抄録
成体におけるシナプスの可塑性を解析するため, エストロゲン受容体に富む中隔外側部の神経網のシナプスを雌雄の成体ラットにおいて観察した. この部位の樹状突起シナプスは, 棘シナプスの方が幹シナプスよりも多かった. 生後9週 13週 28週において観察したところ, 棘シナプスは雌雄ともに一度増加した後再び減少した. 雌の幹シナプスは13週で減少しそのレベルを保ち, 28週においては雄の方が雌よりも幹シナプスが多いという結果が得られた. エストロゲンを生後9週から4週間連続投与したところ, 雌の幹シナプスのみが増加した. また, 生後12週で去勢した動物にエストロゲンを16週間連続投与した実験では, 雄の棘シナプスが去勢のみの群よりもエストロゲン投与群で増加した. 雌では樹状突起シナプスの総数が, 無処理群よりも卵巣摘出後エストロゲンを投与した群で増加した. 以上の結果から, 中隔外側部のシナプスは正常な成体において可塑性に富むこと, エストロゲンがこの部位のシナプスを増加させる作用を持つことが明らかになった.