1982 年 28 巻 4 号 p. 508-514
雌ラットの偽妊娠を維持するには, 持続的なプロラクチン (PRL) の分泌を必要とする. PRLの分泌調節機序に関して, 内側底部視床下部 (MBH) や正中隆起がPRL抑制因子であるドーパミンの産生ニューロンの働きを介して, 主として抑制的な役割を果していると一般的に考えられる. 本研究では, MBHよりさらに前方に位置する部位からMBHに入る神経性入力がPRL分泌に関与すること, そしてその起源を明らかにしようと試みた. その結果, 視索前野 (POA) のうちPOA底部の脳室周囲の吻側部を側つけると, 有効に偽妊娠が中絶することが判明した. これに対してPOA背側部やPOA外側部, POAよりさらに前方のBrocaの対角帯およびその核や側坐核につけた傷では, 偽妊娠の中絶が起こらなかった. 前交連のレベルでPOAの上縁から前方へL型Halaszナイフを用いて, 水平に神経線維群を切断して背側からPOAに入る神経性入力を除去しても, 偽妊娠の中絶は起こらなかった. したがってMBHのPRL分泌抑制機序の他に偽妊娠のPRLの分泌調節機構において, POA前部脳室周囲部がPRL分泌促進に重要な役割を果していることがわかった. 偽妊娠中絶に有効なPOAの傷をもつラットにカテコールアミン合成阻害剤のα-メチルチロジンを投与すると偽妊娠が維持されたことは, POA前部からの神経性影響はMBHにあるドーパミンニューロンの活動を抑制するように働く可能性を示唆している. さらに同様なPOAの傷を有するラットに5-ヒドロオキシトリプトファンを投与すると偽妊娠中絶が回避されることから, PIFであるドーパミンの放出抑制機序にセロトニンニューロン系が関与している可能性も考えられる.