日本歯周病学会会誌
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症例報告
力に影響された広汎型重度歯周疾患の包括診療+Brachy-Facial-Typeの30年経過症例から歯周治療の大局を探る
平野 治朗
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2026 年 68 巻 2 号 p. 70-84

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要旨

広汎型重度歯周炎症例では,複数の複雑な発症因子が関与し,通常の包括的診療フローでは過不足のない治療介入が困難となる。このような症例では精度の高い臨床診断と多様な治療法の選択が求められる。本症例は,力の影響を強く受け,臼歯部に重度の垂直性骨吸収と咬合崩壊過程を呈した広汎型重度歯周炎(ステージIV,グレードC)患者である。天然歯を可能な限り保存し,フルクロスアーチスプリントによって口腔機能を再構築した。SPT移行後も30年間にわたり歯列を保全し良好な生活改善を得られている。これは精密な包括的歯周治療に加え,診療システムおよびSDM(Shared Decision Making)が確立し,患者の生活環境における健康管理が維持されたことによる成果である。

Abstract

In cases of severe generalized periodontitis, multiple complex pathogenic factors are involved, making it difficult to provide adequate treatment intervention using a standard comprehensive treatment flow. Such cases require a highly accurate clinical diagnosis and a wide range of treatment options. This case involved a patient with the brachyfacial facial type who presented with severe generalized periodontitis (stage IV, grade C) and a severely impaired occlusal force and presented with severe vertical bone resorption and occlusal collapse in the molar area. As many natural teeth as possible were preserved, and oral function was reconstructed using a full cross-arch splint. Even after transitioning to SPT, the patient's dentition has been preserved for 30 years, resulting in a favorable improvement in her quality of life. We believe that this is the result of precise comprehensive periodontal treatment, establishment of a treatment system and SDM (Shared Decision Making), and maintenance of health management in the patient's life.

緒言

臨床において,多くの患者にとって「生涯を自分の歯で過ごすこと」は重要な願いである。特に近年は平均寿命の延長に伴い,ライフステージを考慮した歯周治療の重要性が高まっている。そのため,患者の病態を正確に把握し,診査・診断に基づいた治療計画の立案が不可欠である1-5)。重度歯周炎における特に臼歯部にフレイアウトや垂直性歯槽骨吸収が存在する症例では,包括的治療は困難である。それは,その原因要素や関わり方が複雑であるから,診断や対応が把握しづらいからである5)。特に根分岐部病変の存在する大臼歯の治療方法には,トンネリング,歯根分離,歯根分割抜去,抜歯,GTR法など様々な選択が存在する。そして長期的な機能維持を図る治療選択には,歯根分離状態や歯根形態,歯髄の生活反応の有無などが影響される。また,歯槽骨の吸収の強い治療計画では,慎重な臨床診断と歯根破折や根尖性歯周組織炎が再発する可能性が存在する6,7)。長期的に経過良好な予後を得るための治療計画立案に際しての要点は何であるか対応しなければならない。症例は43歳,女性,初診は1990年6月,主訴は,歯肉出血と奥歯の強い動揺で,また歯の保存を希望した。全身的既往歴は特に無く,口腔内には歯肉全体に発赤腫脹など強い炎症症状が見受けられた。上顎臼歯部に特に力に大きく影響され24は脱落寸前で,下顎前歯は欠損していた。X線所見では,臼歯部に重度の垂直性骨吸収や根分岐部病変などが存在した。天然歯を可能な限り保存し,幾再評価の経過からフルクロスアーチスプリントにて口腔機能回復し適応しSPT移行後30年間,1歯の喪失もなく歯列保全し生活改善が得られているので報告する。

症例

患者:43歳,女性,主婦(彫金師)(初診日:1990年5月)

主訴:奥歯の強い動揺とブラッシング時の歯肉出血。うまく咬めない

現病歴:2ヶ月前より右上臼歯部が歯肉に急性症状が発症し,歯が動揺し噛めなくなってしまったため当院に来院した。

歯科既往歴:患者は8年前頃に下顎4前歯を動揺(歯周病)のため他院にて抜歯,33~43の6歯のブリッジが装着されていた。2,3年前より臼歯部の時々歯肉が腫脹とブラッシング時の出血があった。他院での急性 症状の治療のみであった。

