抄録
ヒトの妊孕現象に伴う子宮の生理的変化の機序を解明するために, 子宮組織におけるハイドロキシプロリン量, コラーゲンの可溶化およびプロリン水酸化酵素活性の変動について検討した. またヒトの子宮組織由来培養線維芽細胞の増殖に対する性ステロイドホルモンの影響についても検討し, 以下の成績をえた.
1. 子宮頸部のハイドロキシプロリン量は, 妊娠中, 分娩直後および産褥期 (4日目) ともに非妊時より少なく, とくに分娩直後では非妊時の29.9%にまで減少したが, 産褥期では分娩直後の165.0%に増加した. 一方体部においても, 分娩直後では非妊時の51.9%に減少した.
2. 子宮頸部におけるペプシン可溶性分画は, 分娩直後では非妊時の2.6倍に増加したが, 産褥期では分娩直後の61.8%に減少した. 一方体部では, 可溶化における変動は認められなかった.
3. 子宮頸部のプロリン水酸化酵素活性は, 妊娠中および分娩直後では非妊時に比して軽度の上昇であったが, 産褥期では有意に上昇した. 一方体部においては妊娠経過に伴って上昇し, 分娩直後では非妊時に比して有意な上昇を認めた.
4. 子宮頸部および体部由来の培養線維芽細胞の増殖に対して, 17β-estradiolおよびestriol添加群では, それぞれの濃度差により促進と抑制の二面性が認められた. 一方progesterone添加群では抑制のみがみられた.
以上の成績は, ヒトの子宮におけるコラーゲンが妊娠・分娩に伴って生化学的に著しく変動し, しかも頸部と体部とではその変動パターンが異なることを示したものである. またその変動に対して性ステロイドホルモンが関与していることを示唆している. このことより, コラーゲンの生化学的変動は, 妊孕現象に伴う子宮の生理的変化に際して重要な役割の一部を担っているものと思われる.