順天堂医学
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特集 癌再発とターミナルケア
難治性血液疾患のパリエイティブケア
入江 誠治
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1996 年 42 巻 3 号 p. 290-296

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抄録

血液・腫瘍科において悪性腫瘍の再発は今や必ずしも死を意味するものではない. 例えば抗癌剤感受性の悪性リンパ腫再発に対して, 大量化学放射線療法と骨髄あるいは末梢血幹細胞移植併用の有効性が確認され, また再発期急性白血病も同種骨髄移植により治癒の可能性が残されている. しかし治癒の見込みがないと判断される場合には治療のゴールを〈QOLを保ちながらの苦痛の緩和〉と定め, それに適した治療を早期より開始すべきである. わが国では, 癌終末期患者を対象としたケアに対して, 従来ターミナルケアという言葉が用いられ, ともすれば軽視される傾向にあった. しかし, 近年国際的には癌の終末期に限定せず, 癌の治癒が困難と判断された時期から始まるケアのあり方として, 緩和ケア (palliative care) という言葉が汎用されるようになった. 緩和ケアとは, 患者の身体面だけでなく, 心理・社会的な面にも配慮して, 人生のもつとも重大な危機的時期, つまり死への過程を家族とともに乗り越えられるように援助することである. その基本は (1) 正直であること, (2) 情報の許容限界を示唆する患者からのシグナルに注意を払うこと, (3) 病状, 治療目的および予想される副作用, 合併症について十分に説明すること, そして (4) 現実に則した生きる希望を奪わないことである. 従って治癒の見込みのない疾患を有する患者に対する病名告知および病状説明も, 緩和ケアの一環として捉えるべきであろう. 効果的な緩和ケアを提供するためには医療チーム内の, そして患者およびその家族との良好なコミュニケーションと, それに基づく信頼関係が不可欠である. 同時に医療スタッフの教育, QOLチェックリストによる緩和ケアの有効性の評価, および緩和ケアのcosteffectivenessの評価も重要である.

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© 1996 順天堂医学会
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