順天堂医学
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原著
血管内皮細胞における塩素チャネルによるATP誘発性カルシウムイオン上昇の調節
柚本 和彦
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1994 年 40 巻 1 号 p. 43-51

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抄録

5-9代継代のヒト大動脈由来培養内皮細胞を用いATP誘発性細胞内Caイオン ([Ca2++] i) 上昇に対する塩素チャネルの関与を, fura-2を用いた [Ca2++] iの蛍光測定により検討した. 10μM ATPを投与すると [Ca2++] iは細胞内ストアからの放出による急速な上昇 (初期相) に続いて, 緩やかに減少する持続した高値 (持続相) を呈した. 投与前の [Ca2++] iは60±7nM (mean±S. D. ), 投与直後のピーク値は309±30nM, 5分後の持続相値は170±29nMであった (n=17). 持続相は細胞外液のCaの除去で消失したため, 細胞外からのCaイオンの流入によると考えられた. 細胞外Ca存在下でも, 持続相中に細胞外液の塩素イオン濃度を146mMから20mMに減少させると (低Cl溶液), [Ca2++] iは速やかに減少した (n=8). また低Cl溶液中で10μM ATPを投与すると, [Ca2++] iは投与直後のピークでは不変であったが, 持続相を示すことなく速やかに減少した (前65±6nM n. s., 投与直後308±40nM n. s., 5分後85±10nM p<0.01n=8). さらに低Cl溶液中ではATP反復投与時の2回目以降の [Ca2++] iの上昇はいちじるしく減少した. 塩素チャネルブロッカーであるniflumica cid 300μMの100μM ATPとの同時投与は, ピーク値に影響を与えず, 持続相のみを著明に抑制した (5分後63±2nM p<0.01n=8). 以上より塩素電流はATP誘発性 [Ca2++] iの上昇に際し, 過分極によって細胞外からのCaイオン流入による持続相を維持すると結論された.

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© 1994 順天堂医学会
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