近年鼻副鼻腔領域の手術に内視鏡が広く応用され内視鏡下鼻内手術が普及している. しかし, 内視鏡画像による狭い視野での手術は重大な副損傷の可能性を否定しきれない. とくに篩骨蜂巣 (前後) ならびに蝶形骨洞の手術操作においては眼窩内および頭蓋内合併症に十分注意をはらう必要がある. 一方, 眼窩内側壁・蝶形骨洞前壁および後壁の形状は個人差が大きく多様である事が知られている.
今回われわれはCT画像上にて上記副鼻腔手術時に参考となるよう, 近傍構造に関する計測を行った. 計測に使用したCT画像は, 軸位断画像で, 内眼角と外耳道口を含む面より14mm頭側の平面とした. その理由は, 篩骨蜂巣・眼窩内側壁・内側直筋・視神経, さらに蝶形骨洞前壁および後壁が最も明瞭に描出されると考えたからである. これらの解剖学上重要な部位間の距離の計測を行った. 対象は387例とし, 骨破壊病変のない男性184例・女性203例である. 計測部位は, 1) 画像上の左右の鼻部先端部から左右の視神経管漏斗部を結んだラインまでの距離. 2) 画像上の左右の鼻部先端部から蝶形骨洞後壁までの距離. また, 左右の眼球後端と鼻中隔を水平に結んだライン上で, 3) 眼球後端の視神経付着部から鼻中隔までの距離. 4) 篩骨洞眼窩側壁から内側直筋内側までの距離. 5) 鼻中隔から内側直筋内側までの距離. 6) 内側直筋内側と視神経内側までの距離. 以上, 6ヵ所である. これらの結果をもとに, 男女とも年齢別に統計処理を行った. その結果, 男性の平均値では, 1) 51.3mm±5.0mm 2) 76.6mm±7.9mm 3) 23.7mm±2.2mm 4) 2.1mm±0.9mm 5) 15.7mm±2.0mm 6) 8.0mm±1.2mm, 女性の平均値では, 1) 48.3mm±4.7mm 2) 70.3mm±7.2mm 3) 22.1mm±1.9mm 4) 1.6mm±0.7mm 5) 14.2mm±1.8mm 6) 7.9mm±1.3mmであった. 年代別の測定値は, 各測定部位により差がみられた. 男女ともに, 10歳代, 20歳代で各計測距離が最も短くなる傾向にあった. そして, 鼻内手術時には, 今回得られた計測値を念頭におきながら, 鼻内操作を行うことにより, 合併症を未然に防ぐ一助となると考えた.
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