抄録
夏季を中心として山地の斜面より冷風を吹き出す場所を,風穴と呼ぶ。風穴の活用は,主に明治時代以降,蚕種の保存施設や果実の冷蔵庫として活用されていた。近年は電気冷蔵庫普及によって,使用事例は少なくなった。しかし,現代でも,観光スポットとしての活用や,災害等による停電の際も継続して研究用の蚕種を冷蔵保存できるよう,風穴をバックアップ冷蔵庫として活用している事例もある。
また,風穴は上記のような人間による利活用以外にも生態系維持の面で重要な役割を果たしている.風穴に面した空間の気温や地温は低温に維持されており,低温環境に適応した動植物の隔離分布地として機能している(Růžička et al. 2012).
風穴は,周辺の気温等をはじめとする気候条件によって温度が左右される可能性があり,その場合は温暖化等の影響による風穴温度変化が生じることも考えられる。そこで,複数の風穴にて観測を行い,周辺気候条件と風穴温度の関係を整理することが,まず重要であると考えられる。
筆者は四国地方の温暖な気候条件下における風穴温度観測を継続しているが,2020 年度に新潟県津南町で風穴観測を行う機会があり観測を実施,幅広い気候条件下での風穴観測事例の拡充を行った。