歯周病の進行に伴いに咬合力や咀嚼能率が低下することが知られている。しかし,ファセット比率や睡眠時ブラキシズムとの関連性についての報告は少ない。本研究は,Stage,Grade分類,骨吸収率,咬合力,咀嚼能率,ファセット比率,および睡眠時ブラキシズムの関連性を検討した。
Stage間で有意に咬合力,咀嚼能率が低下し,歯周炎が重症化すると咬合力,咀嚼能率が低下することを示した。さらに,Gradeの進行によっても咬合力,咀嚼能率がともに有意に低下したことから,進行速度が急速な場合にも咬合力,咀嚼能率が低下することが確認された。Stage IV,あるいはGrade Cの被験者では,歯の咬耗が有意に少ないことが認められた。これは,急速に歯周病が進行し,歯の咬耗が進む以前に歯槽骨が吸収され,歯の動揺が起こることで咬耗が少なくなったと考える。歯周炎の重症度,進行速度と睡眠時ブラキシズムの咬みしめ強さや1時間あたりの咬みしめ回数に相関性は認められなかった。以上のことから,歯周炎の重症度が高く,進行速度が急速になるに伴い咬合力,咀嚼能率が低下することが判明した。ファセット形成は歯周炎が急速に進行し,重症化した場合に抑制されることが示唆された。急速に歯周炎が進行し,周囲組織に破壊が認められても睡眠時ブラキシズムの咬みしめ回数や咬みしめ強さに影響がないことが明らかとなった。
It is well known that occlusal force and masticatory efficiency deteriorate with the progression of periodontitis. However, there are few reports on their association with the facet ratio and sleep bruxism. In this study, we investigated the relationships among the stage and grade classification of periodontitis, bone resorption rate, occlusal force, masticatory efficiency, facet ratio, and sleep bruxism.
Occlusal force and masticatory efficiency significantly decreased across stages, indicating that both parameters decline with the progression of periodontitis. Furthermore, progression in grade was also associated with a significant reduction in the occlusal force and masticatory efficiency, suggesting that rapid progression of the disease likewise leads to functional decline. In subjects with Stage IV or Grade C periodontitis, dental wear was significantly reduced. This could be explained by rapid periodontal breakdown, where alveolar bone resorption and tooth mobility occur before attrition can advance. No significant correlations were observed between the severity or progression of periodontitis and either the clenching strength or the frequency of clenching per hour during sleep bruxism. Taken together, these findings demonstrate that greater severity and faster progression of periodontitis are accompanied by reductions in occlusal force and masticatory efficiency. Facet formation appears to be suppressed in cases of rapidly progressive and severe periodontitis. Moreover, even in the presence of rapid periodontal tissue destruction, neither the frequency nor the intensity of clenching during sleep bruxism appeared to be affected.
Palinkasら1)は,慢性歯周炎患者が健常者と比較し,咬合力が低下していたことを明らかにした。その後,上田ら2)は歯周炎の分類(米国歯周病学会(AAP)&欧州歯周病連盟(EFP)分類,Papapanou,2017)3)に基づき,その進行程度であるStage分類と咬合力の関係を調べ,Stageの進行とともに咬合力が低下することを明らかにした。また,脇田ら4)はStage分類と咀嚼能率の関係を調べ,Stageの進行とともに咀嚼能率の低下を明らかにした。しかし,歯周疾患の進行速度を表すGrade分類と咬合力,咀嚼能率との相関性をみた研究はない。
一方,咬合性外傷は歯周組織破壊に関与することが知られている5)。Nishigawaら6)は日中と睡眠時の咬合力を直接測定し,日中の最大随意咬合力の平均値が79.0 kgf,睡眠時の最大不随意咬合力の平均値が42.3 kgfであり,睡眠時は起床時の53.1%の最大咬合力であることを示した。また,日中の筋活動力を100%とすると,睡眠時では17~111%で,睡眠時は力の制御ができずブラキシズムにより咬合性外傷を引き起こすことを示唆した。歯周炎の進行程度とブラキシズムの相関性を調べた研究では,相関性を認めた7-10)という報告と相関性がない11-13)という報告があり議論の余地がある。
一方,Kumarら14)は,ファセット,咬合力および年齢の相関性を調査し,咬合力,年齢は,ファセットと正の相関があることを示した。しかし,歯周炎の進行とファセットの相関性については明らかではない。
そこで,本研究の目的はStage,Grade分類に基づいた咬合力,咀嚼能率,睡眠時ブラキシズムおよびファセット比率にどのような相関性を有しているかを明らかにすることである。
2022年4月から2024年12月の期間において,朝日大学医科歯科医療センター歯周病科に来院し,歯周炎と診断された患者のうち以下の条件に該当する者を本研究対象者から除外した。1)開閉口に障害をきたす顎関節症を有する患者,2)矯正治療中の患者,3)残存歯が20歯未満の患者,4)過去1年間に歯周治療を受けた患者,5)インプラントによる咀嚼機能回復処置をしている患者
本研究の総被験者は198名で各検査項目別に同意の得られた被験者は表1に示す通りである。なお,本研究は朝日大学歯学部倫理審査委員会の承認を得て実施した。(2021年1月29日承認,承認番号32020)

