抄録
インスリン様成長因子Insulin like growth factor (IGF) -Iは, 正常な細胞・組織の発達, 維持および種々の腫瘍細胞に重要な成長因子である. しかし, われわれはIGF-Iが肺腺癌細胞A549においてDNA合成および細胞増殖抑制効果を示したため, その機序を細胞内シグナルを中心に評価した. IGF-1を一定以上の濃度でA549細胞に添加したところ, そのDNA合成が抑制され, これはIGF-1受容体アンタゴニストによって完全に阻止され, またIGF-Iと同時に細胞内シグナル阻害因子であるPD98059 (p44/42MAPKkinaseinhibitor) およびLY294002 (PI 3'-kinase inhibitor) の投与でも部分的に阻止した. そこで, これらのシグナルで重要なp44/42MAPKとAkt/PKBのリン酸化の有無を評価した. IGF-IはMAPKを一過性に活性化させたが, Akt/PKBは持続的にリン酸化し, さらにcell cycle抑制因子p21Cip/wAF1発現も誘導した. IGF-Iは肺癌細胞A549において, Akt/PKBの持続的な活性化とp21Cip/wAF1の発現により, 複雑に細胞増殖抑制効果を発揮している可能性がある.