全身的既往歴:非喫煙者。そのほか特記事項なし

性格:几帳面。器用

顔貌:丸顔(短顔)Facial type:Brachy

口腔内所見

口腔内状態は,歯肉全体に強い発赤・腫脹があり口臭も存在した。全体的に炎症の割にプラークの量は少なかった。動揺度においては,全体的に存在し特に上顎臼歯部に強く存在した。14,24には,激しいフレイアウトを起こし,コンタクトポイントが消失して咬合平面の低下が存在した。犬歯関係はAngle II-Tendencyであった。歯列においては,上顎中切歯に翼状捻転が存在し楔状欠損があり,下顎4前歯が欠損しており,犬歯支台のブリッジが装着されていた。34は歯列から頬側捻転していた。臼歯部にはやや咬耗が認められた。カリエス傾向は少なく健全歯・生活歯が多く存在した(図1a)。

PPD平均4.9 mm(144点)1-3 mm 37(25.7%)4-5 mm 55(38.2%)6 mm≦52(36.1%)BOP(+)率89(61.8%)PISA 2223.3 mm2 PESA 3074 mm2 PCR 61.5%(図1b)。

図1a

初診時の口腔内写真(1990年6月)

図1b

初診時の歯周組織検査(1990年6月)

咬合圧

個体差を示唆するため測定されるが,通常,測定歯は上顎6番で行うが今回は歯牙動揺が著しいため上顎5番にて測定した。15では43 kg,25では55 kgと高く測定された。

エックス線所見

全体的に歯槽骨頂像が不明瞭で骨レベルに著しい乱れが認められた。歯肉緣下歯石が多く認められた。主訴部位の14,24には,根尖まで達する重度の垂直整骨吸収が認められた。また上顎臼歯部においては,16,17,26に強い根分岐部病変が認められた。17,27においては,ルートトランクの長い歯根形態が認められた。下顎には32,31,41,42は欠損しており,33,43を支台とした不適的なブリッジが装着され,歯根膜腔の拡大を呈していた(図1c)。

図1c

初診時のエックス線写真(1990年6月)

診断

広汎型慢性歯周炎(ステージIV,グレードC)+2次性咬合性外傷.

治療方針

本症例の治療方針は,以下の4点を中心に構成した。

1.力が関与した歯周炎であり,とくに上顎臼歯部に重度歯周組織破壊が存在する。

2.多数の上顎臼歯部に動揺が認められ(咬合支持の低下),下顎前歯部欠損もあることから,咬合崩壊過程(すれ違い咬合)にある。

3.個体差としてBrachy facial pattern(短顔型)であり,Angle II- tendencyの犬歯関係を有する。

4.過去の歯科治療歴およびライフステージを踏まえ,患者は天然歯保存を強く希望している。

治療計画

歯周基本治療:炎症性因子除去,外傷性因子除去,当座の生活維持

再評価(1回目)

歯周外科治療:歯周環境の整備・郭清(Debridement)

再評価(2回目)

口腔機能回復処置

咬合再構成:動揺度改善,固定範囲の決定,咬合様式,咬合高径(Stability)

再評価(3回目)

S P T:炎症性の再発防止,生活維持(Longevity)

治療経過

1. 歯周基本治療・1990年6月~1991年2月

初診時の歯周検査では,PCR61.5%。ポケットプロービングデプスはPPD 4-5 mm38.2%。6 mm≦36.1%。BOP61.8%。PISA2223.3 mm2PESA 3074.4 mm2と高値であった。犬歯関係はAngle II,動揺度は多数歯に認められた。全身疾患がないことを確認した後,現状を説明し治療方針への同意を得た。まずTBI(Tooth Brushing Instruction)を複数回実施し,14・24は保存不可能と診断して抜歯した。抜歯後は即時義歯を装着し,生活への支障を最小限にとどめた。その後,スケーリングおよび麻酔下でのルートプレーニングを行い,同時に全顎的な咬合調整によって外傷性因子の除去を開始した(図2a)。また,患者の自覚と健康意識を高めるため,プラークコントロールの徹底,口腔内の改善点の共有を重視して進めた。急性症状の発現時には抗生剤(ケフラール)および鎮痛剤(ボルタレン)を適宜投与した。歯周基本治療時の再評価では,PPD 4-5 mm15.2%。6 mm≦3.0%。BOP%。PISA189.3 mm2PESA1455.7 mm2に改善した(図2b)。

