人工市場による社会ネットワーク上の情報伝播が株価に与える影響の分析

抄録

近年，インターネットの普及により，個人投資家が情報収集にオンラインメディアを利用することが増え，これによる投資家の行動が株式市場に与える影響に注目が集まっている．また，ミーム株のような，インターネット上での情報の伝播によって集団が株式市場に参入し，株価が急騰・暴落する現象への関心が高まっている．しかし，モデルを用いてメカニズムの解明を行った研究は少ない．本研究では，人工市場シミュレーションにSIRモデルとネットワークモデルを融合させることにより，「社会ネットワーク上の情報伝播をもとに市場に参入・退場する投資家群」というミーム株のモデル化を行い，その市場に与える影響を分析する．分析の結果，投資家群の形成するネットワークの形状の違いから，参入する投資家の数や市場から退場するまでの時間に差が生じ，市場へのマクロな影響に違いが生まれることがわかった．また，市場へのミクロな影響としては，全体として既存の投資家が利益を得る一方で，投資家群が利益を失う傾向が見られた．さらに，投資家群の利益は，情報の発信源からのネットワーク上の距離によって決まっていることがわかった．