物理教育
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熱膨張のモデルと線形振動
鯖田 秀樹
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1976 年 24 巻 2 号 p. 65-67

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抄録

固体の熱膨張現象を微視的立場から説明するためには,結晶をつくっている分子の間に非調和相互作用を考えざるを得ない.分子間ポテンシャルとして変位について三次の関数を考える.統計力学的に,このポテンシャルでは線熱膨張係数が一定であることが結論されている.膨張しているときに各分子はどんな運動状態にあるかを知るために,最短波長の格子振動のモードを力学的にしらべてみる.その結果,このモードの振動では分子は平衡位置のまわりに線形振動をしていることがわかる.温度が高くなり平均的のびがある臨界値をこえると,数式上では分子間距離が無限大になることが示される.この臨界値はポテンシャル関数のなかのバネ係数できまり,固体の種類によって融解点が異なることに対応している.最短波長のモードは最大の膨張を示すと考えられるので,このモードでしらべたことは膨張のメカニズムを解明する重要な手ががりとなる.本文で扱われているポテンシャルでは線形振動論で十分であり,楕円関数が必要となる非線形振動は出てこない.その意味でも初等力学の教材となっている.

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© 1976 日本物理教育学会
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