財政研究
Online ISSN : 2436-3421
研究論文
イギリス地方自治体へのPFIの導入とその意味
杉浦 勉
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2005 年 1 巻 p. 280-293

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抄録

 財政の自立性が限定されているイギリス地方自治体にとって,民間事業者を活用できるPFI(Private Finance Initiative)は非常に魅力的な公共サービス調達手段である。財政資金の投入が必要であった社会資本整備を,資本調達を含めて民間事業者に任せ,これを管理統制することを通じて,地方自治体は公共サービスを提供する責任を国民に対して果たすことができるからである。

 その一方で,PFIのこうした特質は,これを導入する地方自治体の在り方を変革していくことになった。PFIを活用しようとすれば,地方自治体は従来のような公共サービスを提供する主体と言うよりは,民間事業者に公共サービスを提供させるための条件を整備する統括者といった存在にならなければならない。また,PFI事業で民間事業者を統括するためには,地方自治体が中央省庁の下部組織ではなく,地域住民の要求を実現する機関として直接に民間事業者と対峙できる立場になる必要がある。このようにPFIは社会資本整備における改革であると同時に,地方自治体の役割を改革していく側面をもっているのである。

 しかし,PFIが地方自治体に導入されていく過程は,良質な公共サービスを提供するというPFIの規範的目的が実現していったことを必ずしも意味したのではなかった。事態はむしろ,PFIに対して強力な批判がなされているのである。PFIが期待通りの成果を上げていないにもかかわらず,その導入に合わせて地方自治体の位置づけが変革されていく。これが地方自治体におけるPFIの実情であり,また,今後におけるPFIの活用に向けた取組みの出発点である。

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© 2005 日本財政学会
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