2026 年 68 巻 2 号 p. 59-69
ヒト白血球抗原(HLA)は自己と非自己を区別する役割を果たす。ドナーのHLA遺伝子がハプロタイプホモである場合,レシピエント側のHLAハプロタイプの少なくとも一方と合致すれば移植が可能である。しかし,HLAハプロタイプホモドナーの出現率は約100人にひとりと低く,日本人全部をカバーする細胞ストック構築は困難である。
われわれは,177人の歯髄提供者のHLA型を調べ,日本人の8割以上をカバーし得るHLAハプロタイプが含まれていることがわかった。そこで,HLA-A*02,33;B*44,-;DRB1*13,-のHLA型を持つ歯髄細胞(DP144)を選び,HLA-A*02ローカスに遺伝子欠損を誘導することで,擬似的なHLAハプロタイプホモの遺伝子型を持つ細胞の作製を試みた。HLA-A*02ローカスを特異的に切断するよう設計したZinc Finger NucleaseをDP144に導入し,抗HLA-A02-FITCで細胞を蛍光標識したのち,FACSを用いてHLA-A02陰性画分を分取し培養を行った。
HLA-A02陰性画分の遺伝子配列を解析した結果,HLA-A*02アリルに選択的な塩基の置換や欠失,挿入の他,HLA-H領域との融合変異を認めた。実験によって擬似的HLAハプロタイプホモ細胞が誘導できたことは,将来の移植用細胞バンクの構築に貢献し,再生医療の発展へと繋がるだろう。
This study was conducted to investigate selective gene modification of human dental pulp cells using Zinc Finger Nucleases (ZFNs), targeting the HLA-A*02 allele. We analyzed the HLA haplotypes of 177 dental pulp donors at Gifu University, creating a list of frequently occurring haplotypes. The coverage rate of each haplotype was calculated, and the cumulative coverage rates in the Japanese population was estimated as being more than 80%.
Next, the design of ZFNs for specifically targeting the exon 3 region of HLA-A*02:01:01:01 was executed, focusing on the unique amino acid sequences encoded in this exon as compared with the allele counterpart, HLA-A*33:03:01:01. Electroporation was employed to introduce plasmids encoding ZFNs into the dental pulp cells under optimized voltage and pulse conditions. Post-electroporation, the cells were cultured to assess the cell viability and plasmid transfection efficiency, evaluated through fluorescence microscopy and flow cytometry, respectively. The study also included the use of anti-HLA-A*02 antibodies for staining and analysis via flow cytometry, ensuring the specificity of the ZFN action.
The results demonstrated successful targeting of the HLA-A*02 allele with no effect on the HLA-A*33 allele, indicating the potential for creating HLA-homozygous cell lines. This advancement is significant for developing cell banks for transplantation, as it addresses the challenge of HLA compatibility in regenerative medicine. The findings suggest that the ZFN technology can be effectively utilized to generate genetically modified dental pulp cells, paving the way for personalized cell therapies and improved outcomes in tissue engineering.
In conclusion, this research highlights the feasibility of using ZFNs for precise gene editing in human dental pulp cells, with implications for enhancing the efficacy of regenerative medicine approaches. Future studies should focus on the long-term stability of the modifications and the functional implications in clinical applications.
