1996 年 42 巻 3 号 p. 309-317
「癌は慢性疾患である」という新たな発想が取り入れられ, 定着しつつある. 癌患者を取り扱う場合には慢性疾患としての認識の上に立ち, 病期に応じた治療法の確立が大切であり, 患者の社会生活全般を考慮したQOLの向上を図る必要がある. とくに, 現在のように, 癌集学的治療法で十分な延命がもたらされるようになってくると, 延命期間中のQOLの向上・保持が重要であり, 合併症状に対する治療が何より重視される. Palliative therapyの目標とするものは (1) 生存期間の延長, (2) 症状の改善 (症状コントロール), (3) QOLの向上である. 症状コントロールのためのpalliative surgeryはQOLの改善を図ることに効用度の高い治療手段である. 手術は侵壊になりえるが, 症状を除くことに大きな期待ができる. しかし, palliative therapyにおいては肉体的. 精神的苦痛の訴えのある末期癌患者が対象である. 従って, 治療の実施に当たってはこのような侵壊的な処置が重篤な状態にある患者に与える利益と不利益について十分に検討する必要がある. 手術を行う際の適応の条件は (1) 症状の軽減がみられる, (2) 一般状態が良好で, 手術の侵襲に耐えられる, (3) 患者, 家族の希望があり, 理解・同意のえられる, (4) 症状がコントロールされ, 3カ月以上の延命が期待できる, (5) QOLが改善され, 高められる, (6) 手術侵壊が軽度で安全である, に要約される.