日本歯周病学会会誌
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歯頸部知覚過敏症の臨床病理学的研究
辺縁性歯周炎罹患歯について
篠田 登
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1986 年 28 巻 1 号 p. 101-124

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抄録

口腔内に露出した薄層の白亜質は, 日常行っているブラッシングや, スケーリング, ルートプレーニング等の歯周治療によって容易に除去される。従って, 露出象牙質は, 酸, 温度変化および擦過に対して過敏になることは明白である。
本研究の目的は, 種々な刺激, 例えば冷水, 温水および擦過刺激と歯頸部知覚過敏症の程度との関係を知ることであり, さらに, これらの歯牙の歯髄における病変を検索することにある。
本研究に供せられた歯牙は, 高度歯周疾患と診断された19~60歳の患者から得られたものである。患者は, 歯周疾患と歯頸部知覚過敏症以外, 何等, 全身的疾患の既応, 現症のないものに限定した。
最初に, 歯牙沈着物の量, 歯齦退縮の程度, 歯牙実質欠損の大きさについて詳細な臨床診査を行い, 冷水, 温水, 擦過刺激に対する知覚過敏の程度を記録し, 抜歯後, 病理所見検索用試料とした。得られた臨床所見は以下の如くである。
1. 冷水刺激のみに反応したグループでは, 全例, 軽度知覚過敏を訴えたが, 歯石沈着量が多くなるにつれて, 過敏の程度は悪化する傾向が認められた。
2. 冷水, 温水および擦過の3つの刺激に対して反応したグループでは, 歯齦退縮量が増大するにつれて, 強度知覚過敏が多数認められた。
3. 108歯中, 76歯が, 歯頸部磨耗を示し, そのほとんどの症例では, 中等度ないし強度知覚過敏を訴えていた。本研究で得られた歯髄内病変は, (1) 予成象牙質の消失, (2) 造歯細胞の消失, (3) 網様萎縮, (4) 象牙質瘤形成, (5) 石灰沈着, (6) 充血, (7) 出血, (8) 膿瘍形成, (9) 歯髄壊疽, (10) 円 形細胞浸潤, (11) 補 綴象牙質の形成である。
1. 冷水単一刺激, 冷水および温水刺激に知覚過敏を訴えた症例では, 修復性病変, すなわち, 補綴象牙質の新生, 添加が多数認められた。
2. 冷水および温水刺激に過敏を示した症例では, 網様萎縮や充血が明らかに増加する傾向を示した。
3. 全刺激に対して過敏を示した症例では, 臨床症状が軽度の場合, 充血が歯髄内の主な病変であった。これに対して, 重度知覚過敏症では, 円形細胞浸潤や膿瘍形成のような破壊的病変が増加する傾向が認められた。
刺激因子が増え臨床症状が増悪するにつれて, 歯髄内病変が悪化し複雑になることが示唆された。

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