山中因子をマウスの体細胞やヒト線維芽細胞に導入し,ES細胞と同様の多分化能を有するiPS細胞が誘導されることが報告された1)。さらにヒト白血球抗原(HLA)が一致するiPS細胞を誘導し,拒絶反応を引き起こすことなく移植できる移植用細胞資源としても期待されている2-5)。また,疾患特異的iPS細胞が誘導され,疾患メカニズムの解明や薬剤スクリーニングに関する研究も行われている6,7)。現在では,網膜色素上皮細胞や血小板といった特定の細胞種へ分化させたり,移植用臓器の製造に用いるなど,一部では臨床試験も実施され始めている2,3)。一方,臨床応用を目指してHLAを一致させやすくするために,京都大学を中心にさまざまなHLAがホモ接合体になっているiPS細胞を集めた「iPS細胞ストック」の構築が進んでいる8-10)。
HLAは細胞の表面に発現している2量体の抗原タンパク質であり,第6染色体短腕にコードされ,極めて高い多形性が特徴である。HLAクラスI分子とHLAクラスII分子に区別され,補助刺激シグナルとともにT細胞へ抗原ペプチドを提示する。これらのHLA分子のうち,特にHLAクラスI分子に属するHLA-A,HLA-Bと,HLAクラスII分子に属するHLA-DRB1の3ローカスが,古くより移植臓器に対する拒絶反応において重要な役割を果たすことが知られており11-13),これらがホモ接合型(HLAハプロタイプホモ)である細胞は,レシピエント側のHLA型に合わせて移植することで免疫拒絶を起こしにくく,術後生存率も高いとされている。HLA型は,血清学的あるいはアレルグループを判別する2桁,同一の血清学的あるいはアレルグループ内でアミノ酸変異を伴うものを区別する2桁,そしてアミノ酸を伴なわないエクソン内とエクソン外の区別のためにそれぞれ2桁を用いて,合計8桁の数字によって表記される(日本組織適合性学会によるhttps://jshi.smoosy.atlas.jp/ja/Allele)。移植免疫に関係する血清学的タイピングによる日本人におけるHLAハプロタイプで出現頻度が最も高いHLA型は,HLA-A*24;B*52;DRB1*15であり,このハプロタイプ遺伝子の出現頻度は8.2%,ハプロタイプ保有率は15.7%である。すなわち,このハプロタイプ遺伝子をホモに持つドナーの出現率は約0.7%であり,このHLAハプロタイプホモドナーから採取した細胞を移植できるレシピエントの割合は,上のハプロタイプ保有率と等しく日本人口の約16%に相当する。過去に報告された論文では,HLAハプロタイプホモiPS細胞のうち,出現頻度上位75パターンを取得することで,日本人の約80%に移植することが可能となるが,そのためには64000人のドナーが必要であると予測された9)。
他国においても同様に移植用細胞バンクの構築が進められている。例えば,韓国における出現頻度上位10位までのハプロタイプホモ細胞を選定し,臍帯血由来の単核細胞などからiPS細胞へと誘導することで,韓国人口の41%をカバーできると報告している13)。別の論文では,韓国の造血幹細胞バンクに登録されているデータベースからハプロタイプホモ細胞の出現頻度20位までを決定したのち,13ラインのハプロタイプホモのiPS細胞を樹立した結果,出現頻度上位5位までのハプロタイプホモ細胞を得られたと報告した14)。イギリスでは,ハプロタイプホモ細胞のうち,出現頻度上位50位を得ることで,約79%のレシピエントに移植可能と報告している15)。日本では,HLAホモ接合型ドナー由来のiPS細胞を用いたハプロバンクの構築が進められており,7名のHLAホモ接合ドナーから得られた27ラインは日本人の約40%にHLA適合可能と報告されている16)。しかし,日本のようにHLAハプロタイプホモドナーが得やすい国々でも,その出現率は極めて低く,国民の大多数に移植できるHLAハプロタイプホモをカバーした細胞バンクの構築には膨大な時間と費用を必要とする。そのため各国の移植用細胞バンクの構築は,いまだ完成には至っていない8,9)。
われわれは,岐阜大学医学部附属病院で患者からのインフォームドコンセントを得て摘出した埋伏智歯や抜去歯から歯髄細胞を採取し,さまざまなHLA型から構成される歯髄細胞コレクションの作製を行った17)。歯髄細胞は永久歯,乳歯から採取可能であり,自己複製能や多分化能といった幹細胞様の性質を有している17,18)。われわれが歯髄細胞を培養した結果,80日に亘って継代培養を繰り返しても高い増殖能を維持することが示された17)。歯髄細胞からiPS細胞を誘導したところ,ヒト線維芽細胞と比較して高い誘導効率を示すと共に,Oct3/4,Sox2,Klf4の3因子でもiPS細胞へ誘導可能であることがわかった8)。また,作製した歯髄細胞コレクションにはHLAハプロタイプホモ細胞が3類含まれていた8,9)。以上のように,日本人の歯髄細胞は医療廃棄物から容易に得られ,HLAハプロタイプホモiPS細胞を樹立することができるため,再生医療用細胞資源としての期待ができる。
