抄録
目的: TRAIL (tumor necrosis factor-related apoptosis-inducing ligand) はtypeII膜タンパクであり, 正常細胞には有意な障害作用を及ぼさず, 一部の癌細胞に選択的にアポトーシスを誘導することが報告されている. しかし, TRAILが肝癌細胞を障害するか不明である. 一方, インターフェロン (IFN) は肝硬変からの発癌を抑制することが知られる. 本研究では, IFNにより発現増強したT細胞上のTRAILが肝癌細胞障害性を発現するか検討した.
対象および方法: 健常人由来ヒト末梢血T細胞 (PBT) はLymphoprep (NYCOMED) により分離し, 10%FCS添加RPMI1640にて培養した (3.5×106cells/ml). PBTは抗CD3/TCRモノクローナル抗体と共にIFNs (α, β;200∪/ml) を添加して12時間培養を行った後, 洗浄しeffector cellとして用いた. PBT表面に発現したTRAIL量はフローサイトメトリーにて解析した. ヒト肝癌細胞株とIFN刺激PBTの共培養を行い (E/T比5), 癌細胞障害能を検討した.
結果: 分離PBT細胞膜上には有意なTRAIL発現は認めなかった. しかし, IFNα, βにて12-48時間刺激を行うと, 著明なTRAIL発現増強が惹起された. PBTとの12-48時間の共培養ではHepG2細胞からのLDH逸脱は軽微であったが, 抗CD3抗体-IFN処理PBTとの共培養では, LDHは3-4倍に増加した. さらに抗TRAIL抗体 (10μg/ml) を培養液に添加することで, IFN刺激PBTによる肝癌細胞障害は著明に (-70%) 抑制された.
結論: 以上の結果は, IFNはPBT細胞膜上のTRAIL発現増強を介して癌細胞障害性を発現することを示す. IFN療法によりウイルス排除が完遂されない場合でも, 肝硬変から肝発癌が抑制される機序の一端を説明しうる可能性が示唆された.