日本歯周病学会会誌
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総説
歯周病の病態解明,並びに治療法開発のための歯肉上皮・歯根膜の特性の解明
臼井 通彦
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2025 年 67 巻 3 号 p. 95-102

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要旨

歯周組織は,歯槽骨,歯根膜,セメント質,歯肉上皮など,上皮・間葉由来の組織から構成される。上皮・間葉の入り交じった複雑な構造がゆえに,歯周病の病態メカニズムの解明や効果的な治療法・予防法の開発には,個々の組織の特性を深く理解することが必要である。

レーザーマイクロダイセクションとマイクロアレイ解析により,付着上皮特異的に発現している因子を探索した結果,抗菌ペプチドが特異的に発現していることが明らかになった。さらに,好中球が付着上皮部分に集中して存在し,感染に対して常に準備していることを見出した。一方で,歯肉上皮には,TNF-αといった歯周組織破壊に関わる因子も発現しており,防御と破壊といった二面性を有していることが示唆された。

歯根膜中に存在する歯根膜幹細胞は多分化能を有し,歯周組織再生のツールとして期待されている。我々は歯根膜幹細胞をスフェロイド培養(3次元培養)し,組織再生への応用を検討した。歯根膜幹細胞スフェロイドは,幹細胞性マーカーであるOCT4,NANOGの発現が著しく上昇していた。さらに,骨分化誘導条件にて培養すると,単層培養歯根膜幹細胞に比較して,石灰化が亢進した。頭蓋骨,並びに歯周組織欠損モデルに歯根膜幹細胞スフェロイドを移植すると,単層培養群よりも,有意に大きな組織再生量を示した。歯根膜幹細胞とスフェロイド培養技術は組織再生に有用であることが示唆された。

Abstract

Periodontal tissue is composed of epithelial-derived and mesenchymal-derived tissues, including alveolar bone, periodontal ligament, cementum, and gingival epithelium. Due to the complex structure composed of epithelial and mesenchymal tissues, a deep understanding of the characteristics of this tissue is necessary for elucidating the pathophysiological mechanisms underlying the development of periodontal diseases and for developing effective methods for preventing and treating periodontal diseases.

Using laser microdissection and microarray analysis, we identified factors that are specifically expressed in the junctional epithelium. For example, peptides were specifically expressed in the junctional epithelium. Furthermore, neutrophils were present only in the junctional epithelium and were continuously prepared to respond to infection. On the other hand, the gingival epithelium also showed expression of factors such as tumor necrosis factor (TNF)-α, which are involved in periodontal tissue destruction, suggesting a dual role of the gingival epithelium of 'defense' and 'destruction.'

Periodontal ligament stem cells present in the periodontal ligament possess multipotent differentiation capability and are expected to be a useful starting material for periodontal tissue regeneration. We cultured periodontal ligament stem cells in spheroid culture (3D culture) and investigated their application in tissue regeneration. As compared to monolayer-cultured periodontal ligament stem cells, periodontal ligament stem cell spheroids showed significantly increased expressions of stem cell markers such as OCT4 and NANOG. Furthermore, when the culture was carried out under osteoblast differentiation-inducing conditions, enhanced calcification was also observed. When periodontal ligament stem cell spheroids were transplanted into cranial bone or periodontal tissue defect models, the amount of tissue regeneration was significantly greater than that noted after transplantation of cells from the monolayer culture group. These findings suggest that periodontal ligament stem cells and spheroid culture technology are useful for tissue regeneration.

はじめに

歯周組織は,歯槽骨,歯根膜,セメント質,歯肉上皮など,上皮由来・間葉由来の組織から構成される。細胞レベルでは,歯肉には,歯肉上皮細胞や歯肉線維芽細胞,歯根膜にはセメント芽細胞や骨芽細胞に分化し,歯周組織再生の中心的な役割を担う歯根膜幹細胞や線維芽細胞,そしてセメント質にはセメント芽細胞,骨組織には骨芽細胞・骨細胞などが存在する。これらの細胞は増殖速度,遊走能をはじめとした細胞としての性質が異なる。歯周組織再生療法が必ずしも奏功しない理由の一端はこれら細胞の性質の不一致にあると考えられる。よって,歯周病の病態メカニズムの解明や効果的な治療法・予防法の開発には,個々の組織の特性を深く理解することが必要である。本総説では,歯周組織を構成する細胞の中で,歯肉上皮細胞の特性解明や歯根膜幹細胞スフェロイドによる再生療法への応用に関して,我々が行ってきた研究を中心に詳述する。

