順天堂医学
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第16回都民公開講座《現代の病:「うつ」と「もの忘れ」》
うつ病の症状
井原 裕
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2005 年 51 巻 3 号 p. 378-385

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抄録

うつ病には, わかりやすい症状とわかりにくい症状とがある. ほとんどの症状は, わかりやすい. 気が滅入る, 悲しい, あとに引きずる, 決断ができない, 興昧が湧かないなどである. このような症状を呈すると, 「申し訳ない」「生きていても仕方ない」といった厭世的な思いに陥りがちである. また, 眠れない, 食べられない, 夜「その気」になれない, 「月のもの」が不規則になるなどの症状も出やすい. 一方で, わかりにくい症状もある. 頭痛・耳鳴り・めまい・下痢と便秘の繰り返しなどである. うつ病のなかには, これらのような身体の症状だけを呈する場合もあり, 内科疾患と紛らわしい. 感情面での問題が身体症状によってマスクされているタイプの場合, 不快な出来事に対する情緒的な反応を抑制しすぎるため, 鬱積した感情のはけ口がなく, 身体的な症状として出てしまう場合が多い. うつ病の回復は, 焦燥, 憂うつ, 意欲の順に回復していく. 職場不適応によるうつ病の場合, 発病のきっかけとして仕事と本人の個性とのミスマッチがある場合が多い. したがって, 復職前に労務上の配慮が与えられることが望ましい. 自殺は, うつ病の症状としてもっとも警戒すべきものである. 自殺念慮には周期性があり, あとから考えて「なんて馬鹿なことを」と思えるときがかならず来る. そのときまで, 何とか全力で自殺をくい止めることである. うつ病は, 自殺さえなければ, 「死に至る病」ではない. 憂うつ自体は病的なものではなく, 正常な情緒的反応であり, うつ病も, その人の人生にとって重要な意義をもつ場合もある.

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