順天堂医学
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原著
胎生期における性管の分化異常と旁子宮頸神経節との関連について
石井 廣重
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1982 年 28 巻 4 号 p. 499-507

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抄録

ICR系妊娠マウスにテストステロンプロピオネート (TP), またはジエチルスチルベステロール (DES) を連続または1回皮下注射し, 雌雄新生仔を生後第1日目に剖検して内性器の形態的変化およびこれらと神経線維連絡を持つと考えられる神経節, 雌では旁子宮頸神経節, 雄ではそれに対応する神経節の神経細胞数を調べ比較した. 無処置の雌雄マウスを第1群とし, TP1mgを胎生9日目から16日目まで投与したものを第2群とした. 後者の雌の内性器には, 本来の雌性性管系に加えてウォルフ管 (WD) 由来の精管や精嚢を含む雄性性管系が出生後も存続し, 旁子宮頸神経節の神経細胞数は対照群 (第1群) の雌より有意に多かった. しかしTP2.5mgを妊娠12日目に1回投与した第3群の雌では, 内性器は形態的に第2群の動物と差を認めない程度に雄性化したにもかかわらず, 旁子宮頸神経節の神経細胞数には正常の雌 (第1群) との間に有意差は認められなかった. 一方, DES4μgを胎生9日目から16日目まで投与した第4群の雄の内性器には本来の雄性性管系に加えて, ミュラー管 (MD) 由来の子宮を含む雌性性管系が出生後も存続した. この群の雄新生仔では対照群の雌に見られる旁子宮頸神経節とほぼ同じレベルに認められる神経節の神経細胞数が第1群の雄より有意に多く, その数は雄と雌の神経節中の神経細胞の数の総和よりも多かった. また第4群のDESを連続投与された雌でも内性器には対照の第1群の雌と比べて形態学的変化は認められなかったが, 旁子宮頸神経節の神経細胞数は第1群の雌より有意に多かった. しかし, DES32μgを妊娠12日目に1回投与した第5群の雄では, 第4群と同様内性器の形態における雌性化が認められるにもかかわらず神経節中の神経細胞数は, 対照群との間に有意差は認められなかった. したがって本実験の結果は, 旁子宮頸神経節を含む性管の自律神経支配に関与する神経細胞数は性管の分化異常によって誘起された標的器官数の多寡によって変化することが判明した. また第4群の雌の結果よりDESが神経細胞へ直接作用する可能性も考えられ, これらの神経節の神経細胞数が雌雄間で遺伝的にあらかじめ決められているものでないことが示された. 更に妊娠12日目の性ホルモンの1回投与実験結果は胎生期における標的器管形成時期と神経細胞の神経連絡形成時期との間にずれがある可能性を暗示し, 性器, 神経系の発生, 発達過程の考察に1つの示唆を与えるものである.

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© 1982 順天堂医学会
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