PLANT MORPHOLOGY
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特集
イネ胚乳の初期発生
大西 孝幸木下 哲
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2010 年 22 巻 1 号 p. 15-22

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抄録

イネの胚乳組織は可食部であり,重要な研究対象である.イネ胚乳の初期発生は,多核体期と細胞分裂期からなり,これらの転換期には細胞化と呼ばれる現象が観察できる.この間のイネの胚乳発生は形態的にも複雑であり,さらに短時間のうちに活発に変化する.このことは,イネ胚乳の初期発生が複雑な分子機構によって制御されていることを予想させる.しかしながら,胚乳発生の機構については,形態的な観察こそ詳細になされているものの,分子遺伝学的な解析はこれまでほとんど明らかにされていない.また,胚乳の初期発生は,種間交雑時に,しばしば発生異常を示し,生殖的隔離の要因となっている.種間交雑時の胚乳発生異常の原因については,ゲノムインプリンティングの関与が示唆されている.ゲノムインプリンティングは,父親と母親由来の遺伝子が識別され,異なる発現レベルを示す現象である.胚乳におけるインプリント遺伝子には,Polycomb Group (PcG) 遺伝子が多く含まれ,シロイヌナズナではこれらの遺伝子産物によって構成されるPolycomb Repressive Complex 2 (PRC2)が胚乳発生に関与していることが分かってきた.このように,胚乳におけるゲノムインプリンティングが胚乳発生の分子機構や生殖的隔離に関与していることが徐々に明らかになりつつある.しかしながら,植物のゲノムインプリンティング研究は急速に進んでいるものの,シロイヌナズナにおける知見がほとんどでイネなどの作物については,ほとんど明らかにされていない.本総説では,シロイヌナズナで明らかとなったゲノムインプリンティング研究の成果とともに,イネやトウモロコシにおける研究状況を紹介する.

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© 2010 日本植物形態学会
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