各検査項目と被験者数
2017年の歯周病分類3)を用い,被験者の重症度および進行速度を分類した。
2) 骨吸収率の評価Scheiら15)の方法に従いデンタルエックス線写真上でセメント― エナメル境と根尖間の歯槽骨高さを計測し骨吸収率を算出(%)した。
3) 咬合力の評価咬合力の評価には,デンタルプレスケールIIⓇ(ジーシー,東京)を使用した。咬みしめを行った感圧フィルムをスキャナーで解析する際,口唇や頬粘膜の接触など,咬みしめ以外での発色が原因で起こるノイズを自動的に除去する感圧フィルタ機能による自動クリーニングをONの状態にして測定を行った。
4) ファセット比率の評価ファセットの測定にはHaketaら16)の方法に従った。すなわち,模型上でファセット部を印記し,咬合平面に対し,垂直方向から規格撮影した。対象歯ファセットの総面積を対象歯総咬合面積で除しファセット比率で評価した(図1)。ファセット面積および咬合面積の測定は画像処理ソフトImage J ver. 1. 53(NIH,USA)を使用した。なお,処置歯は分析から除外した。

ファセット比率測定方法
咬合平面から垂直に規格撮影をした模型写真を示す。ファセット部を黒塗した後,画像上での対象歯ファセットの総面積を測定し,対象歯総咬合面積で除しファセット比率を算出した。
咀嚼能率の評価にはグルコセンサーGS-IINⓇ(ジーシー,東京)を使用した。被験者の主咀嚼側でグルコラムⓇ(ジーシー,東京)を20秒間咀嚼後,グルコース濃度を計測した(図2)。

グルコセンサーGS-IIN®
(A)グルコラム®(B)センサーチップ(C)ディスポーザブル採取用ブラシ(D)グルコセンサーGS-IIN®
睡眠時ブラキシズムの評価には,ウェアラブル筋電計Ⓡ(ジーシー,東京)を用いて得られた夜間睡眠時咬筋筋電図を解析し評価した(図3)。専用ソフトウェアを用いた筋電図解析で定量的,客観的に評価し,平均咬みしめ強さと,1時間あたりの咬みしめ回数を測定した。

ウェアラブル筋電計®を用いた睡眠時ブラキシズム測定方法
(A)ウェアラブル筋電計®(B)筋電計装着時
(C)筋電計測定結果(上段グラフは1時間あたりの咬みしめ回数と咬みしめ強さを表示。下段グラフは睡眠中の筋活動を経時的に示し,ウェアラブル筋電計®装着後45分と起床前45分は覚醒時とみなし,計測から除外している。)
いずれのデータ分布も正規性を認められなかったことからノンパラメトリック検定を使用した。Stage,Grade群間の比較はKruskal-Wallis検定を行い,差を認めたデータを多群比較のDunn's test with Bonferroni検定を行った。骨吸収率と咬合力,咀嚼能率の相関関係は,Spearmanの順位相関係数を用いた。それぞれの検定においてp<0.05の場合を有意差ありとした。統計処理には,統計ソフトSPSS Ver. 27.0(日本アイ・ビー・エム,東京)を使用した。
本研究に同意を得られた198名の被験者の内訳は平均年齢53.7±16.7歳(年齢範囲18~86歳(図4)),男性114名,女性84名であった。被験者のうち,糖尿病と診断され治療を受けているHbA1c7%未満の者は11%(21名)存在した。初診時に喫煙している患者は15%(29名)であった。

