順天堂医学
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原著
自己免疫疾患自然発症系MRL/lprマウスの好中球増多症
リンパ増殖症との関連性について
松本 清司坂本 善郎広瀬 幸子
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1989 年 35 巻 1 号 p. 106-116

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抄録
自己免疫疾患モデル動物の一系であるMRL/lprマウスは, 抗DNA抗体や抗Sm抗体など多彩な自己抗体の産生を伴う全身性エリテマトーデス (SLE) を自然発症する. このマウスにみられる大きな特徴は, このような自己免疫疾患の発症に随伴して, 生後2-3カ月頃より全身に著明なリンパ節腫脹が現れることである. このリンパ増殖症の発現は常染色体劣性のlpr遺伝子の働きによるもので, 増殖する細胞は, CD4 (L3T4) 分子とCD8 (Ly-2) 分子のいずれをも持たないユニークなTリンパ球 (lpr細胞) であることが明らかとなっている. 今回, われわれはこのMRL/lprマウスに出現する骨髄リンパ系の異常を調べる目的で, このマウス系の末梢血・骨髄, および各リンパ組織の加齢変化を検討した. その結果, MRL/lprマウスの末梢血中では, 好中球および単球が2カ月齢より増加しはじめ, 加齢に伴いいちじるしく増加することを発見した. このうち好中球の増加は骨髄中にもいちじるしく, 末梢好中球の増加は, 骨髄における増殖亢進を反映するものと考えられた. また, 6カ月齢では骨髄の形質細胞が増加した. 一方, 各臓器におけるlpr細胞の出現時期を調べたところ, この細胞は2カ月齢ごろにまずリンパ節や脾臓に出現し, その2カ月後に, 胸腺や血中・肺などに現れることがわかった. しかし, 骨髄にはいずれの時期にもこの細胞は出現しなかった. このように骨髄の好中球増殖と, リンパ増殖症とは異なる組織に発症する病態ではあるが, 時期的に同時に起こる現象であることから, 両病態の発症機構に何らかの液性因子を介した関連性のあることがうかがわれた. 1つの可能性はMRL/lprマウスの末梢血や骨髄における好中球増多に, 増殖するリンパ球由来の顆粒球増殖因子が関与していることであり, この点を検討するために, 穎粒球増殖因子の1つであるG-CSFを, BALB/cとMRL/nマウスに投与してみた. その結果, いずれの系統でも好中球の増殖がみられ, その程度は6カ月齢のMRL/lprマウスに相当するものであった. しかし, これらのマウスにはMRL/lprマウスにみられるような単球と形質細胞の増加, ならびに高免疫グロブリン血症は出現しなかった. これらの結果をもとに, MRL/lprマウスの顆粒球増多症に関連する可能性のある, 種々のサイトカインについて考按を加えた.
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© 1989 順天堂医学会
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