一方,HLAハプロタイプホモ細胞を遺伝子編集によって作り出す試みとして,Torikaiら19)は造血幹細胞のHLA-Aのみを標的にするZinc Finger Nuclease(ZFN)を用いてノックアウトした。その結果,造血幹細胞はヒト骨髄球や単球,B細胞やT細胞への分化能を維持したままHLA-Aの発現が阻害されたと報告している。ZFNはZinc-finger motifと呼ばれるDNA結合ドメインと,DNA切断ドメインであるFok1エンドヌクレアーゼから構成される20,21)。一組のZFNがそれぞれ12~18個の塩基を認識し,特定のDNA配列に結合する。Fok1エンドヌクレアーゼは二量体を形成し,スペーサー配列にDNA2本鎖切断(DSB)を引き起こす20,21)。その後,DNA修復機構が働き,非相同末端結合(NHEJ)または相同組み替え修復(HDR)によってDNAの修復が行われる。その際,塩基の置換,欠失や挿入,逆位といった変異が遺伝子配列に誘導されるため,古くから幹細胞の遺伝子に対するゲノム編集に用いられてきた実績がある22-25)。われわれは特定のHLA-Aアリルに対するZFNペアを設計して,HLAのオフターゲット変異やゲノム構造変異を詳細に解析する研究を行なった26)。アレル特異的な変異導入には成功したものの,SV解析でHLA-Aローカス近傍に大規模な欠失変異が見つかった。
本研究では,われわれが保有する177ラインのヒト歯髄細胞から作製可能な擬似的ハプロタイプホモ細胞による日本人人口カバー率の予測を試みた。また,前回用いたDP144(HLA-A*02,33:B*44,-:DRB1*13,-)に対し,別に作製したZFNを用いてHLA-A*02に変異を導入し,大規模な構造変異が生じるかを評価した。
埋伏智歯は岐阜大学医学部附属病院歯科口腔外科を受診した患者から採取した。患者から同意を得た(岐阜大学医学研究等倫理審査委員会 許可29-323)上で,過去に報告した手法に従い18),抜去歯から単離した歯髄細胞を使用した。
HLA-A*02,33:B*44,-:DRB1*13,-のHLA型を持つ歯髄細胞(DP144)を,MSCGM Bulletkit™(Lonza,Walkersville,MD,USA)を用いて培養した。播種した細胞数は,1×106cells/100 mm dishとした。80%コンフルエントまで歯髄細胞が増殖した段階で,TrypLE™ Select(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA,US)を用いて細胞を剥離し,1×106cells/100 mm dishの播種密度で,2~3日毎に継代培養を行った。
HLAハプロタイプ出現頻度ならびに擬似HLAハプロタイプホモ細胞による累積カバー率の計算岐阜大学で保有する177ラインの歯髄細胞のHLAハプロタイプリストを作成した。可能性のあるHLAハプロタイプをA,B,DRB1の組み合わせについてすべてリストし,日本人における出現頻度リストと照らし合わせて,一致するものを抽出した。
血清型日本人のHLAハプロタイプ出現率については,HLA研究所が提供しているHLA A-B-DRハプロタイプ頻度表(https://jshi.smoosy.atlas.jp/ja/hla_data)を用いた。同様に米国の人種別HLAハプロタイプ出現率は,NMDP(https://network.nmdp.org/services-support/bioinformatics-immunobiology/haplotype-frequencies)の公開データを,現在データを管理しているCIBMTR(https://cibmtr.org/)の許可のもとで用いた。最新のデータはHLA型が遺伝子型に基づいて細分化されており,日本人のデータと直接比較できなかったため,血清型データを使用して計算を行なった。
それぞれのハプロタイプの出現頻度から下記の計算式に従ってそれぞれの人種に従って上位50位までのカバー率を計算した。得られたカバー率を,重複を考慮して積算することにより累積カバー率を計算した。
カバー率=2HF-HF2
