2012 年 8 巻 p. 176-198
現在,カナダの消費課税システムは,1991年に連邦付加価値税である財・サービス税(GST)が導入されて以来,小売売上税である州売上税(PST),付加価値税であるケベック売上税(QST),協調売上税(HST)が併存しているが,このような複雑な制度がなぜ生じたのかについては十分に明らかにされてこなかった。本稿では,州レベルの付加価値税でありながら高い課税自主権を保持するQSTの導入がいかにして可能であったのかを,各主体の利害関係を中心に政治過程・経済過程両面の分析を通じて明らかにする。本稿の分析によって,QSTは,対米輸出促進というケベック州と連邦政府の利害の一致と,連邦政府による戦略的妥協の産物であったことが示され,地方消費課税における税制調和と課税自主権のトレードオフの1つの解決形態としてのQSTの性格が示唆される。