抄録
近年は臓器別の医療体系の考え方が普及してきており, 耳鼻咽喉科は頸部から上方で眼球・頚椎・頭蓋内を除いた領域, つまり頭頸部を取り扱うことと容認されてきた. 従来からの耳・鼻・口腔・咽頭・喉頭といった局所粘膜疾患や嗅覚・聴覚・平衡覚・味覚などの感覚器障害のみならず, 顔面や頸部の腫瘍・癌を幅広く取り扱うことが一般的となってきた. そこで本年の7月から標榜科名を『耳鼻咽喉・頭頸科』として, さらなる臨床の充実を図っている. 当科において力を注いでいる新しい医療技術・治療法に関して, 耳・鼻・咽喉頭・頭頸部のそれぞれの領域から話題を提供する.
耳科学では, これまで原因不明とされていた感音性難聴の病因として遺伝子変異が明らかとなった. 代表的な難聴遺伝子の解析結果を紹介し, 将来の根本的治療の開発のための病態マウスモデルの機能解析を手がけている. また従来の補聴器で十分な音響増幅効果を得ることができない症例を対象として, 新しい埋め込み型補聴器の開発と臨床応用を電気通信大学と進めている.
鼻科学では, 花粉症・アレルギー性鼻炎に対して多様なニーズに応える治療を提供すべく, 軽症-中等症にはアルゴンプラズマ凝固装置やレーザーを使った日帰り・短期入院手術, 重症・難治症例には新しい手術的治療法として下鼻甲介粘膜減量と選択的後鼻神経切断術を実施している. さらに, あらゆる良性の鼻・副鼻腔疾患に対して低侵襲な内視鏡的副鼻腔手術を標準的手術として導入・確立している.
咽喉頭科学では, 多彩な原因によって引き起こされるいびきや睡眠時無呼吸を短期入院で解析・診断して, オーダーメイド医療に心がけている. 治療法の一つとして, 日帰り手術も導入している. 喉頭疾患にはビデオ喉頭微細手術を導入している.
頭頸部腫瘍学では, 放射線科・形成外科・癌研頭頸科等と密な連携をとり, 機能を温存した治療戦略を行っている.