HLA-A*02を特異的に切断するZFNの設計HLAの遺伝子領域には8つのエクソンが存在する。このうち,それぞれのHLAに特異的なアミノ酸配列はエクソン2,またはエクソン3にコードされている。そこで今回は,HLA-A*02:01:01:01のエクソン3領域を特異的に切断するCompoZr Custom Zinc Finger Nuclease(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO,USA)の設計を,以下の要領で行った。すなわち:切断箇所となるスペーサー配列は5または6bpとした。設計されたZFNのペアのうち,HLA-A*02アリルを特異的に切断し,対立遺伝子であるHLA-A*33は切断しないと期待できるペアを2組選定した。今回は比較のために,前回31)用いられたペアとは別なペアを使用した。ZFNをコードしたプラスミド(pZFN)をDH5α-コンピテントセル(タカラバイオ,滋賀)に形質導入し,QIAGEN Plasmid maxi kit(キアゲン,東京)をプロトコールにしたがって使用し,pZFNを精製した。
エレクトロポレーション法によるpZFNの導入100 mm dishで歯髄細胞を培養し,80%コンフルエントに増殖した段階で,TrypLE™ Selectを添加し細胞を50 mlコニカルチューブに回収した。MSCGM除去後,Opti-MEM(Thermo Fisher Scientific)を5 ml加え,細胞数を計測した。Opti-MEM除去後,6.0×105cells/100 μlとなるよう,再度Opti-MEMを添加し調製した。調製した細胞懸濁液100 μlと,pCAGGS-EGFP(pEGFP)またはpZFNを5 μgずつ加えピペッティングした後,プロトコールにしたがってエレクトロポレーションを実施した。エレクトロポレーションにはNEPA21(ネッパジーン,千葉)を使用した。電圧は150 V,パルス幅5 ms,パルス間隔50 ms,減衰率40%にて,2回のパルスを印加した。エレクトロポレーション後,氷上に5分間静置した後,37℃5%CO2の条件下でMSCGM Bulletkit™(Lonza)を用いて培養した。細胞の生存率とプラスミドの導入効率の評価をするため,24時間後における細胞生存率と48時間後におけるGFPの発現率を,それぞれ蛍光顕微鏡(IX-71,OLYMPUS,東京)とBD FACS Aria(BD Biosciences,FRANKLIN LAKES,NJ,USA)を用いて観察した。
抗HLA-A*02抗体による染色とフローサイトメトリーを用いた解析ならびに陰性画分の濃縮FACSには,抗HLA-A*02-FITC抗体(A2,A28 IgG2a FITC-conjugated,#FH0037;One Lambda,Canoga Park,CA)を使用した。フローサイトメトリー解析およびソーティングにはBD FACS aria(BD Biosciences)を使用した。HLA-A*02陰性分画のゲートを設定しHLA-A*02陰性細胞をソーティングし,MSCGM Bulletkit™(Lonza)で拡大培養を行った。
PCRおよびサンガーシークエンス解析NucleoSpin Tissue(MACHEREY-NAGEL,Neumann-Neander-Str,Germany)を用い,プロトコールにしたがってHLA-A*02陰性細胞からDNAを抽出した。抽出したDNAはNanoDrop ND-1000(Thermo Fisher Scientific)を使用して測定した。HLA-A*02ならびにHLA-A*33の遺伝子配列を確認するために使用したPCRプライマーは以下の通り。
HLA-A*02F-1; 5'-CCTCCGCGGGTACCACCAGT-3'
HLA-A*02R-1; 5'-TCCTTCCCGTTCTCCAGGTA-3'
HLA-A*02F-2; 5'-AGTGAAGGCCCACTCACAGAC-3'
HLA-A*02R-2; 5'-TCCTTCCCGTTCTCCAGGTAT-3'
HLA-A*33F; 5'-CCTCCGCGGGTACCAGCAGG-3'
HLA-A*33R; 5'-TCCTTCCCGTTCTCCAGGTA-3'
PCR反応は,94℃ 30秒で1本鎖DNAに解離,60℃30秒でアニーリング,70℃30秒で伸長反応を行い,これらを1サイクルとして,35サイクル行った。
