順天堂医学
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特集 肝疾患の治療―最近の進歩
肝疾患治療の今後の展望
黒田 博之
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1994 年 40 巻 1 号 p. 37-42

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抄録

最近の肝臓病治療の進歩は目覚ましく, 安静療法の時代から対象療法, さらに原因療法へと進んできている. 今後さらにQuolity of Lifeを求めた治療法が開発されていくものと思われる. 現在進行中の治療法として以下にあげる. 1) 肝炎ウイルスに対してはインターフェロンを用いた抗ウイルス療法とワクチン療法である. 突然変異株への対処が今後も検討される. 2) 肝癌の根治療法はまだ遠い将来であり, 予防薬・制癌剤・腫瘍抗体・免疫療法などの開発は進むが, しばらくは局所療法と手術であろう. 発癌遺伝子・癌抑制遺伝子・サイトカインを用いた遺伝子療法はスタートしようとしている. 3) 門脈圧亢進症に対して経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術 (TIPS) が最近行われ始めている. 腹水にたいして腹水濃縮再注入・利尿剤・Le-Veenシャントが, 静脈瘤にはプロプラナロールが用いられ, 硬化療法は待機的にも行われている. 4) 黄疸では透析膜の開発によるビリルビン吸着や抗オピウム剤による痒みの治療が進められている. 5) 代謝性疾患は遺伝子治療と移植を頼りにしている. 6) 移植は社会的同意が何時得られるかである. 7) 人工臓器は機能を限定して開発され, 全体的な肝臓は夢とも言える. 9) アルコール性肝障害は最後まで残る肝臓病かもしれない. 近い将来, 実行されるものもあれば, 技術的・学問的レベルでさらに先送りになるものもあり, 治療法の進歩には社会的同意も必要である. 学問としての展望に多くの興味をもたれることは, それに反比例して患者さんには近い将来での治療が難しいことになる.

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© 1994 順天堂医学会
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