順天堂医学
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原著
トランスジェニックマウスの胸腺におけるユニークな導入Thy-1.1遺伝子の発現様式
淡路 正則斎藤 十一野沢 慎吾阿部 雅明西村 裕之
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1991 年 37 巻 2 号 p. 208-217

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抄録

マウスの胸腺細胞・T細胞のマーカー抗原であるThy-1分子は, 正常では胸腺細胞と末梢T細胞の全てに発現されている. このThy-1抗原をcodeする遺伝子にはThy-1.1とThy-1.2という2つのallotypeが存在するが, 今回われわれはThy-1.2マウスの受精卵にThy-1.1遺伝子をtransgeneし, その発現様式を調べてみた. その結果, 内在性Thy-1 (Thy-1.2) 分子は胸腺細胞と末梢T細胞の両者に発現していたが, 導入Thy-1.1遺伝子の発現は, 胸腺細胞には認められたが末梢T細胞には認められなかった. これは導入したThy-1.1遺伝子DNAが, 末梢T細胞での発現を規定するcis-actingな調節配列を含まないため, 発現調節因子との相互作用が起こらないためと考えられた. 一方, 胸腺細胞における導入Thy-1.1遺伝子の発現を詳細に検討した結果, 胸腺細胞の大半を占める未分化なCD3-/T cell receptor (TCR) -細胞においては, 導入したThy-1.1遺伝子の発現はほぼ全てにみられたが, 分化したTCR+ CD4+ またはCD8+ single positive (SP) 胸腺細胞には, Thy-1.1を表現するものと表現しないものの2つのグループが認められた. このことから, すでに分化していると考えられていたSP胸腺細胞の中にも, 末梢T細胞へと移行する際に胸腺内で導入されたThy-1.1遺伝子が消失していくという, もう一つの分化過程の存在する可能性が示唆された. 一方, double negative (DN) 胸腺細胞においては, 全てのCD3+/TCR+細胞はThy-1.1-であった. これらの結果から, CD3+ DN細胞の成熟過程は, CD3+ SP細胞とは異なっていると考えられた. 以上の結果から, 今回われわれが生産したThy-1.1トランスジェニックマウスは, これまで知られていなかったCD3+胸腺細胞の最終成熟過程における細胞内の, 諸現象の解析に有用なモデルであると考えられた.

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© 1991 順天堂医学会
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