歯周炎患者の年齢分布
Stage,Grade分類における被験者の内訳を表2に示す。

歯周病分類における各検査項目の被験者数と比率(%)
全被験者の骨吸収率の平均は27.5±19.3%で,男性の平均値は27.4±19.9%,女性の平均値は27.6±20.4%であった。
3) 咬合力の評価全被験者の咬合力の平均値は702.0±375.0 Nで,男性の平均値は770.9±405.2 N,女性の平均値は608.5±306.0 Nであった。
4) ファセット比率の評価全被験者のファセット比率の平均は21.8±9.7%で,男性の平均値は22.7±10.6%,女性の平均値は20.7±8.1%であった。
5) 咀嚼能率の評価被験者は198名のうち同意を得られた75名に検査を行った。男性36名,女性39名であった。全被験者の咀嚼能率の平均は156.0±61.1 mg/dlで,男性の平均値は167.2±61.5 mg/dl,女性の平均値は145.6±58.9 mg/dlであった。
6) 睡眠時ブラキシズムの評価ウェアラブル筋電計を就寝時に装着することに同意を得られた被験者41名を対象に検査を行った。その内訳は,男性23名,女性18名であった。最大随意咬みしめ時の筋活動を100%とすると睡眠時の咬みしめ強さの平均値は15.9±8.6%であった。1時間あたりの咬みしめ回数の平均は10.5±4.7回であった。
3. 各種クリニカルパラメーター間の相関性の検討 (1) Stage,Gradeと咬合力図5の平均値,中央値,最小値,最大値,第1四分位数,第3四分位数,外れ値を表記した箱ひげ図に示すように,Stageが重症化するにつれ咬合力が低下した。Stage IとIII,IとIV,IIとIV,IIIとIV間で有意差を認めた(p<0.05)。破線はデンタルプレスケールIIⓇにおける口腔機能低下症を疑う基準値350 Nであり,Stage IVの中央値,平均値は基準値以下であった。この結果からStageが重症化すると咬合力が低下することが明らかとなった。図6に示すように,Gradeが進行すると有意に咬合力が低下した(p<0.05)。Grade AとB,BとC,AとC間で有意差を認めた。Grade Cの中央値,平均値は基準値以下であった。この結果から歯周炎の進行速度が急速な場合,咬合力が低下することが明らかとなった。

Stageと咬合力
Stageが重症化すると咬合力が有意に低下していた。*:p<0.05 ○:外れ値 ×:平均値

Gradeと咬合力
Gradeが進行すると有意に咬合力が低下していた。*:p<0.05 ○:外れ値 ×:平均値
図7に示すように,Stage IIIと比較してStage IVは有意に減少した(p<0.05)。この結果からStage IVにおいてはファセット比率が低下することが明らかとなった。図8に示すように,Grade AとC,BとC間に有意差を認めた(p<0.05)ことからGrade Cではファセット比率が有意に低下することが明らかとなった。

Stageとファセット比率
Stage IVではファセット比率が有意に低下していた。*:p<0.05 ○:外れ値 ×:平均値

Gradeとファセット比率
Grade Cでは有意にファセット比率が低下していた。*:p<0.05 ○:外れ値 ×:平均値
図9に示すように,Stageが重症化するにつれ咀嚼能率が低下した。Stage IとII,IとIII,IとIV,IIとIV,IIIとIV間で有意差を認めた(p<0.05)。破線はグルコセンサーGS-IINⓇにおける口腔機能低下症を疑う基準値150 mg/dlであり,Stage IVの中央値,平均値は基準値以下であった。この結果からStageが重症化すると咀嚼能率が低下することが明らかとなった。図10に示すように,Gradeが進行すると有意に咀嚼能率が低下した(p<0.05)。Grade AとB,AとC,BとC間に有意差を認めた(p<0.05)。Grade BとCの中央値,平均値は基準値以下であった。この結果から歯周炎の進行速度が急速な場合,咀嚼能率が低下することが明らかとなった。

