を作製し,エナメルマトリックスデリバティブ(エムドゲインⓇゲル:EMD)を応用した。その結果,EMDが塗布された部位では,健常群に比べて効果は劣るもののSTZ誘発糖尿病群において,炎症性サイトカインのmRNA発現低下と,VEGFのmRNA発現上昇が観察された。また,組織計測およびマイクロCT撮影により垂直性骨欠損内に明らかな歯周組織の再生を見出すことができた(図4)33)。そして,その機序のひとつとして,高血糖による歯周組織局所での酸化ストレス亢進をEMDが治癒初期段階で減少させていることをin vitro,in vivo実験において報告している34)。
実際の臨床においては,筆者らは侵襲を最小にしたフラップデザインで創傷治癒を可能な限り促進する歯周外科手術に,EMDを応用することで,2型糖尿病があっても健常者と同等に歯周組織再生が期待できることを世界で初めて報告した(図5)35)。この研究における被験者の平均年齢は65歳を超えていた。三上らは,EMDは高齢者に対しても歯周組織再生の効果があることを示している36)。糖尿病などの有病者だけでなく高齢者など,侵襲を限定すべき患者に対する歯周組織再生療法として,このような最小侵襲の外科治療でのEMDの応用は有効であると考えられる。2023年日本歯周病学会のガイドラインにおいては,本研究を引用することで「血糖のコントロールが良好な糖尿病患者に対してのみ,エナメルマトリックデリバティブを用いた歯周組織再生療法を行うことを弱く推奨する。(エビデンスの確実性:低 推奨の強さ:弱い推奨)」と記載の変更がなされている37)。

糖尿病モデルラットにおける歯周組織再生のマイクロCT撮影所見。エナエナメルマトリックスデリバティブ(EMD)による歯周組織再生は,糖尿病(DM)群では健常(Cont)群よりも低下するものの,骨体積(BV)・緻密骨密度(CBV)・骨石灰化度(BVD)・緻密骨石灰化度(CBM)において統計学的有意な効果が認められた。*p<0.05(文献33)より転載)。

2型糖尿病を有する患者(49歳,男性)への歯周組織再生療法の症例。上顎左側中切歯遠心に9 mmの歯周ポケットを有する(A)。侵襲を最小にしたフラップデザイン(B)でエナメルマトリックスデリバティブ(EMD)を塗布(C)。術後3年に歯周ポケット深さは3 mmを維持(D)。術前エックス線写真。深い1壁性骨欠損(矢印)を認める(E)。術後3年のエックス線写真。骨欠損の改善が見られる(F)(文献35)より改編転載)。
現在,慢性腎臓病は歯周病との双方向での関連性が示唆されており38),臨床研究が進められている39)。特に末期腎不全に至った人工透析患者では,唾液量の減少などの潜在的なリスクにより口腔環境が悪化しやすく,進行した歯周病が全身状態や生命予後に影響を与えていることが示唆されてきている40-42)。
我々の研究グループでは人工透析患者266名へのコホート研究を実施している。被験者の透析導入の原疾患は糖尿病が最も多く,約4割を占めた。そして,2型糖尿病を有する被験者は糖尿病ではない被験者に比べて重度の歯周病となるオッズ比が高く,また喪失歯の本数も多かった。さらに喪失歯数は血糖管理(グリコアルブミン)と有意な関連を示していた43)。
次に,歯周病と被験者の血中バイオマーカーについて検索を行ったところ,唾液中のPorphyromonas gingivalisの菌数と,血清中のTumor necrosis factor receptor(TNFR)-1, 2の濃度に有意な正の相関を認めた44)。血清中のTNFR1, 2濃度は人工透析患者において生命予後と明らかな関連性があるマーカーと報告されている45)。人工透析患者の粗死亡率は10%程度であり,主要な死因として脳血管疾患や感染症が挙げられている。しかし,未知の因子の存在も議論されており,この解析結果は歯周病がそのひとつの因子として関わっている可能性が推測された。さらに三上らは,近年報告されているMalnutrition-inflammation-atherosclerosis(MIA)症候群と呼ばれる透析患者の生命予後の大きなリスクファクターとなる病態への歯周病の関与を検証した。その結果,重度歯周炎はMIA症候群の要素数の増加と統計学的に有意な相関があることがわかり,特に「炎症」と「低栄養」と強く関与していることが明らかとなった46)。
そこで同一コホートにて3年後の生存分析を行ったところ,対象とした207名のうち,38名が死亡していた。口腔清掃が不良な被験者は,交絡因子で調整後の死亡に対するハザード比が3.04(95%信頼区間:1.50-6.17, p=0.002)であることが分かった(図6)47)。
この一連の臨床研究から口腔内の清掃状態,歯周炎は生存率に対する有意なリスクであることが示唆されている。この結果は,歯科からの介入による口腔清掃状態や歯周炎の改善が,人工透析患者の生命予後に貢献できる可能性があると考察でき,医科歯科連携を促進してゆくためのアプローチのひとつになりうるであろう。

人工透析患者の生存率に対する歯周病およびプラークコントロールの影響。3年間の前向き調査において歯周病の重症度は統計学的有意なリスク因子ではなかったが(A),Simplified Debris Index(DI-S)をもちいた口腔清掃評価が下位1/3の被験者は,上位2/3の被験者と比べて,死亡のリスクが有意に上昇していた(ハザード比 3.0倍)(B)(文献47)より改編転載)。
近年,歯周炎と糖尿病および肥満や慢性腎臓病,循環器疾患などの全身状態との関連性が明らかになってきている。しかし,詳細なメカニズム,さらにその機序に基づいた効果的な治療法についての課題は多く存在している。歯周病のコントロールを通して,歯科医師や歯科衛生士が全身の健康増進に貢献できるようなエビデンスの構築を今後も進めてゆく必要があると考えられる。
本学術賞の受賞にあたり,これまで御指導・御鞭撻を賜りました石川烈先生,和泉雄一先生,岩田隆紀先生,青木章先生,ハーバード大学ジョスリン糖尿病センター George King先生はじめ,国内外の共同研究者の先生方,御支援いただいております関係皆様に,この場を借りて厚く御礼申し上げます。
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。