図2a

歯周基本治療時の口腔内写真

図2b

歯周基本治療終了時の歯周組織検査

2. 歯周外科治療・1991年3月~12月

歯周環境整備を目標とした歯周外科治療は,上顎において長期安定させるため,FOP(Pocket-elimination)を実施した。前歯部13から23においてはAPF(Apically positioned flap),左右の臼歯部における垂直性骨吸収においては歯の保存目的としたルートリセクションを含むAPFを選択し保存を計った。特に16における根分岐部病変の対応としては,歯根形態から頰側2根を残す,26における根分岐部病変の対応は口蓋根を残すトライセクションを行った。17においては治療不可能から抜歯を選択した(図3)。下顎においては,ハードなルートプレーニングのみで対応した。

図3

歯周外科時の口腔内写真

3. 口腔機能回復処置(咬合再構成)・1991年6月~1993年4月

下顎においては,前歯部の不適合なブリッジを除去し,34,33と43,44を支台とした32~42ポンティックのブリッジにて対応した。上顎においては,プロビジョナルレストレーション(PR)の破折を繰り返した。そのため,咬合安定のための咬合高径・咬合平面を設定し,またアンテリアガイダンスを犬歯の近心を設定しPRの調整,経過を診た(図4, 5a)。16の動揺度においてはPeriotest数値が26→12と正常値に安定した。動揺の軽減と歯列の保全を図りながら,当初前歯部は健全歯であったため介入は躊躇っていたが,PRをフルクロスアーチにした経過から動揺度の改善・咬合平面など咬合の改善が求められたので,口腔機能回復処置へと移行した(図6a, 6b)。歯周検査では,PPD 4-5 mm 0.8%,6 mm≦0%,BOP 2.4% PCR 11.9%,PISA 15.2 mm2 PESA 747.7 mm2でありS P Tへ移行した(図6c)。エックス線所見においては,硬化した歯槽骨頂と全体的に平坦化し分岐部病変の減少が認められまた歯根周囲には歯根膜腔の拡大や歯槽硬線の肥厚など認められず,また根尖病巣も確認されず安定した良好なエックス線像が確認された(図6d)。特に治療効果を求められた上顎臼歯部の歯周基本治療時から口腔機能回復処置までの経過を口腔内写真の4枚とエックス線写真で示す(図6e)。

図4

咬合構成

a 犬歯誘導の設定(近心-type):犬歯PRの舌側にCR充填にて犬歯誘導を遠心typeから近心typeに設定した

b 固定範囲の決定(Full-cross-arch):PRの固定範囲は,片側的なものから全顎的に範囲が拡げ力による破折・動揺は安定した。

図5

咬合平面平衡検査・設定

a 咬合平面平衡の診査(BBO分析)

b 咬合平面の設定:前後左右平衡性,咬合高径

図6a

口腔機能回復処置後の口腔内写真(1993年4月:歯周基本治療開始から3年後,SPT開始時46歳)。

図6b

口腔機能回復処置:Crown-Brigde(MB+CC/3unit)+key&keyway(13.23-distal)にて対応した。咀嚼,咬合においてなるべく左右差を少なくする。咬合面を狭く,ガイドは斜路に施した。

図6c

口腔機能回復処置後の歯周組織検査

図6d

口腔機能回復処置後のエックス線写真

図6e

上顎臼歯部の基本治療から口腔機能治療時治療経過:(4口腔内写真+エックス線写真)

4. SPT・1993年5月~2023年8月

メインテナンス(SPT)へ移行。初期は3~4ヶ月ごとの来院,その後は基本として6ヶ月毎のリコール・チェックを基本に継続した。リコール・チェックにおいては,生活近況,全身的疾患,口腔内診査においては歯周病診査の他,歯・根面カリエス・破折の有無そして咬合因子としては側方運動,臼歯部金属冠咬合面の金属疲労,フレミタス動揺度のチェックを行なった。当初はブラキシズム防止・ブリッジの保護のためオクルーザルスプリントを装着した。術後10年間はR. Cはほぼ規則的来院であり,口腔内は安定し,エックス線所見においても良好な状況であった(図7)。R. C来院が家庭の事情もあり不規則時期は電話にて状況を確認したが来院時にポケットの上昇や急性炎症が存在したためFMDを行なった。装着後約31年後の2022年12月に16の脱離のため,Key&Keywayを含む14~16部の再製にて対応した(図8a)。

