抄録
ICR系の妊娠マウスに6mgのcyproterone acetate (CA) を妊娠14日から20日まで皮下注射し, 妊娠20日に帝王切開で仔マウスを取り出し, 雄仔マウスは去勢後他の母親に哺乳させた. これら去勢された雌性化雄マウスを出生当日から10日間ゴマ油のみを皮下注射する群 (第1群), 20μgのエストラジオール-17β (ED) を皮下注射する群 (第2群), そして50μgのEDを皮下注射する群 (第3群) に分けた. 各群の動物は60日令で殺し, 通常の方法でH-E染色して検鏡した.
組織学的観察の結果, 全ての雌性化雄マウスに腔形成が認められたが, 尿道と腔の分離は不完全であった. 第1群の動物の腔上皮は萎縮的な重層立方ないし扁平上皮であった. ところがED処理を行なった第2, 3群では腔上皮の増殖肥厚が見られ, 50μgのED処理を行なった第3群では15匹中2匹の腔前部から会陰の全域にわたって腔上皮が角質化していた. この第3群の残りの大部分の動物では, 腔全域にわたって上皮の著しい肥厚が見られ, 角質化は膣中部から会陰にかけての上皮に認められた. CAの母体投与で得られた雌性化雄マウスの腔は大部分が尿生殖洞由来と考えられているので, 本実験で雌性化雄マウスの膣中・後部で上皮に角質化が見られたことは尿生殖洞由来の細胞がエストロゲン非依存の腔上皮の角質化に関与する可能性が強いと推論された.