歯肉上皮の多面的な役割 ―防御と破壊―

歯肉上皮は,歯周組織の最表層に位置し,物理的に歯周組織を保護している。歯周組織に存在する間葉系の組織である歯槽骨・結合組織を守る重要な組織にも関わらず,歯肉上皮の特性についての研究は多くない。歯肉上皮は,解剖学的に口腔上皮,歯肉溝上皮,付着上皮(接合上皮)に分類される。歯肉溝内で歯肉溝上皮から付着上皮へと移行し,歯面に対して「上皮性の付着」という様式で,結合する。この結合はヘミデスモゾーム結合であり,結合力としては非常に弱い。この上皮性付着部分は,人体で唯一の上皮の連続性が失われている場所でもある1)。人体において,この付着上皮は内部環境(間葉系組織)と外部環境を「上皮性付着」というある程度の曖昧さを持った様式で,両者をつなぐゲートのように存在しているのである。

歯周炎は,歯周病原細菌の増殖により歯周組織に炎症が生じ,歯槽骨をはじめとした歯周組織が破壊される2,3)。この病態形成の過程において,最初に生じる破壊は,この「上皮性付着」の破壊である。付着上皮では,歯周病原細菌をはじめとした様々な細菌の侵襲をうけ,付着の喪失(アタッチメントロス)が生じる。この解剖学的に特殊で,歯周病の病態形成の主戦場である付着上皮の特異性とその役割を明らかにするために,マイクロアレイ解析を主体とした研究を行った。

付着上皮は歯肉溝上皮,口腔上皮と連続しているため,それぞれの組織固有のRNAを抽出することが困難であった。レーザーマイクロダイセクション法は,組織切片を観察しながら,レーザーで切り取ることにより歯肉上皮のように連続した組織からも,区別して組織を採取(その後,RNAを抽出)することができる(図1)。こうして分取したRNAを用いてマイクロアレイ解析を行い,付着上皮特異的に発現している遺伝子を探索した4)。その結果,口腔上皮に比較して,付着上皮で強く発現している因子が明らかとなった。その一つが好中球の分泌する抗菌ペプチドであるSecretory leukocyte protease inhibitor(Slpi)であった。このSpliの蛋白としての発現を確認するために,コンベンショナルマウス(CVマウス)の歯周組織に免疫染色を行った結果,Slpiは口腔上皮に発現を認めず,付着上皮に強く発現していた。この発現が細菌の侵襲による可能性があるため,細菌の存在しないgerm-freeマウス(GFマウス)にも同様な解析を行ったところ,CVマウス同様の結果を示した4)。歯肉溝滲出液中には多くの抗菌ペプチドが分泌されていて,特に付着上皮はディフェンシン5)やカテリシジン6)などの抗菌ペプチドを産生することが知られている。我々は同様に歯肉溝滲出液中に多く存在するカルプロテクチンという抗菌ペプチドについて検討した結果,CVマウス,並びにGFマウスともに付着上皮に発現していた7)。抗菌ペプチドのほかにも,CVマウスの付着上皮には,好中球が存在していたが,細菌の存在しないGFマウスにおいても,同様に存在していることが明らかになった8)。付着上皮は,細菌がいない状態であっても,抗菌ペプチドの産生や好中球により,細菌感染に備えていることがわかった。一方で,歯肉上皮には,破骨細胞を形成・活性化させる因子であるRANKL(Receptor Activator of Nuclear Factor-kB Ligand)とTumor necrosis factor(TNF)-αも発現していることが明らかになった9)。この歯肉上皮が発生するRANKLは破骨細胞前駆細胞との共培養において,わずかではあるが,破骨細胞を形成することができ,機能することが示された10)。以上の結果より,歯槽骨破壊に歯肉上皮が関与している可能性が示唆された。このように歯肉上皮は,「防御」と「破壊」の二面性を有しており,歯周疾患の予防や病態の制御において重要な役割を果たしている(図2)。歯周病の発症におこりえるこれらの多面的な事象を制御することによる新たな歯周病治療への応用が期待される。

図1

レーザーマイクロダイセクションによる接合上皮・口腔上皮からの組織採取

(A)歯周組織 模式図 灰色部分(接合上皮・口腔上皮)から組織を選択的に採取する(B)レーザーマイクロダイセクション前の凍結切片(C)レーザーマイクロダイセクション後の切片 接合上皮・口腔上皮が選択的に採取される。

e:エナメル質 JE:接合上皮(付着上皮) OGE:口腔上皮 矢頭:セメントエナメルジャンクション

図2

歯肉上皮の二面性

歯肉上皮は抗菌ペプチドのような防御因子を産生する一方で,TNF-α,RANKLのような歯周組織破壊に関わる因子も発現しており,病態に応じて役割が変わる可能性がある。

