抄録
海底湧水(Submarine Groundwater Discharge:SGD)は海底部を介した地下水の流出と定義され、地球上の水・物質循環において重要な役割を果たしていると考えられている。特に、地下水は地表水よりも高濃度の溶存成分を含む傾向にあることから、沿岸域の栄養塩(窒素、リン、ケイ素)や炭素の循環、沿岸生態系に及ぼす影響が指摘されている。沿岸生態系の中でも特に、海草や海藻類の群落である藻場は、陸域の森林にも匹敵する炭素固定能を有するとして、近年「ブルーカーボン」と呼ばれ、地球温暖化や海洋酸性化の緩和機能が注目されている。また、藻場は沿岸域の海底に形成されるため、SGD の影響を直接的に受けやすいと考えられる。一方で、その分布や生育環境に及ぼすSGD の影響は十分明らかにされていない。そのため本研究では、藻場が分布する瀬戸内海の島嶼沿岸域を対象に、ラドン(222Rn)および溶存態ケイ素(DSi)収支に基づきSGD の空間分布を評価することを目的とした。