水稲において出芽日以降の気温と日長で出穂期を予測する堀江・中川の発育予測モデル (以下,標準モデル) は,栽培が播種から始まる乾田直播水稲の出穂期を精度よく予測できない可能性がある.そこで,「ふさこがね」,「コシヒカリ」,「あきだわら」の発育データから,新たに乾田直播水稲向けの出芽揃期,出穂期予測モデルを開発することを目的とした.両モデルのパラメータ決定には出芽揃期が観測されているデータを用い,出芽揃期の観測値がないデータは出穂期予測モデルのテストデータとして用いた.まず,播種から出芽揃期までの発育相について,構造が異なるいくつかのDVR式の出芽揃期予測精度を比較した結果,3品種に共通して低温でも発育が進むロジスティック式の予測精度が高かった.次に,出穂期予測では,各DVR式による予測出芽揃期で分割するモデルや,吸水過程を想定した積算気温100または120℃・日到達日を起点とするモデルが,播種から出穂期まで標準モデルのみで予測するモデルよりも予測精度が高いことが示された.これらのモデルで決定したパラメータを用い,テストデータについて出穂期予測精度を比較した結果,「コシヒカリ」では予測出芽揃期で分割するモデル,「ふさこがね」,「あきだわら」では吸水過程を想定したモデルによって予測精度が大きく向上した.ただし,3品種ともに出芽揃期実測値からの出穂期予測精度が最も高かったことから,乾田直播栽培において出穂期の予測精度をより高めるためには,出芽揃期の予測精度向上が重要であることが示唆された.