PCRで増幅したDNA断片を,10×A-attachment MiX(Target Clone™-Plus-,東洋紡,大阪)とpTA2 Vector(Target Clone™-Plus-,東洋紡,大阪)を用いてTAクローニングを行った。QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン,東京)を用いてプラスミドDNAを抽出し,M13-20 primerおよびM13 Reverse primerを用いて,サンガーシークエンス解析を行った。得られたデータはGeneious(トミーデジタルバイオロジー,東京)を用いて解析した。
われわれが保有する177ラインの歯髄細胞の血清型HLA型から,これらの細胞からアリル選択的な遺伝子ノックアウトによって得られる可能性のあるハプロタイプのリストを作成した(表1)。われわれのコレクションの解析に用いたデータに合わせて,日本人のHLAハプロタイプ頻度についても血清型データを用いた。この解析から,われわれが持つ177ラインのみで,日本人人口の8割以上をカバーする擬似HLAハプロタイプホモ細胞が得られる可能性が示された。
さらに,他の国と比較するために,米国で公開されている人種別の血清型HLAハプロタイプ頻度表から,出現率上位のHLAハプロタイプホモドナーを50例集めた時の,それぞれの人種ごとのカバー率を計算した(図1)。多民族国家の代表である米国と比較して,日本人は少ないドナー数で高いカバー率を達成できることが確認できた。

岐阜大学歯髄細胞コレクション(177ライン)から取り出すことのできるHLAハプロタイプ(血清型)のリスト

日本人とアメリカの主要人種ごとの上位50位までの出現頻度を持つHLAハプロタイプホモ細胞によるカバー率シミュレーション。
われわれは,近年進歩が著しいゲノム編集技術を使って,HLAハプロタイプホモ以外のドナー由来細胞から擬似的なHLAハプロタイプホモ細胞を得ることができないかと考え,HLA-Aの遺伝子座のみがヘテロで,他のHLA型がホモになっているDP144を使って実験を行なった。DP144の4桁のHLA型を調べたところ,HLA-A*02:01,33:03;HLA-B*44:03;HLA-DRB1*13:02:-であった。
HLA-A*02アリルの遺伝子型を出現頻度の高いHLA-A*02:01:01:01と仮定して,DP144のHLA-A*02アリルのみをノックアウトするZFNを,SIGMA-ALDRICHに設計委託して,HLA-A*02を特異的に切断しHLA-A*33は切断しないZFNのペア(HLAA-r488a1/HLAA-494a1,本論文ではZFM3-5,ZFN3-6とそれぞれ表記する)を作製した。このZFNペアは,前回31)用いたZFNペアと同じ領域をターゲットとし,切断部位が下流にずれている,MEL Iアッセイで高い活性を示したペアである。以降の実験ではこのZFNペアを用いて,ふたたびHLA-A*02遺伝子のノックアウトを試みた(図2A,B)。

HLA-Aの遺伝子構造と,HLA-A*02とHLA-A*33を区別して切断するZFNの位置
A.HLA-A遺伝子の構造。エクソン領域を四角で示した。黒四角は非翻訳領域(UTR)を表している。上下の矢印は予測されたZFNの位置を示す。B.HLA-A*02:01:01:01とHLA-A*33:03:01:01の配列比較。HLA-A*33:03:01:01についてはHLA-A*02:01:01:01と異なる塩基のみ表記した。四角で囲った部分はZFN3-5ならびにZFN3-6が認識する配列を,上下の矢印は予想される切断位置を示す。
HLA-A*02遺伝子をノックアウトするために,DP144へpEGFPを導入した。その際の蛍光観察による細胞生存率は68.5%であり,遺伝子導入の効率は約30%だった。これらは同細胞ならびに,ZFN領域のみ異なるプラスミドを用いた先行論文と同等であった26)。次に,HLA-A*02を特異的に切断するよう設計したpZFNを,同様の条件でDP144へ導入した。pZFN導入細胞の継代培養を3回~5回行い,未トランスフェクション細胞を使ってゲートを設定,抗HLA-A02-FITC抗体を用いてFACSで解析した結果,2.4%のHLA-A*02陰性細胞を確認した(図3)。さらに,HLA-A*02陰性の細胞を分取し,拡大培養を行った。分取したHLA-A*02陰性細胞を再度FACS Ariaで解析した結果,71.2%がHLA-A*02陰性細胞になっていることを確認した(図3D)。

ソーティングによるHLA-A*02陰性画分の濃縮
親株のDP144(Untransfected)を抗HLA-A*02-FITC抗体で染色しゲートを設定した後,pZFNを導入したDP144をフローサイトメトリー解析した。図中の数字はHLA-A*02陰性細胞の割合を示す。A;抗体染色をしていないDP144細胞。B;ZFNを導入していないDP144を抗HLA-A02抗体で染色したもの。C;ソーティング時(ZFN3-5/6)ならびに,それをD;拡大培養したあと(After sorting)の解析結果を示す。