Stageと咀嚼能率
Stageが重症化すると咀嚼能率が有意に低下していた。*:p<0.05 ○:外れ値 ×:平均値

Gradeと咀嚼能率
Gradeが進行すると有意に咀嚼能率が低下していた。*:p<0.05 ○:外れ値 ×:平均値
図11に示すように,Stage間で平均咬みしめ強さに有意差は認められなかった。この結果からStageが重症化しても睡眠時ブラキシズムの平均咬みしめ強さに影響はないことが明らかとなった。図12に示すように,Grade間で平均咬みしめ強さに有意差は認められなかった。この結果からGradeが進行しても睡眠時ブラキシズムの平均咬みしめ強さに影響はないことが明らかとなった。

Stageと平均咬みしめ強さ
Stageが重症化しても平均咬みしめ強さに有意差はみられなかった。 ○:外れ値 ×:平均値

Gradeと平均咬みしめ強さ
Gradeが進行しても平均咬みしめ強さに有意差は認められなかった。×:平均値
図13に示すように,Stage間で1時間あたり咬みしめ回数に有意差は認められなかった。この結果からStageが重症化しても睡眠時ブラキシズムの1時間あたりの咬みしめ回数に影響はないことが明らかとなった。図14に示すように,Grade間で1時間あたりの咬みしめ回数に有意差は認められなかった。この結果からGradeが進行しても睡眠時ブラキシズムの1時間あたりの咬みしめ回数に影響はないことが明らかとなった。

Stageと咬みしめ回数
Stageが重症化しても1時間あたりの咬みしめ回数に有意差はみられなかった。×:平均値

Gradeと咬みしめ回数
Gradeが進行しても1時間あたりの咬みしめ回数に有意差は認められなかった。×:平均値
図15に示すように,Spearmanの順位相関係数により,骨吸収率と咬合力との間に有意な相関関係が認められた(r=-0.52,p<0.05)。この結果から骨吸収率と咬合力には正の相関を認めることが明らかとなった。

骨吸収率と咬合力
骨吸収率が増加すると咬合力が有意に低下していた。
図16に示すように,Spearmanの順位相関係数により,骨吸収率と咀嚼能率との間に有意な相関関係が認められた(r=-0.62,p<0.05)。この結果から骨吸収率と咀嚼能率には負の相関を認めることが明らかとなった。

骨吸収率と咀嚼能率
骨吸収率が増加すると咀嚼能率が有意に低下していた。
図17に示すように,Spearmanの順位相関係数により,骨吸収率と平均咬みしめ強さとの間に相関関係は認められなかった(r=-0.09)。この結果から骨吸収率が増加しても睡眠時ブラキシズムの平均咬みしめ強さに影響はないことが明らかとなった。

骨吸収率と平均咬みしめ強さ
骨吸収率が増加しても平均咬みしめ強さに有意な関係は認められなかった。
図18に示すように,Spearmanの順位相関係数により,骨吸収率と1時間あたりの咬みしめ回数との間に相関関係は認められなかった(r=0.06)。この結果から骨吸収率が増加しても睡眠時ブラキシズムの1時間あたりの咬みしめ回数に影響はないことが明らかとなった。

