——人工知能やロボットが予め決められた、事前の設計の範疇を飛び越えて物事を新しく認知し、振る舞うためには何が必要か?残念ながら、私たちはこの問題に対する明確な回答を持ち合わせてはいない。この問いにいつか答えを出すためにも、筆者はそもそも人間がそのように立ち振る舞うためにどんなことをしているのかをまず探求することとした。 心理学や認知科学などにおいてもほとんど知見がない中、筆者は自ら多摩川の河川敷に降り立ち、新しい意味や行動に出会う瞬間を記録し、記述、分析を行った。その結果、「適宜ボケつつ行動する」「日常の経験に根ざした理解」「不測の事態に驚き、面白がる感性」という三つの働きが重要であることが分かった。 さらに、これらの働きを「創発的認知」という一つの概念で捉えた。これは、私たちが新たな意味や振る舞いを生み出すという事態を思わず対峙した所与からのズレ、特異点、奇妙な信号に私たちが絡め取られ、そこから思いもよらなかった新たな世界、意味と行動の生きた構造が立ち上ることとして把握するものである。本稿はこうした捉え方を支える哲学的概念も紹介し、今後の発展に向けた提案、課題とした。