HLA-A*02陰性画分から分取した細胞の遺伝子配列を確認するために,HLA-A*02のターゲット領域をPCRで増幅しDNA配列を解析した。その結果,塩基の置換や欠失,挿入変異を認めた(図4)。変異の中で最も多かったのは,33塩基の欠失変異と同時にターゲット領域より下流部分が上流に存在しているHLA-Hと融合しているものであった。
一方で,対立遺伝子であるHLA-A*33も同様の方法を用いてサンガーシークエンス解析したが,オフターゲット変異は認められなかった。HLA-A*02を解析した19個のクローンのうち,10個のクローンに遺伝子変異を認めた一方,HLA-A*33を解析した4個のクローンでは,いずれも遺伝子変異を認めなかった。

HLA-A*02陰性DP144画分の遺伝子配列解析結果
上段にHLA-A*02のターゲット領域の配列を示した(Wild-type)。小文字は塩基の挿入,太文字は置換された塩基,-は塩基の欠失を示す。欠失を伴ったHLA-A/Hの融合配列については,HLA-A*02部分とHLA-H*01部分をそれぞれ上線および下線で示した。
今回,擬似HLAハプロタイプホモ細胞によるカバー率計算によって,わずか177人のドナー数で,最大日本人の8割以上をカバーできることが予想された。
今回の実験では,第2候補として作られたZFNペアを用いて,再現性よくHLA-A*02アリルを不活化し,陰性細胞の純度を71.2%まで上げることができた。そして,この細胞画分のHLA-A*02遺伝子領域には,ターゲットとしたアリルに塩基の置換や欠失,挿入といった,さまざまな変異が誘導されていることも確認された。また,対立遺伝子であるHLA-A*33に対して,オフターゲット変異は生じていないことも確認できた。過去に報告された論文では,ヒト造血幹細胞を対象としたZFNによるHLA遺伝子編集を行った結果,FACS解析によりHLA-A2陰性細胞が11.8~23.8%確認されたと報告している19)。また,ヒト歯髄細胞を対象とした選択的HLA編集では,約10%のHLA-A*02陰性細胞が確認されている26)。本研究で得られたHLA-A*02陰性細胞の割合はこれらの報告と比較して低値であったが,細胞の種類や電気穿孔法時のZFNプラスミド導入条件の違いが,プラスミド導入率およびHLA遺伝子編集効率に影響した可能性が考えられる。
今回検出された最も頻度の多い変異パターンは欠失であり,ZFNによる遺伝子編集では欠失や挿入など多様な変異が報告されている19,22,24-26)。本研究では,HLA-A*02陰性画分の遺伝子配列解析により,塩基の欠失だけでなく,挿入,置換およびHLA-H領域との融合配列など,多様な変異が確認された。Kurodaらが報告した論文でも26),近傍の配列を認識する異なるZFNを用いて,HLA-A*02アリルに塩基の欠失や挿入を伴う様々な変異が確認されている。本研究においても,解析した19箇所のHLA-A*02遺伝子領域に,52.6%(10/19)の割合で遺伝子変異を確認した。その中には21bpのインフレーム欠失ならびに,33bpのインフレーム欠失を含む偽遺伝子との融合変異が含まれており,その割合は決して低くはなかった。一方,抗体はHLA-A*02分子の抗原性を検出するため,インフレーム欠失変異や遺伝子融合によって,抗原性が失われなかった異常HLA-A*02タンパク質が産生されている可能性が否定できない。このような変異は,より精密な遺伝子編集技術を用いて終止コドンを導入するなどの方法によってのみ除去が可能であり,今後臨床応用に向けて重要な課題と考えられる。
また,前回26)の報告と類似して,今回検出された欠失変異の一部にHLA-A*02のターゲット領域下流にてHLA-H領域と融合した変異を認めた。遺伝子の向きから考えても,単純な欠失変異とは考えにくく,なんらかの組換え変異が同時に起きた可能性がある。HLA-H遺伝子は,HLA-Aの遺伝子重複またはHLA-Aとの共通の祖先遺伝子から発生したと考えられており,exon4に1塩基の欠失およびフレームシフト変異が発生し,未成熟終始コドンが出現したことで偽遺伝子化したHLAである。このようなHLA-A類似の遺伝子は染色体上でもHLA-Aの近傍に集中しており,遺伝子配列も極めて酷似していることから,前回の結果と合わせてもHLA-A近傍にオフターゲット切断を生じる可能性が高い。Kosickiらによると27),ハツカネズミ(BL6)とクリイロハツカネズミ(CAST)由来の染色体を有するES細胞に対し,第6染色体にコードされているCd9の第2イントロンをCRISPR/Cas9で切断したところ,93クローンのうち2クローンで,エクソン2を含む大規模な欠失変異に加えBL6由来の染色体とCAST由来の染色体間で相同組換え修復が生じたと報告している。このような大規模な遺伝子構造異常は,細胞移植の安全性において無視できないため,二本鎖切断を利用する限りは危険が伴うだろう。