骨吸収率と1時間あたりの咬みしめ回数
骨吸収率が進行しても1時間あたりの咬みしめ回数に有意な関係は認められなかった。
本研究は歯周炎の重症度と進行速度に対する咬合力,ファセット比率,咀嚼能率および睡眠時ブラキシズムの相関性について検討した。
研究を行うにあたり,歯周病の進行と,様々な咬合,咀嚼機能との相関性を調べるために対象者の除外条件を以下の理由により設定した。すなわち,顎関節痛や開閉口障害がある顎関節症患者の咬合力は顎関節に問題のない患者と比較して有意に咬合力が低いと報告されているため除外した17)。矯正治療中の患者は歯の移動に伴い様々な咀嚼因子に影響を及ぼすため除外した。残存歯数の減少により咬合力は低下し,歯周炎による評価に影響を与えるため除外した18)。さらに,歯周治療後,インプラントやブリッジなどによる咀嚼機能回復処置により咬合の安定が得られ咬合力,咀嚼能力が向上していることが考えられるため除外した19)。
次にStage分類と咬合力の相関性についてはStageが重症化すると咬合力は有意に低下することが本研究でも明らかとなった。Palinkasら1)はデジタルダイナモメーターを用いて臼歯部の咬合力を測定し,歯周炎群と健常者群を比較した結果,歯周炎群が健常群より咬合力が有意に低下していたことを示した。また,上田ら2)は咬合力をデンタルプレスケールIIⓇで計測し,歯周炎患者をStage分類で評価した結果,健常者と比較し,Stage II~Stage IV間で咬合力が有意に低下していたことから歯周炎が重症化すると咬合力が低下することを示した。本研究では,さらにStage IとIII,IとIV,IIとIV,IIIとIV間で有意に咬合力が低下し,歯周炎が重症化すると咬合力が低下することをより明確に示した。残存歯が20本以上を対象として歯数による影響を減少させ,より歯周炎の進行と咬合力の関係を調査したが,研究参加者(20~32歯)においても歯数が減少すると咬合力の低下が有意にみられた。
また,本研究の結果,Stageが重症化すると咀嚼能率は有意に低下した。過去に脇田ら3)は咀嚼能率をグルコセンサーGS-IINⓇで計測し,歯周炎患者をStage分類で評価し,Stage IとIV間で有意に咀嚼能率が低下していた。本研究結果では,Stage IとII,IとIII,IとIV,IIとIV,IIIとIV間で有意に咀嚼能率が低下し,歯周炎が重症化すると咀嚼能率が低下したことから,より詳細に示すことができた。
しかし,これらの研究では,いずれも咬合力や咀嚼能率を歯周炎の「進行速度」との相関性はみていなかったが,本結果ではGradeの進行によっても咬合力,咀嚼能率がともに有意に低下したことから,歯周炎の重症度だけではなく,進行速度が急速な場合にも咬合力,咀嚼能率が低下することが明らかとなった。
歯の咬耗は,上下顎の歯が繰り返し咬合接触することによってエナメル質や象牙質が摩耗することである20)。咬耗の程度には個人差があり,咬耗の程度と,歯周炎の重症度や進行速度との相関性を検討した結果,Stage IV,あるいはGrade Cの被験者では,歯の咬耗が有意に少ないことが明らかとなった。これは,歯周炎が急速に進行することで歯の咬耗が進む以前に歯槽骨が吸収し,歯の動揺が起こることで咬耗が少なくなったと考える。Stage IVでファセット比率は有意に減少したがGrade Cと診断された被験者は33名であり,そのうち,29名はStage IVであり,Stage IVの多くはGrade CであったことからStage IVでも有意な差が生じたと考える。全検査を行った参加者41名においてファセット比率と歯周炎の進行程度(Stage,Grade)と骨吸収率,咬合力,咀嚼能率,睡眠時ブラキシズムの咬みしめ強さ,咬みしめ回数の相関を調査した。ファセット比率と歯周炎の進行程度(Stage,Grade),咬合力においては有意な相関を認めたが骨吸収率,咀嚼能率,睡眠時ブラキシズムの咬みしめ強さ,咬みしめ回数には有意差を認めなかったことよりファセット比率は歯周炎の進行程度と咬合力に影響を受けることを示唆した。
