抄録
1950年著者によって同定されたミオシンの高反応性SH基・SH1をめぐって, 筋収縮の分子機構研究の歩みのうち, 当教室のスタッフによって進められた重要な研究を紹介した.
まずSH1を含むペプチド, 続いてATPによって内部から露出してくるSH2を含む一次構造が決定され, ミオシンの構造と機能研究の最初の一歩が踏み出された. この両SH基はATPによって接近し, 化学的に両者を架橋すると, ATPを活性中心に閉じ込めることが発見されたので (Yount), 光アフィニティATPアナログを合成して, 光照射によってATP結合サイトに結合させ, その近傍の一次構造を決定した.
次いでビオチン・アビジン法, および電顕写真からの三次元像再構成法で, SH1サイトの二次元・三次元局在が決定された.
筋収縮の分子機構の假説のうち, 頭部の内部構造変化説を実証するため, SH1にラベルしたDNPからの50kDa断片への光架橋を調べた. その結果ミオシンの頭の先の1/3の部分の構造は収縮中も変らず, 20kDa断片を欠いた“small S1”もアクチンとの相互作用が元のS1と変わらないことから, 今後柄の部分の20kDa断片の研究が重要になるであろうことを結論した.