2008 年 4 巻 p. 268-286
本稿では,アメリカ民間医療・年金保険制度に関連する1990年代以降の租税政策について,被用者(個人)の所得階層に着目して検討している。アメリカでは,伝統的に政府部門の社会保障債務(医療・年金保険等)の規模が小さいが,これは民間部門が医療・年金債務のシフトを受容してきたからでもある。近年,民間部門内部では従来の確定給付型に確定拠出型を加えた雇用主から,被用者・個人への医療・年金債務のシフトが起こっている。政府はこれら一連のシフトを租税政策により促進し,社会保障財政の逼迫を回避する方向性を追求してきた。しかし,近年の租税政策は主として高所得層の租税負担の相対的軽減につながり,低所得層にその便益が及びにくくなっている。そのため,低所得層に還付可能な税額控除を付与することで改革への社会的な支持の調達を模索しているが,執行上の問題や財源上の問題等も交錯し,混沌とした状況にある。