一方,オフターゲット変異が予測しにくいHLA遺伝子を直接ターゲットにせずに,HLAの表現型をコントロールする別の手法として,HLAを構成するβ2ミクログロブリンを標的にしたノックアウトが報告されている2,28,29)。HLAの多くの発現を低下させた細胞は,NK細胞の自己寛容が機能せず,免疫応答が生じる可能性があると指摘されている。Torikaiらによると19),HLA-EまたはHLA-Gの発現を促進することでNK細胞による免疫応答を回避できたとも報告しているが,そのために操作する遺伝子の数が増えてしまう。また,HLAの発現が低下した細胞が生着した場合,細胞自身が癌化もしくはウィルスに感染した場合に免疫機構による排除がされない可能性もあり,これもまたリスクとなり得る。近年では,HLA-AとHLA-Bを破壊したHLA擬似ホモ接合型およびHLA-C保持型iPSCを作製し,T細胞・NK細胞回避効果を実証,少数のiPSCラインで世界人口の90%以上に免疫適合可能であることを示した報告もあるが30),HLA領域に対する変異導入が困難という課題は解決されていない。
本研究ならびに先行研究26)では,多数のドナースクリーニングによって最適な候補細胞を選び出した。最小数の遺伝子をターゲットとした遺伝子編集と,アリルのサブタイプ,すなわち本研究の場合のHLA-A*02とHLA-A*33,を明確に見分けられるモノクローナル抗体を使用したことにより,遺伝子編集コストとオフターゲットリスクを最小限にすることができた。HLA-Aのみを改変した場合は,HLA-BやHLA-Cの発現は変化しないため,NK細胞による自己免疫応答を回避できる可能性がある。一方,HLA-BやHLA-DRB1は特に多型性が高くアリル数が非常に多いことから,特定のアリルを標的とした遺伝子編集方法の設計が難しい。そのため,HLA-BおよびHLA-DRB1はホモ表現系を持ち,HLA-AのみがヘテロであるDP144のようなドナーを用いることが推奨される。
今回の研究では,ひとつの遺伝子のノックアウトのみで日本人出現頻度第2位のHLA型を有する擬似的HLAハプロタイプホモ細胞の作製を行うことができた。日本は遺伝子濃縮が起きやすい島国であり,HLAハプロタイプホモも出現しやすく,少ないドナー数で多くの患者をカバーできる移植用細胞ストックの構築ができる。さらに,今回集めた177名のドナー由来の細胞を用い,遺伝子変異の導入シミュレーションでは,すでに日本人の8割以上をカバーできる可能性が示されたことは,慢性的なドナー不足に悩む細胞バンクが抱える問題の解決の糸口となるかもしれない。HLAハプロタイプホモ歯髄細胞から分泌されるエクソソームが,マウス歯周炎モデルで骨吸収を抑制できることも報告されており31),歯周病に対する安全で新たな治療方法の開発にも貢献できるだろう。
現在の移植医療では,免疫抑制剤を用いてHLA不一致の場合でも移植を行う場合が多い。しかし,近年の長期の臓器移植患者に対するフォローアップによって,移植後短期間にHLAに対する抗体が形成された場合に生着率が著明に低下するという報告もあり32),依然としてHLA型を一致させる重要性は存在している。また,世界的規模ではハプロタイプホモ細胞の出現頻度や必要となるドナーの数も,地域や人種毎で大きく異なるという問題もある33)。
今後は,各国が連携し世界規模でHLAハプロタイプホモ細胞を提供できる体制を整えていくことが,持続可能な細胞移植治療の普及のために重要であると考えられる。その場合に,HLAハプロタイプホモや,擬似ホモ細胞を作製しやすい日本が果たす役割は大きいだろう。
稿を終えるにあたり,研究および論文作成にあたってご指導して頂いた朝日大学歯学部口腔感染医療学講座歯周病学分野の故渋谷俊昭教授に厚く御礼申し上げます。本研究の一部は,日本学術振興会科学研究費助成事業(挑戦的萌芽研究,課題番号26670799)および科学研究費助成事業(挑戦的研究(萌芽),課題番号19K22707)の助成を受けて実施しました。
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態は以下の通りです。
共同研究費/株式会社東陽テクニカ