歯根膜幹細胞スフェロイドの再生治療への応用

組織再生のための組織構築技術には,細胞シート技術11)や細胞ビーズ技術12)などが知られているが,我々は分散細胞を集合凝集化させるスフェロイド形成技術に着目して研究を進めている。スフェロイドとは細胞が集合・凝集した集合体のことである。スフェロイド内部では,細胞―細胞,もしくは細胞―細胞外マトリックスの関係が3次元的に維持されているので,生体組織に類似した構造が再構築されている。一般的に,細胞を培養する際に用いられる2次元単層培養法に比較すると,物質の濃度分布,細胞間接着の形成,細胞間マトリックスの分布,力学的作用の発生が生じ,細胞分化などの生理的機能が向上するのが特徴である13)。スフェロイドの形成方法には,ハンギングドロップ法,U型96ウェルプレート培養法,浮遊旋回培養法,非接着担体法など,様々な培養方法が存在するが,一長一短があり,より優れたスフェロイド形成技術が必要とされていた14)。北九州市立大学の中澤教授らによって開発されたマイクロウェルチップはポリメチルメタクリレートに仕切り構造としてマイクロウェルが存在し,ウェル内に細胞非接着性のポリエチレングリコールを蒸着することにより,スフェロイド形成を可能にしたものである15)(図3)。このマイクロウェルチップでは,均一なスフェロイドが大量に,そして簡単に形成することができるようになった。

歯根膜中に存在する歯根膜幹細胞は多分化能を有しており,歯周組織再生療法への応用が期待されている16)。我々は,抜去歯から分離した歯根膜幹細胞をスフェロイド培養し,その特性について検討した17)。マイクロウェルチップを使用することにより,歯根膜幹細胞スフェロイドを形成することに成功した(図4)。作製された歯根膜幹細胞スフェロイドでは,転写因子であるOCT4やNANOGといった幹細胞性マーカーが,単層培養された歯根膜幹細胞に比較して,著しく高く発現していた。この歯根膜幹細胞スフェロイドの骨形成能を検証するために,骨分化誘導培地を用いて,培養を行った結果,単層培養した歯根膜幹細胞よりも形成される石灰化量が有意に増加していた17)。また,骨形成関連遺伝子であるrunt-related transcription factor 2(RUNX2),alkaline phosphatase(ALP),osterix(OSX),osteocalcin(OCN)などのmRNA発現も上昇していた17)。In Vivoでの効果を検証するために,マウス頭蓋骨欠損モデルを作製し,単層培養された歯根膜幹細胞と同数の細胞から構成される歯根膜幹細胞スフェロイドを移植した。2週後に骨形成について評価した結果,何も移植しなかったsham群ではほとんど骨が形成されなかった一方で,単層歯根膜幹細胞を移植した群では,多くの新生骨が確認された。さらに,歯根膜細胞スフェロイド移植群では,単層歯根膜細胞群を上回る骨形成量が認められた17)(図5)。以上より,歯根膜幹細胞はスフェロイド培養により骨形成能が上昇することが示唆された。

我々は,この歯根膜幹細胞スフェロイドの骨分化能亢進のメカニズムを明らかにするために,スフェロイド培養歯根膜幹細胞と単層培養歯根膜幹細胞を用いてトランスクリプトーム解析を行った。クラスター解析とGO(gene ontology)解析の結果,単層培養群では,「細胞間接着」や「細胞周期のG2/M,G1/M移行」に関連する遺伝子群が強く発現する一方で,スフェロイド培養群では,「細胞増殖を負に調節」,「BMPシグナリング」に関連する遺伝子群が強く発現していることが明らかになった。我々は,スフェロイドにおいて,高く発現していたnuclear receptor subfamily 4 group A member 2(NR4A2)に着目した。NR4A2は核内受容体ファミリーに属する転写因子で,脂肪酸,カルシウム,プロスタグランジン,カルシウム,増殖因子など様々な刺激に応答して発現が誘導される18)。NR4A2をノックダウンした歯根膜幹細胞をスフェロイド培養すると,ALP,Osteopntin(OPN)などの骨形成関連遺伝子の発現レベルが減少し,NR4A2が歯根膜幹細胞のスフェロイド培養における骨形成を負に制御していることが示唆された19)

