抄録
胚の早期退化を回避する培養系確立を目的に, キュウリの交雑和合な品種間で交配し, その受精直後の胚からの植物誘導を試みた. 受粉後2日 (接合子) から6日 (初期球状胚) の子房を厚さ約1mmの輪切りにして, 子房壁を除き, 胚珠および胎座部分を含む中央部を置床した. この培養方法を胎座切片培養 (placental region disk culture) と呼ぶことにした. 培地はMSを用い, sucrose 10% と寒天0.8%のみを添加した. 置床後20日頃から, 乳白色の胚が, カルス形成の少ない培地接触面におもに出現した. これらの胚を, 1/2MS に sucrose 2%と寒天0.8%を添加した培地に移植すると2~3日で緑色を帯び, shoot・根を分化して plantlet に発育した. 誘導できた23個体のうち, 成熟果の得られた18個体すべてに花粉親の優性形質が現れ, 胚形成の組織学的観察結果とも合せて, 誘導植物が受精卵由来であることが確かめられた. 終始30~60%の低花粉稔性を示した誘導植物は, 1個体が4倍体 (2n=28), 3個体が2倍体 (2n=14) であった. 本方法は, ごく小さな胚を傷つけることなく, 一度の簡単な操作で多数置床することができる. また培地処方も簡便であり Cucumis 属植物における受精直後の胚からの植物誘導に有効な手法となろう.