図7

術後10年時の口腔内写真とエックス線写真:(2003年7月)

図8a

術後31年時の口腔内写真(SPT31年77歳):咬合圧:R52 kg,L56 kg 舌圧:(2回)42.7,43.7 kg。現在も高い咬合力である。

16.15.14+KEY部を再製(2022年12月),16のセメントWash-outによる再製

78歳になった現在は,2ヶ月に一度の定期検診を受けている。咬合圧・舌圧の測定,咀嚼能力の維持にも注力し,現在,33年経過しているが歯周検査では,PPD 4~5 mmが9.5%,6 mm以上が1.6%,BOPは11.1%,PCR13.1%,PISAは157.7 mm2,PESA 1151.6 mm2であった(図8b, 8c)。エックス線所見においては,全体的には歯槽骨頂部の硬化像や平坦化などの安定しているエックス線像は確認できる。やや16周囲において,歯肉退縮に伴う根露出による水平的歯槽骨吸収と長期間における力の影響を感じる骨梁の緻密化が認められた。歯槽骨頂の硬化像や根尖病変は存在せず,安定像を呈している。プラークコントロールは良好,急性症状も少なく,咬合も安定して経過は良好である。SPT移行時の天然歯を保持している。

図8b

術後32年時の歯周組織検査

図8c

術後32年時のエックス線写真

考察

初診時からの考察

歯周組織に重度の崩壊が存在する歯周疾患の治療計画立案に際して考慮しなければならない事は,主訴の把握の他に初診来院時は病気の初診では無い事を意識し,全身疾患・生活習慣・年齢など意識して発症の諸原因を診断しなければならない。本症例では,患者の主訴は歯を残したいとのことである。しかし,口腔内では臼歯部に強い動揺度・咬合平面の乱れ・フレアーアウトが存在していた。歯槽骨吸収状況においては,根分岐部病変を含む重度の垂直性吸収形態が多く,水平性吸収形態が少ない骨レベルの不調和が存在した。歯周疾患の進行状況の割に,全体的にプラークの付着が少なく上顎臼歯部・前歯部には歯の表面にオーバーブラッシングによる楔状欠損すら見受けられた。そして,ライフステージは43歳である。このことから,通常の歯周疾患に力の影響が加わった症例であり,臼歯部の咬合支持が脆弱であるため包括的歯周治療効果の長期安定をあげることが難しいと診断できた。このように,上顎臼歯部に骨吸収を生じさせた原因を考察すると,まず,8年ぐらい前に下顎前歯を動揺の原因を診断せず症状のみで抜歯し,その後の補綴物が低位であったため,アンテリアルガイダンスを失い,顎位がかわり異常咬合習癖や偏咀嚼が起こり,臼歯部に過重な負担がかかり歯周疾患をより進行させてしまったと推測された。そしてこのままだと臼歯部崩壊咬合に陥り,またすれ違い咬合に移行してしまう恐れがあると診断した。

