高等学校の物理実験レポートに書かれた感想のテキストデータを分析することで,実験によって生徒が何を学んでいるかを調べた。その結果,物理実験には(a)物理法則の実感,(b)実験の技術・精度,(c)客観的な視点, (d)考察の面白さ・楽しさ,(e)実験による驚き・感動,など多様な学びがあることが明らかになった。教師がこの分析を行うことは,生徒実験を行う意義や重要性を再認識するために有効であるばかりでなく,実験教材や授業の評価や改善に繋がることが期待される。さらに,この分析手法が確立していくことで観点別評価やルーブリックを作成する際の評価軸の決定にも役立つと考えられる。
蛍光灯の LED の常夜灯を点灯している状態で,蛍光灯と連動している壁のスイッチを切った場合,スイッチとジョイントまでのケープルがコンデンサーの働きをして,常夜灯がかすかに光り続ける事が分かった。
筆者が「ターザンジャンプで最大到達距離を与える投射角度の解析的導出」において指摘した『最適投射角』の考え方を新たに『最適投射条件』とし,ターザンジャンプ以外に対しても適用できることを見出した。具体的には,軌道が存在せず地面より高い場所から斜方投射を行う場合と,円弧に限らない一般の曲線軌道(接線の傾きが正で下に凸)に沿って運動した後に軌道から飛び出して放物運動を行う場合に対して,この『最適投射条件』が適用可能であることを示した。速度成分を陽に用いる計算方法の優位性についても併せて紹介する。
ミクロの世界は量子力学に支配されますが,そこでは我々の直感に反する現象も多く見られます。本稿では量子の「区別がつかない」という性質が導く新しい気体の相(ボース・アインシュタイン凝縮,“BEC”)を説明します。さらに実験室でボース・アインシュタイン凝縮を実現するために必須なレーザー冷却,さらに冷却原子を用いた冷却分子の生成とその応用を紹介します。
クリスマス前の 24 日間(アドベント期間)に,物理の実験を毎日一つすることができる Web サイト「Physik im Advent」バーチャルアドベントカレンダーを紹介する。ドイツのゲッティンゲン大学の Arnulf Quadt 教授を中心とするチームが制作している。ゲーム形式で,参加者は実験結果を報告することで得点し,高得点の人は旅行などの景品がもらえる。11〜18 歳の子供・青年向けであるが,大人も楽しめる。2022 年は7 万人の参加登録者(49%は女性),Web サイトの総アクセス数は 250 万回以上で,非常に人気を誇る。過去の実験動画と解説動画は Web サイトで公開されており,教育目的の使用が認められている。
国内の科学オリンピック推進事業に長年関わってきて,それぞれの科学オリンピックが独自に企画実施する部分と,様々な科学オリンピックがもつ共通の課題,手法,目的を共有する仕組みも必要ではないかという議論から「日本科学オリンピック委員会」が設立された。それらの経験から,今世紀に入っての理数教育に関する世界の動向を踏まえて,科学オリンピックの活動と共に,社会の科学技術リテラシーの涵養とを連携させて人材育成をしていくような教育全体の仕組みの必要性を論じたい。
物理オリンピック日本委員会(JPhO)は,「第1 チャレンジ」・「第2 チャレンジ」からなる「物理チャレンジ」により国際的な物理オリンピックの代表候補者を選び,合宿研修と「チャレンジファイナル」を経て代表を決定している。代表選手は世界規模の「国際物理オリンピック(IPhO)」と「アジア物理オリンピック(APhO)」に派遣され,好成績を残している。対象は高校生以下であるが,出題範囲は日本の教科書をやや超えており,JPhO は研修によりこのギャップを埋めている。
第 53 回国際物理オリンピック日本大会は,81 の国と地域から 392 名の選手と 251 名の引率役員の参加を得て,2023 年 7 月に東京で開催された。その準備から実施に至る顛末を組織委員会幹事兼実行委員長の視点から記述する。
日本では,1990 年に国際数学オリンピック(IMO)北京大会に初参加し,かつ,2003 年と2023 年の2 回,関係者の尽力により IMO を主催し,様々な成果を挙げてきた。その一方,IMO の利点と同時に改善点も浮かびあがってきている。才能教育と IMO の在り方について本稿で私見を述べる。
「夢・化学-21」委員会と日本化学会は,高校生以下の化学コンテストである「化学グランプリ」を開催している。また,「化学グランプリ」受験者の内,高校 2 年生〜中学 3 年生の中から「国際化学オリンピック」日本代表候補生徒を選び,講習会を行った後,日本代表生徒 4 名を選出し派遣している。これらの一連の事業における具体的な内容と,ここ 10 年以上運営に携わってみてわかった高等学校の現状と,新旧を含めた指導要領における「化学」の教育における問題と諸課題について,一部委員長の私見を含め簡単に述べていく。
人類は現在,人口の爆発的増加による環境破壊や食糧危機,さらに新型コロナウイルスなどによる感染症の脅威にさらされています。国際生物学オリンピック(IBO)は現在 80 か国が加盟し,さらにその国数は増えようとしています。それは,今後の人類の存続を脅かす諸問題の解決には生物学教育をより高度化することが世界各国の共通認識だからです。ここでは,日本が IBO 事業に参加してきた 20 年間に私が感じた日本の IBO 活動の問題点について述べます。
国際地理オリンピックは,IGU(国際地理学連合)のもとで開催され,日本では学術会議 IGU 分科会が国際地理オリンピック日本委員会となり,実行委員会が運営し日本地理学会が主催する。国際地理オリンピックの試験は,マルチメディア,記述,そしてフィールドワークの 3 つから成っており,英語で出題され,受験者自身が英語で解答することが特徴である。実行委員には,大学だけでなく多くの高等学校,中学校教員も関わっており,日本の地理教育にも教育内容などに影響を与えている。
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