一般政府や中央政府の政策スタンスを評価する目的で利用されることの多い構造的財政収支は,地域ごとの成長率・人口構成等の多様化と分権の進展が今後見込まれる地方財政においても,その利用が拡大する可能性がある。本稿の目的は,構造的財政収支の作成に不可欠で,国・地方問わず注目される税収弾性値を都道府県別に推計・比較することである。具体的には,道府県税のうち税収ウェイトの高い個人住民税と地方法人2税(法人住民税・法人事業税)について都道府県別弾性値を推計するとともに,地方消費税についても先験的に1と仮定することはせず,全都道府県共通の推定値を得た。推定に際しては,マクロの課税ベースが分配面で相互に制約を受けることに注意を払った簡便かつ標準的な手法として,OECD等によって現在も国際的に利用されている枠組みを日本の地方政府に適用できるように拡張した。税目ごとの推計結果に基づいて税収全体の弾性値を求めると,都道府県による若干の差異はあるものの,平柊値は1.08(2006年以前)および0.95(2007年以降)となり,一般政府および中央政府を対象とする既存研究の税収弾性値に近い値を得ている。