歯周基本治療からの考察

患者の口腔内検査結果を説明後,患者に主訴を尊重し,まず14,24に暫間固定を施し,脆弱だが咀嚼可能にした。TBIは当院オリジナル歯ブラシのプラークアタッカーJuniorによる最初はバス法,歯間ブラシ(プロスペックM)にて1日3回20分を目安に行い,3日から1週間間隔に指導,全顎に軽いScalingで対応したがストロークもすぐに理解し,炎症は段々と改善し患者の器用さと患者の口腔への意識の存在を確信した。約1ヶ月後,14,24の存在が不可能であることを告げ同意してもらい抜歯し,即時義歯でなるべく生活維持をした。装飾因子でもある下顎前歯の不適合なブリッジを除去しPRに置き換え,処置の明確な箇所の除去を行い歯周基本治療を進めた。期待視しながら口腔内の状況を患者とともに鏡等で自身の口腔内の状況を確認し合い順調に遂行しながら,進めた。そして同時に病状の現況への気付きとこれからの長くなる治療やメインテナンスの必要性など自覚を促すように努力した。1990年7月から9月まで1歯に5分程度に麻酔下での歯肉縁下ScalingとRoot planingを施した。11月の再評価ではPCRは12.5%で歯肉の急性症状を認め,出血はまだ存在するが著しく減少した。16,17の出血・動揺,12~22の動揺が気になり,特に17においては患者自身も気にしていた。TBIはプラークアタッカーJuniorによる頰側はスクラッビング法,舌側はバス法,歯間ブラシ(プロスペックM)併用にて指導を行った。1991年2月の再評価ではPCRは11%とスコアは安定している。16,17,26,27ではBOPは全面に存在しPPDは17では5~7 mm,16では近心に7 mm,遠心に5 mm,26では近心口蓋側に7 mm,根分岐部病変と動揺度は存在していた8)。上記部位に対して,再度Root planingを行なったが,これ以上の炎症性因子除去は無理と判断した。また,外傷性因子除去は,咬合調整・暫間固定やスプリントを含む生活指導のみでは完全な除去は出来なく,動揺度は12~22に1度,16,17に2度残存したため,スタビィリティの必要性である。

歯周外科治療からの考察

再評価の結果より,患者の期待と歯列保全のためには大臼歯の保存は不可欠であるため,上顎大臼歯部に長期安定する歯周環境整備を目標とした歯周外科治療FOPを選択した。左右の臼歯部における垂直性骨吸収においては歯の保存目的としたルートリセクションを含むAPFを選択し保存を計った。16における分岐部病変の対応としては,ルートトランクスが短く,頰側歯槽骨の幅は十分存在していた。頬側根の分岐幅が広く歯根形態から頰側2根を保存可能と判断,26における根分岐部病変の対応は口蓋根を残すトライセクションを行った6-8)。27においてはAPFのみの対応と判断した。17の根分岐部病変への対応は,ルートトランクスが長く,根形態が劣形で尚且つ歯周基本治療の経過から治療不可能と診断し抜歯を選択した。前歯部13から23においても本症例は動揺度も存在していることから,長期安定を求めてAPFを施した。下顎においては,根分岐部病変はまだ存在しておらず,垂直性骨吸収も少なく,骨レベルの不調和も少ないため,ハードなRoot planingのみで対応した。外科処置後のPRは前歯が健全歯であるため,最初は13~15,16,23~25,26,27の片側のみの最小限範囲にとどめた。術後のPCRは10%前後でPPDも安定しており歯周組織は良好であるため確実なディブライドメントは出来たと考えた。多少の知覚過敏症状が生じたため,フッ素塗布にて対応した。しかし,上顎の動揺度を僅かに増加してしまった。更なる力の対応・咬合の安定のための治療が必要と診断した9)。本症例における歯周外科における効果は,長期における歯周組織の安定の獲得以外に,患者自身への気付きを与え自助,自立への影響は大きいと考察される10-12)