睡眠時ブラキシズムは,臨床評価(ファセット,咬筋触診時の疼痛,頬粘膜や舌の圧痕があるか),アンケート(睡眠中の歯ぎしりや食いしばりをしているか,睡眠中の歯ぎしりを誰かに指摘されたことがあるか,日中の食いしばりや歯ぎしりがあるか)21),睡眠ポリグラフィ測定22)および筋電図測定等23)が使用されてきた。葭沢24)はファセット,骨隆起,舌や頬粘膜の圧痕は間接的な診断であり,患者の顎運動を正確に測定できないため,睡眠時ブラキシズムを診断する信頼度は低いとしている。また,アンケートなどの自己申告による診断は筋電計による評価と比較して信頼性が低いという報告がある25,26)。睡眠時ブラキシズムの客観的評価として睡眠検査室における終夜ポリグラフィ測定(PSG)22)と家庭での携帯型筋電図測定装置(EMG)23)による測定がある。PSGはより正確な把握ができる一方で,患者の経済的,時間的負担が大きいため,簡易に測定できるEMGであるウェアラブル筋電計Ⓡ(ジーシー,東京)を用いて夜間睡眠時咬筋筋電図を解析した。睡眠時ブラキシズムの筋電図波形は,持続時間の短いPhasicバーストと,比較的長いTonicバーストに分類されている。アメリカ睡眠学会では,Phasicバーストが3つ以上連続した波形群をPhasicエピソードと定義しており,グラインディング時の筋電図波形とされている。Tonicバーストは主にクレンチング時の波形とされている。Tonicバーストだけからなる波形群はTonicエピソード,PhasicバーストとTonicバーストの両方を含んだ波形群はMixedエピソードと定義されている27)。
睡眠時ブラキシズムは過剰な咬合力を伴った顎運動が生じることで咬耗や咀嚼筋痛などの顎口腔機能系に様々な影響をもたらすと考えられている27)。過剰な咬合力により歯周炎が進行することが予測されると考えたため,歯周炎と睡眠時ブラキシズムの評価を行った。その結果,歯周炎の重症度,進行速度と睡眠時ブラキシズムの咬みしめ強さや1時間あたりの咬みしめ回数に相関性は認められなかった。歯周炎の進行程度と1時間あたりのPhasicエピソードおよびTonicエピソードについても評価したがともに有意な差はみられなかった。また,骨吸収率と睡眠時ブラキシズム中の咬みしめ強さや1時間あたりの咬みしめ回数にも相関性は認められなかった。Kawakamiら9)は咬合崩壊した被験者と健常者の間で起床時,睡眠時の咬筋活動を携帯型EMGレコーダーで計測した。その結果,日中の咬筋活動の低下を認めたが睡眠中の咬筋活動には差を認めなかったことから歯周炎の進行やその結果起こる咬合崩壊と睡眠時ブラキシズムには相関がないことを示した。
Grade Cの患者では,睡眠時ブラキシズム中の咬みしめ強さや1時間あたりの回数に影響がなかったにも関わらず,ファセットの形成は抑制されていた。早期に歯周組織破壊が進行した場合,対象歯はファセットを形成することなく,二次性咬合性外傷により,さらに周囲組織破壊が進行することが明らかとなった。よってGrade Cの患者ではファセット形成がなくても暫間固定,咬合調整などを行う必要が示唆された。しかし,この研究では対象者の歯数や咬合様式は考慮されておらず,歯数および咬合様式を分類し,睡眠時ブラキシズムに与える影響を検討する必要があると考える。
歯周治療によって歯周組織の炎症が軽減すると咬合力,咀嚼機能が改善することがあると日本歯周病学会「高齢者の歯周治療ガイドライン2023」により示されている28)。しかし,2017年歯周病分類に基づいて歯周治療による咬合力,咀嚼能率の改善について検討した研究は未だにないため歯周治療終了後の咬合力,咀嚼能率および睡眠時ブラキシズムを測定し,初診時の結果と比較することで歯周治療が咀嚼機能回復にどの程度寄与することができるのか今後,検討していきたい。
本研究では歯周炎の進行が咬合因子に及ぼす影響を調べるためStage,Grade分類に基づいて咬合力,ファセット比率,咀嚼能率および睡眠時ブラキシズムを検討し,以下の結論を得た。
1)歯周炎の重症度が高く,進行速度が急速になるに伴い咬合力,咀嚼能率が低下する。
2)ファセット形成は歯周炎が急速に進行し,重症化した場合に抑制される。
3)急速に歯周炎が進行し,周囲組織に破壊が認められても睡眠時ブラキシズムの咬みしめ回数や咬みしめ強さに影響がない。
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。