抄録
尿中に出現するタンパク成分の大部分は, 血漿中のそれに由来することは, 1951年にRigasらにより報告され, 現在約20種以上の免疫学的に異なるタンパクが尿中より同定されている. ただし腎糸球体はタンパク漏出に対し選択的に働くため尿中タンパクの分子量と血漿中のそれとの関係が追求されてきた.
この問題は, 1959年から同62年頃にかけ次々と明らかにされ, 現在尿中タンパクの分子量は血漿中のものよりはるかに小さいものもあることが証明されている. 一方, 腎糸球体選択透過性の問題は尿タンパクと腎疾患との関係をより密接にし, Selectivity slopeθ値として, 臨床上に応用されている. ただしselectivity測定の基本である生体内タンパク, 特に血漿中のタンパクの分子量別クリアランスには尿中低分子タンパクの存在を考慮していないため批判も多い.
本論文は尿中のタンパク質を免疫電気泳動法で分析し尿中に出現するタンパクのうち, Ig-GとAlbが特に正常人尿, 患者尿のいずれにも出現することを認めた. つぎに尿中のIg-GとAlbの分子量を分子量別分画法, 超遠心分析法で測定し, これらが血漿中のそれよりはるかに低分子化していることを明らかにすると同時に, 低分子化していないIg-GやAlbもある程度は尿中に漏出することを認めた. 一方, この低分子化したタンパクは尿路中で尿に含まれる還元物質, 酵素, 細菌, 細胞成分などの作用で産生されたものでなく, 血漿中にあるものがそのまま尿中に漏出したことを示した. 以上のような事実をもとにし, 尿中の低分子化したIg-Gとそうでないものの比から, 従来のselectivity測定に準ずる, 腎機能検査法の一つとして使いうるかどうかを検討した. すなわち, ネフローゼ症候群や慢性糸球体腎炎患者につき, selectivity slopeθ値を求めると共に, 同時に尿中低分子lg-Gとそうでないものの比を求め, 両者を比較し相関が成立することを認めた. この方法は透析膜を使用し, 操作法も簡単なので, 日常の臨床検査室で充分利用できると考えた. ただし, より多くの臨床例の蓄積, 病理組織学的所見との対比, 治療効果や予後などとの関係につき将来検討を必要とする項目も多い.