順天堂医学
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原著
実験的膵炎: エチオニン誘発犬膵炎における線維化の病理組織学的・電顕的・免疫組織学的検討
山村 彰彦
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1993 年 39 巻 3 号 p. 356-366

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抄録

慢性膵炎は病理組織学的に, 膵実質の脱落・萎縮および線維化に特徴づけられる. 従来, 慢性膵炎のモデル系を樹立することを目的として, マウスやラットでの実験が行われてきたが, これら小動物では膵線維症は形成されても, すみやかに消失するために線維症形成の動態を十分に検討することができなかった. 今回われわれは, 犬にDL-エチオニンを投与量や投与期間を変えて経口的に与え, 膵実質の脱落・萎縮後に出現する線維化について組織学的・電顕的ならびに免疫組織化学的に検討した. 体重kg当たり130mgのエチオニンを7日間, 連日投与すると終了後3日より線維芽細胞の増殖が始まり, 7日には線維芽細胞の増殖と共に膠原線維の増生が見られた. 10mg 50mg 100mgを週1回の割合で10週および20週投与すると, 投与終了後1週には膵に実質の萎縮や脱落と共に比較的広汎に線維化が見られた. また, 75mgを週1回で15週投与すると終了後2週には膵に実質の高度の脱落や広汎な線維化が見られた. 膵障害後の新鮮な線維化にはコラーゲンIII型およびフィブロネクチン, やや陳旧化した部にはコラーゲン1型の増生が関与していた. しかし, 今回エチオニンで犬に誘発した線維症も全て時間の経過とともに減少消失し, 小膵管の集合巣の周囲に限局した軽度の線維化を残すのみであった. エチオニンによる腺房細胞の障害は主として細胞内小器官の障害によるものである. 従って, 高度の線維症を伴うヒトの慢性膵炎では, 恐らくこのような腺房細胞障害に酵素の逸脱による障害が加わり, 不可逆的線維症が誘発されるものと考えられた.

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© 1993 順天堂医学会
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