抄録
糖尿病網膜症 (網膜症) は糖尿病に特有な細小血管症の一つで, わが国の後天性失明原因の第一位であり, その対策は急務である. 網膜症は単純から増殖前, さらに増殖性へと進行し, 主要な病態は, 網膜毛細血管壁の異常に血管の閉塞が加わり, 網膜の虚血によって新生血管が出現することである. 網膜症は高血糖による非酵素的蛋白糖化, ポリオール代謝経路の充進, 細胞内酸化還元状態の変化, プロテインキナーゼC活性化, 酸化的ストレス亢進などが, 複雑に絡み合った状態で発症・進展すると考えられている. 中でも非酵素的蛋白糖化の後期終末産物 (AGE) が, 血管内皮増殖因子を介して, 病態の進展に大きな役割を果たしていることが解ってきた. AGEの抑制には糖尿病発症後早期からの高血糖の改善とその維持が必要であり, 持続性の厳重な血糖の是正が網膜症の発症・進展の抑制をもたらすことを, インスリン依存型糖尿病を対象とした調査 (DCCT) が裏付けた. また急速な血糖是正後に網膜症の悪化が見られることも示された. 血糖是正で網膜症の改善が期待できるのは単純網膜症までであり, 進行した網膜症では, 光凝固治療や硝子体手術が適応となる.
DCCTの結果から, わが国に多い非インスリン依存型糖尿病患者にも厳重な血糖是正が望ましい. しかし, 糖尿病歴が不明な患者や長期間コントロールが不良な患者では, 血糖の急激な是正後の網膜症の悪化で回復困難な高度障害に陥らないよう, 眼科医と内科医の綿密な連携が特に必要である.