我々のマイクロウェルチップによるスフェロイド培養では2種類の細胞を共培養することも可能である。そこで,歯根膜幹細胞と血管内皮細胞株であるHuman Umbilical Vein Endothelial Cells(HUVEC)の共培養スフェロイドを作製し,歯根膜幹細胞スフェロイドとともに歯周組織欠損への効果を検証した20)。7週齢のラット第一大臼歯に歯周組織欠損を作製後,スフェロイドを移植し,新生した歯槽骨量,並びにセメント質量を測定した。単層培養歯根膜幹細胞の移植によっても,新生骨とセメント質の再生が認められたが,歯根膜幹細胞スフェロイド移植群ではこの再生量を有意に上回っていた。さらに,歯根膜幹細胞と血管内皮細胞の共培養スフェロイド群は骨形成量において,歯根膜幹細胞スフェロイド群と同等であったが,セメント質再生量は有意に増加していた20)。歯根膜細胞スフェロイドと共培養スフェロイド移植によって再生されたセメント質にはシャーピー線維の埋入が観察された(図6)。これらの結果より,歯根膜幹細胞スフェロイド,並びに歯根膜幹細胞・血管内皮細胞共培養スフェロイドは歯周組織再生に有用であると考えられ,臨床への応用を目指し,研究を進めているところである。

図3

スフェロイド作製用マイクロウェルチップ

PMMA(ポリメチルメタクリレート)を切削し,マイクロウェルを形成する。PEG(ポリエチレングリコール)を蒸着させることで,マイクロウェル内を細胞非接着性にする。

図4

マイクロウェルチップによる歯根膜幹細胞のスフェロイド培養

マイクロウェルチップに播種された歯根膜幹細胞は時間の経過とともに凝集し,スフェロイドを形成する。

図5

歯根膜幹細胞スフェロイドによる頭蓋骨の再生

6週齢のマウス頭蓋骨に欠損を作製し,マトリゲル,単層歯根膜幹細胞,歯根膜幹細胞スフェロイドを移植し,2週間後に骨組織を評価した。移植後の頭蓋骨エックス線画像(左)と骨量(右)。

Sham:偽手術群 Matrigel:マトリゲル(担体)移植群 Monolayer:単層培養歯根膜幹細胞移植群 Spheroid:歯根膜幹細胞スフェロイド移植群

図6

歯根膜細胞・血管内皮細胞共培養スフェロイドによる歯周組織再生

ラット歯周組織欠損モデルに単層培養hPDLMSC(歯根膜幹細胞),単層培養HUVEC(血管内皮細胞),hPDLMSCスフェロイド,歯根膜細胞・血管内皮細胞共培養スフェロイドを移植し,4週・8週後に評価した。組織切片はAZAN染色。

D:象牙質 PDL:歯根膜 P:H:歯根膜幹細胞数と血管内皮細胞数の比率 スケールバー:10 um

最後に

本総説を執筆している2025年は,21世紀が始まってから四半世紀が経過する年である。この節目の年に,社会保障費の増大や医療・介護体制の不足など,日本は多くの医療問題に直面している。その間の国民の口腔内の変化に目を向けると,若年者の齲歯数は減少し,高齢者の残存歯数は増加している21)。これは,口腔への関心が高まり,プラークコントロールの重要性が認知された結果であると考えられる。その一方で,残された課題もまだ多くある。高齢者を中心に,歯周病の罹患率は上昇傾向にあり,その解決はまだ道半ばである。大阪大学を中心に開発されたFGF-2製剤・リグロスが上市・保険収載され,歯周組織再生療法の選択肢が増加したが,その歯槽骨欠損の回復率は約40%に留まっている22)。また,1壁性骨欠損・水平性骨欠損やIII度の根分岐部病変など既存の歯周組織再生療法では適応とされない症例への対応も今後の課題である。さらに,歯周病患者の高齢化が進む中,全身疾患を有する患者が増加し,歯周組織再生療法をはじめとした歯周外科治療を受けることのできないケースも増えてくることも考えられる。このような課題を解決するためにも,歯周組織を構成する個々の組織・細胞の特性に着目し,その制御方法について深く検証していく必要があるのではないだろうか。

謝辞

今回の受賞にあたり,ご選考いただきました先生方に深謝申し上げます。さらに,今までご指導いただきました東京医科歯科大学 石川烈先生・岩田隆紀先生・野田政樹先生,昭和大学 山本松男先生,九州歯科大学 中島啓介先生・西原達次先生に厚くお礼申し上げます。また,私の拙い研究にお付き合いいただいた共同研究の先生方・医局の先生方,そして,夜遅くまで一緒に研究を行い,苦楽を共にした大学院生の先生方に感謝を申し上げます。最後に,長きにわたり大学生活・研究生活を支えてくれている家族に深謝する。

本総説にて紹介した研究は,JSPS科研費 JP23792487,JP16K11838,JP17K11990,JP19K10133,JP22K09970,JP25K13008の助成を受けたものである。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
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