抄録
目的: Lipoprotein (a) [Lp (a) ] は心筋梗塞の独立した危険因子であると同時に線溶系を抑制することが推測されており, 心筋梗塞の自然経過や血栓溶解療法の治療成績に影響する可能性がある. 本研究では急性期に血栓溶解療法等の再潅流療法が施行できなかった心筋梗塞症例においてLp (a) が心筋梗塞責任冠動脈病変の狭窄度に及ぼす影響を検討した.
対象および方法: 急性期に再潅流療法を施行できなかった心筋梗塞症例で, 梗塞責任冠動脈が推定でき発症から冠動脈造影検査までの期間が8日以上180日以内であった129例を対象とした. 梗塞責任冠動脈病変狭窄度 (以下残存狭窄度) をAHA分類に従って表記し, さらにThrombolysis in Myocardial Infarction criteria (TIMI分類) を評価した. また有意狭窄は75%以上として病変枝数を表した. 早朝空腹時採血を行い, Lp (a) ・空腹時血糖 (FBS) ・total cholesterol (TC). high density lipoprotein cholesterol (HDL. C) ・triglyceride (TG) ・ヘモグロビンA1c (HbAlc) を測定した.
結果: 梗塞責任冠動脈病変をLp (a) 30mg/dl未満のLp (a) 低値群, 30mg/dl以上のLp (a) 高値群で比較すると, 男性症例ではLp (a) 高値群で残存狭窄度とTIMI分類が高度であった (P<0.05). 男性症例で非DMかつTC低値症例 (TC<220mg/dl) に限定して同様の比較をすると, Lp (a) 高値群で病変枝数・残存狭窄度・TIMI分類ともに高度であった. 男性症例において, 責任冠動脈病変を年齢・糖尿病の有無・高血圧症の有無・高コレステロール血症の有無. 高中性脂肪血症の有無・高Lp (a) 血症の有無で比べると, 高Lp (a) 血症の有無のみが残存狭窄度とTIMI分類に影響した (P<0.05).
結論: 高コレステロール血症の有無・糖尿病の有無は残存狭窄度に影響を与えなかったが, 高Lp (a) 血症は残存狭窄度に影響を与えた. その現象は, 男性・非DM・正常TC値症例の場合より明らかとなった.