重度の歯周疾患症例における咬合の長期安定には,力のコントロールが必須である。特に本症例は初診時から力の影響が関わっていた。力への対策は,残存支持骨量に対する外傷性因子を与えない咬合構成と咀嚼を含む力の受圧される患者側因子がある。力の影響する因子としては,咬合平面・咬合高径・被蓋量,前方・側方滑走運動,パラファンクション(偏咀嚼癖・TCHなどを含む),歯列の形状,歯の形態・移動および個体差(Facial pattern)などが挙げられるが,評価としては,動揺度と歯槽骨の安定・全身的所見などで評価している。本症例では,残存した臼歯部は脆弱であり,その上での咬合構成の改善である。慎重な治療計画を要求された。被蓋は通常よりやや深く量は多い。側方運動においては犬歯関係がAngle II-Tendencyであったため上顎犬歯の遠心方向への運動になり,下顎位の不安定と臼歯部への側方力の影響が強くなっていると考察された。また,咬合平面に関しては,臼歯部が下がって乱れており,咬合高径は臼歯のフレアーアウト,前歯の欠損,動揺,下顎の不適合なブリッジから低下が考察された。歯周外科治療後の固定範囲は,前歯が健全歯のため,片側に分かれた犬歯以降の範囲でPRにての固定を選択した。PRにおいてはPRの磨耗・破壊や臼歯の動揺度などの改善が得られなかった。また,咬合平面,咬合高径低下の乱れのため,上顎においては,B.B.O理論に基づく前後左右に調和した咬合平面を設定し,側方運動は近心方向への犬歯誘導を設定した。固定範囲は全顎に施し咬合高径は少し挙上した13-16)。下顎には,34から44のブリッジを装着し,33,43の外傷性因子の除去と側方運動確保した。偏咀嚼,力の分散を考慮して左右の歯列長は16の保存により差が少なくなるため有効であると想定した。各歯に関しては,歯根破折の予防として最小限切削の根管形成,解剖・歯軸を配慮したS.E.Cシステム根管治療方式を選択した。また咬合面幅は歯根形態に調和させ狭く設定した。セファログラムの歯科臨床的活用することにより固体差の力の予測や咬合分析に役立つと考えられる。特にFacial patternには,全身の骨格に個体差が存在するように顎顔面にも個体差が存在する。そしてこれをFacial patternには,Dolicofacial pattern(長顔形)Mesiofacial pattern(中顔形)Brachyfacial pattern(短顔形)の3パターンが存在しする。Dolicofacial patternは,垂直性方向への成長が強く咬合力が弱い。Brachyfacial patternは水平方向への成長が強く咬合力が強いとされる。Facial patternの分析評価は症例の力の大要を把握する上で極めて有効な分析方法のうちの一つである。Facial patternはRickettsの10 factor summary analysisの中①Facial axis ②Facial depth ③Mandibular plane ④Lower facial height ⑤Mandibular arcの5項目から総合的評価し判断される。Brachyfacial patternとDolicofacial patternにおいては,傾向(tendency)を持つ形態の存在をふくみそれぞれ全体の約12.5%ほどであり少ない(図9a)。本症例の個体差ではBrachyfacial pattern-tendencyであり,咬合力の強い少ない存在であると考察された17,18)(図9b)。当院では以前は顔貌の形や咬合圧計などで力の予測対応で対応していたが1991年頃から 個体差の診断にFacial patternを導入している。口腔内の歯周組織,特に動揺度の状態も安定し,咬合関係も良好であり,患者の口腔健康への意欲も挙がってきた事も確認した。約3年間の治療期間を経て,口腔機能回復処置に移行した。

口腔機能回復治療においては,左右の咬合接触バランス,咬合高径,咬合平面の設定,咬合力の分散などを徹底的に調整した。顎位の維持確立・臼歯部に咬合支持の取れる様に左右のEqualizerをしっかり付与した(図9c)。側方運動の設定はPRの情報を確実に再現した。上顎犬歯にM-typeの犬歯誘導を付与し,下顎位の安定と臼歯の咬合負担を軽減した。また16保存可能になったため,歯列長の左右差も少なくなり,バランスの良い咬合接触部位が付与することにより,偏咀嚼予防が出来た。上顎にはフルクロスアーチスプリント・下顎には34~44のブリッジを装着した。下顎のブリッジにおいては,支台歯に34,44を増加し,33,43の咬合性外傷を軽減と咬合形式付与に役立てた。また特に13・23部には2次疾患の対応として不安な臼歯部の対策としてKey&Keywayを設けた構造とした。補綴物形態は口腔衛生性を高めるため,Contourエマージェンプロファイル,トラディショナルカウンターを慎重に付与した歯周補綴物にて修復し,エンブレジャーは後方につれ調和しながら口腔衛生的に広く設定した。大臼歯はルート・トリセクション後で脆弱であること,患者の個体の力が強い事・咀嚼効率を考慮して咬合面には,やや狭く展開角は広くし運動路は斜路に付与し対応した。幾度となるPRの破折や調整,再評価により細かな指導により患者の口腔への意識(自助,自立)が向上したと考察された。

図9a

Facial patternによる個体差の特徴

図9b

セファログラム分析による25年間経過の変化:個体差はBrachyfacial patternを示している。

時系列に分析の値は25年間変化が少なく安定している。

図9c

30年間の下顎位の変化:側方歯群の咬合の安定していることがわかる

SPTからの考察

本症例は重度の歯周疾患患者である。SPTでの長期安定が得られたのは,患者のプラークコントロールが第一であるが,長期にわたる歯の移動防止,根面カリエスの予防,咬合の安定などが重要であると考えられる5,19-21)。また同時に疾患の性格から生活環境の変化や全身的疾患などの変化も把握しなければならないと考えている(図10)。本症例では患者のプラークコントロールはR.C時は常に10%と良好であった22,23)。偏咀嚼癖もなく全体で咀嚼する様に心掛けていた。当初はブラキシズム防止・ブリッジの保護のためオクルーザルスプリントを4~5年間装着したがスプリントの疲労や金属疲労が少ないことから中止とした。S P T移行後約10年間は歯肉退縮も無く歯周組織状態は良好で,咬合状態は安定していた。これは,最小のポケットを目的とした歯周外科治療FOPの効果により良好なプラークコントロールによるものと考察した。R.C時毎に,生活近況,全身的疾患,歯・根面カリエス・破折の有無そして咬合因子としては側方運動,臼歯部金属冠咬合面の金属疲労,フレミタス動揺度のチェックを行なった。途中家庭内の事情により,来院が途絶えた時期があったが電話により状況を核にしていた。再来院時に1度臼歯部の歯周炎の再発を発覚しF.M.Dにて対応した。根面カリエス予防には,徹底したサホライド(AgF(OH)2F)塗布を励行した効果により根面カリエスの存在は無かった24)。咬合において,咬合接触部位や側方運動路がほとんど変化しておらず前歯部の咬合位も変化が無いことで長期にわたる下顎位が安定したと考察された。同時に咬合治療効果だけではなく患者自身の咀嚼を含む食生活や生活環境・習癖がない事の結果であると考察した。

図10

現在の患者の食生活調査

結論

臼歯部が脆弱な咬合不安定な重度歯周炎患者であったが,包括的歯周治療によって口腔内全体の歯周組織の安定を図った。また患者は,43歳女性であり人生の中で口腔機能の維持管理が重要となるライフステージでもあった。生活・口腔管理する事により,1歯も喪失する事なく30年間経過している12)。これは,初診時における患者の個体差・個人差に配慮し現象の特徴を抑えた精密な診査・診断と繊細な治療から始まる。そして,この成果は,長期にわたる治療経過の中で患者の口腔への意識が向上し,生活環境上においての健康管理が維持できたため長期安定を得られた。又,歯科衛生士,歯科技工士を含めたS D M(Shared decision making)の概念に基づく診療システムが今後も鍵となる。現在,患者も初診より34年経過し77歳となり現在2ヶ月毎のSPT来院をしている(図11)。これからも医患共同により口腔機能を維持させ患者の生活の質(QOL)の向上に寄与し,軟着陸(健康寿命の延伸)に貢献したい。

最後に,近年では歯周炎(特に重度)の治療介入に関して修復技術,時期を含め多種多様であるが,概念臨床は加えて「ひとに対するMinimal Intervention:M.I」が重要であり,介入時の「予防歯科概念」が不可欠である。

1―人間有在な診療の実戦,

2―創造的思考な予防,

3―百人百色の治療計画,

4―長期のわたる信頼関係

4つの平野歯科予防歯科理念である。当院ではこの理念を大事にチーム診療をしている。つまり,医療者は患者の管理者ではなく,ともに歩む存在である。患者は「ひと」であり,歯科治療の際には患者さんの人生をベースとするため,年齢や個体差,リスクファクター,進行度(組織の破壊度),生活環境,個体差,個人差を考慮した治療が必要である。臨床的な歯周治療計画の立案は人生100年の時代を迎えた今,歯科医師は,「病気だけでは無く,病人を診る」必要性があり,患者の人生に寄り添い,繋げるような歯科医療が必要である1)

図11

34年間の患者と歯科医院との関わり

本報告の要旨は,第67回春季日本歯周病学会学術大会(2025年5月24日,演題「広汎型重度歯周炎の包括的歯周治療+brachy-facial typeの30年経過症例から歯周治療の大局を探る」)において発表した。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
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